『九条の大罪』がNetflix実写ドラマ化
『闇金ウシジマくん』(2004-2019) などで知られる真鍋昌平の漫画をNetflixで実写ドラマ化した『九条の大罪』が2026年4月2日(木) より配信を開始した。2020年から「ビッグコミックスピリッツ」で連載され、ドラマ版配信時点でも連載が続いている本作は、どんな形で実写化されたのだろうか。
今回は、Netflixドラマ『九条の大罪』を、特にラストの展開についてネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容はドラマの結末までのネタバレを含むため、必ずNetflixで本編を視聴してから読んでいただきたい。
また、本作は性的な内容、性的虐待、動物虐待、高齢者虐待、薬物、自殺、自傷が描かれており、以下の内容でもそれに触れているのでご注意を。
以下の内容は、ドラマ『九条の大罪』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
Netflixドラマ『九条の大罪』ネタバレ解説&考察
弁護士・九条間人と烏丸真司
ドラマ『九条の大罪』で描かれるのは、柳楽優弥演じる弁護士・九条間人(くじょう・たいざ)が半グレや裏社会の人間の弁護を受けていくという物語。松村北斗演じる烏丸真司(からすま・しんじ)が法律事務所に雇われて働くアシスタントの弁護士、通称「イソ弁(居候弁護士)」として九条のもとにやって来るところからストーリーは始まる。
この幕開けがいきなりドラマオリジナルの設定で、原作漫画では烏丸は第1話の時点ですでに九条のもとで働いており、九条のやり方や道理を理解している。元は東大法学部を主席で卒業しており、クールなアシスタントという印象を受ける漫画版に対し、実写ドラマ版では烏丸の立ち位置が作品全体の鍵になる。
弁護士・九条間人は、「弁護士が守れるのは依頼人だけ」「誰かを助ければ誰かを不幸にする」など、独特な価値観を持ち、来るもの拒まずで依頼人第一の弁護を行う。池田エライザが演じる、犯罪者を見守るNPO法人の代表・薬師前仁美から九条の事務所を紹介された烏丸は、社会通念上の倫理を問わない九条のやり方に若干引きつつも、九条に魅力を感じていく。
Netflixの実写ドラマ版『九条の大罪』が工夫されていた点は、烏丸に視聴者の感情を代弁する役割を担わせていたことだ。原作では九条とあまり変わらないポーカーフェースで仕事をこなしていく烏丸だが、ドラマ版では「新入り」に設定されたことで、驚きや苛立ち、怒りや疑問を率直に表現するキャラクターとなり、松村北斗の好演もあって、エグ味のあるストーリーを視聴者と伴走する役割を果たしていた。
ちなみにめちゃくちゃ余談だが、九条、烏丸、薬師前、壬生、嵐山、亀岡といった『九条の大罪』のメインキャラクターの名前は京都の地名から取られている。
「片足の値段」のオリジナル要素は?
ドラマ『九条の大罪』で取り上げられたのは、飲酒運転およびひき逃げの犯人を弁護する「片足の値段」、金本に支配される曽我部を弁護する「弱者の一分」、介護施設の不正を暴く「家族の距離」、性搾取と笠置雫の物語「消費の産物」、嵐山の刑事が追う10年前の事件を描く「事件の真相」、そして九条が追い詰められていく「暴力の連鎖」だ。原作漫画の「愚者の偶像」を飛ばしてはいるものの、ストーリー自体はほとんど原作に忠実にドラマ化されている。
原作漫画との最大の違いは、烏丸と共に九条間人もまた人間的な側面が強調して描かれている点だ。「片足の値段」ではひき逃げ犯の森田が事故の前に被害者が心臓発作を起こして死亡していたことを証明し、執行猶予を勝ち取ったが、九条は薬師前に依頼して被害者に保険金を出し渋った保険会社を訴えるよう提案している。
原作漫画では、かなり後になってからこの九条の取り計らいが明らかになる。ドラマ版では九条のやり方に納得がいっていない烏丸が事故で足を失った少年の姿を見に行った際に、薬師前が九条の代わりに被害者の母に九条の恩師である流木弁護士を紹介すると伝える場面に遭遇している。
また、弁護士をつけずにわずかな保険金しか得られなかった被害者家族を見て九条が発する「無知は罪です」という言葉に烏丸が食い下がるのも、ドラマオリジナルの要素だ。さらに、「依頼人を守れば、その相手を不幸にする。我々弁護士は常にその罪を背負って生きていかなければならない」というセリフもオリジナル要素で、九条が感じている罪の意識や葛藤がより分かりやすく提示されている。
また、第1話のラストでは、烏丸は18年前に傍聴した、父が殺された事件の裁判で、被告人も被害者の理由や心情が理解できない中で、法律だけが機能していて明確だったとして、法律を知ることで生きる意味を探求することにしたと、弁護士になった理由を明かす。烏丸はその裁判の検事を担当していた鞍馬の息子で、裁判直後に被告への死刑判決に納得いかない様子を見せていた九条に関心を抱き、九条のもとへやって来たのだという。
このくだりは漫画版ではもう少し先で紹介されるのだが、ドラマ版では早々に二人の少年期からの繋がりを提示することで、二人の関係がグッと近づく演出になっている。こうしてドラマ『九条の大罪』は、九条先生と烏丸のバディものとして展開していくことになる。
希望を映した「弱者の一分」
現代社会が抱える闇を浮き彫りにする点も『九条の大罪』の特徴の一つだ。第2話と第3話で描かれる「弱者の一分」では、ビスケットブラザーズの原田泰雅演じる半グレの金本が、黒崎煌代演じる曽我部聡太に罪を着せては使いっ走りとして支配する、異様な関係性が題材になる。
曽我部は金本の身代わりで刑務所に6年間入ったが、出所後また金本のもとに戻って大麻の配達をさせられていた。曽我部はまたもコカインの所持について、配達を指示した金本の罪を被ることを迫られる。
曽我部と金本の関係は二人の父の代から同じで、曽我部自身の責任ではない負の連鎖から逃れることができなくなっていた。薬師前も烏丸も曽我部を救いたいと考え、真実を自供することを求めるが、九条は曽我部がいる世界にはその世界の道理があることを指摘し、曽我部に金本の罪を被るよう指示をする。
金本との面会で「卑怯で姑息な人間」と烏丸が怒りを見せるシーンはドラマオリジナルで、いわゆる“胸糞”な展開が続いていく。だが九条には、金本との関連性が薄れればコカインの所持は営利目的ではなく単純所持と見られ、前科がある曽我部の刑は軽くなるという理論的な見立てがあった。
加えて、曽我部が金本のことをうたって(チクって)外に出ても、いずれ金本やその仲間に殺されるということまで九条は見据えていた。そうして曽我部の命を救った九条だったが、「人生の世話はできない」という考えは原作通りだ。
しかし、ドラマ版『九条の大罪』が異なるのは、烏丸が「僕のやり方で救います」と言い、曽我部の父に会いに行く点だ。漫画版では父が烏丸の人生の枷となっている刺青を消したという話は薬師前が曽我部に伝えるだけだが、ドラマでは烏丸が曽我部の父のもとへ出向き、曽我部の出所後に一緒に住んであげてほしいと依頼、さらに入れ墨を消さないかと持ちかけている。
この「入れ墨」というのは比喩で、社会で生きていく上の「烙印」や「スティグマ(恥)」に置き換えることができる。“そういう生まれ”であり、“そういう人生”だという烙印から解放された時、曽我部は前を向いて生きられるようになる。
さらにドラマオリジナルの要素として、曽我部のトラウマであった、運動会で母が俯いていたという記憶も、父によって否定される。母は頑張る曽我部を見て泣いていたから下を向いていたのだと知らされるのだ。これは漫画版にはなかった展開で、ドラマではより希望のあるストーリーになっている。
そして、曽我部は金本が繋がっていた伏見組のコカイン密輸を警察に密告。金本は密告の罪を着せられて消されることになった。これで曽我部は外に出ても金本に復讐されることはない。原作通りの展開だが、密告に至った背景に、烏丸が弁護外で被疑者の父に会いに行くという行動をとったという件があったため、九条の「人生の世話はできない」という考えに一矢報いる形になっている。だから九条は烏丸に「救えたじゃないですか」と声をかけるのだ。
補足としては、原作漫画では曽我部には知的障害があることに触れられており、それを利用して搾取・支配する人間がいるという社会の闇が描かれている。ドラマ版では、このエピソードに限らず、各要素の描写はソフトになっている印象だ。
壬生が光る「家族の距離」
これらの事件の当事者と繋がりを持ち、九条に弁護の依頼を行なうキーパーソンが、町田啓太演じる壬生憲剛(みぶ・けんご)だ。表向きは堅気の商売をしているが、伏見組と繋がり勢力を拡大している壬生を警察は疑い、九条にも警戒の目を向けることになる。
原作漫画でも人気の壬生を、Netflix映画『10DANCE』で竹内涼真とダブル主演を務めた町田啓太が演じているのだが、この新解釈・壬生が結構良い。原作のムキムキ感や、施設の買収などビスネスをゴリゴリ広げていく壬生の雰囲気はなくなっている一方で、犬を飼うことについて九条に釘を刺すなど、犬好きの側面がより強調されたこともあって愛すべきキャラクターに仕上がっている。
ドラマ『九条の大罪』の終盤では、反社との付き合いを深めていく九条を心配した烏丸が、一人で壬生のもとを訪れ、九条から離れるよう告げるオリジナルの展開も。壬生と烏丸が表と裏から九条を取り合う姿が良くて、ドラマでは烏丸が主体的であるが故に、壬生がそのライバル的な存在として機能するという意外な効用も生まれている。
そんな壬生の策士ぶりが披露されるのが、介護施設の不正を暴く第4話と第5話の「家族の距離」だ。ドラマ『九条の大罪』シーズン1は、全体を通して「家族」というテーマが強調されており、「家族の距離」も九条を息子のように可愛がるベテラン弁護士の山城と九条が対決するエピソードだ。一方で壬生は戦略的に動いており、後藤剛範演じる半グレで介護施設の運営会社社長・菅原遼馬を追い込んでいく。
菅原は山城と組んで、認知症が進んだ施設入居者の老人に、遺産4億円を全額介護施設の運営会社に寄付すると遺書を書かせていた。九条はその娘である家守華江の依頼を受けて、遺産を取り戻すために動き出す。
山城側の証拠は鉄壁で、遺書を書いている場面の動画も撮影されており、認知機能に問題はなかったという診断書も身内の医者に出させることができる。だが、九条は「戦わずして勝つことが大事」という恩師・山城の教えを守って勝利することになる。
壬生は右腕の久我を菅原の施設にスパイとして送り込んでおり、そこで手に入れた入居者への虐待の証拠動画を九条に渡す。九条は烏丸経由でそれを東栄新聞の市田にリークすることで山城を追い込み、結果4億円を返金するという示談案を勝ち取ることに成功したのだった。
ドラマ『九条の大罪』では、このエピソードに限っては壬生経由の依頼ではなく、九条が受けた依頼に対して壬生が協力する形になっている。つまり、九条が裏社会と持ちつ持たれつの関係になっていく重要なエピソードでもある。
なお、このエピソードは、原作漫画でも珍しく九条の人間味が出るエピソードで、ラストでは一人で介護を続けてきた依頼人に「家守さんは頑張りました」と声をかけてやる。この展開は原作通りだが、ドラマでは烏丸が曽我部の父に会いに行ったエピソードが挿入されているため、「人生は支えられない」と言っていたはずの九条が烏丸の影響を受けて、依頼外の「(良い意味での)おせっかい」を家守に行ったように見える。
そして壬生のおかげで山城を下した九条は、今度は壬生からムロツヨシ演じる伏見組の若頭・京極清志の弁護の依頼を受けることになる。烏丸は京極の弁護は流石に危険だと忠告し、壬生もまたかつて京極に忠誠心を見せるために飼っていた犬を殺すよう命令されたと明かすのだった。
『九条の大罪』の恐ろしいところは、各ケースが最善の形で決着しながらも、ゆっくりと、だが着実に主人公の九条間人が闇社会の沼にハマっていくところである。
雫と亀岡を接見させた「消費の産物」
第6話・第7話の「消費の産物」と、第8話・第9話の「事件の真相」では、その帰結が描かれる。京極が世話をしている会長、シソンヌの長谷川忍演じる小山が運営するアダルトビデオメーカーが出演強要で訴えられたという件が発端となり、九条の周辺は慌ただしくなっていく。
「消費の産物」のテーマの一つは性的消費および搾取で、香椎由宇演じる、九条の大学時代の同期の人権派弁護士・亀岡麗子が登場。出演強要訴訟では敵対する弁護士として登場しながらも、笠置雫が起こした事件では九条と心を通わせる場面も描かれる。
このテーマについての考察は長くなるので別の機会に譲ることにするが、烏丸は亀岡の「強者の悪人に仕えたら、いずれ飲み込まれる」という九条への忠告に同意。さらに薬師前からも悪人を助ける九条の片棒を担いでいるように見えると心配され、徐々に烏丸の気持ちが変化し始める。
一方、同エピソードの依頼人になる笠置雫は、演じた石川瑠華がハマり役。児山隆監督の映画『猿楽町で会いましょう』(2019) の主人公ユカ役でも好演を見せた石川瑠華だが、修斗にハマる前とデビュー後、そして転落後の姿を見事に演じている。
転落した雫は売春を紹介され、クスリに手を染めるようになると、親友のムーちゃんが修斗と一緒に歩いているのを見かけて修斗を殺害。殺人容疑で逮捕され、路上で名刺を受け取っていた九条に弁護を依頼することになる。
情状酌量で短期刑になることを目指す九条は、一日一日を生き抜くために雫の話し相手になる。ドラマのオリジナル展開としては、亀岡弁護士が雫の面会に行き、「自分のやりたい道を見つけて」と言葉をかけるのだが、雫は「違う世界で生きてきた先生にはわからない」と拒絶するという場面がある。
亀岡は九条に自身の過去を明かし、地元で遊んでいた双子の妹のせいで自分も男性から変な目で見られてきたという経験を明かす。口を挟まず話を聞く九条の姿を見て、亀岡は九条にこそ雫を救うことができると確信することになる。
亀岡が雫の面会に行ったこと以外は原作通りの展開なのだが、ここまで観ていると、ドラマ版ではそれぞれのキャラクターの行動の動機が説得力のある形で肉付けされているように思える。烏丸と父に背中を押された曽我部、烏丸から影響を受けた九条、雫に否定された亀岡、それぞれが理にかなった変化を見せている。ちなみに「あなたも人権派弁護士だったのね」という亀岡のセリフもドラマオリジナルだ。
拘禁3年という短期刑となった雫に、九条は出所した時に居場所がなければ事務所に来るように助言。さらに、娘に贈りたい本として『モモ』と『星の王子さま』、烏丸から『はじめての六法』を差し入れする。烏丸からの差し入れは原作になかった要素だ(代わりに九条が差し入れする『どろぼうの神様』がなくなっている)。亀岡に対して自分は弁護士にはなれないと雫が言っていたのを聞き、烏丸は父から贈られた私物の『はじめての六法』を雫に差し入れたのだろう。優しい世界だ。
一方で、雫を虐待し、あげくアダルトビデオメーカーから未成年の出演強要として賠償金をせしめていた外畠は、小山から依頼を受けた京極の指示で壬生が制裁を加える。女優としての雫を潰したことへの報復だという。そして、ここまで全てのケースで、壬生が法で裁かれなかった加害者に制裁を加えている。ある意味でダークヒーローである。
烏丸と壬生がぶつかる「事件の真相」
だが、第8話と第9話の「事件の真相」を経て、壬生と九条、そして烏丸にも捜査が及ぶことになる。10年前、嵐山刑事の娘・愛美を殺した犬飼勇人が出所、犬飼の同郷の先輩である壬生、その元締めである京極を恨む嵐山刑事は、愛美の命日に遺品のスマホのロックが解除されたことをきっかけに、捜査を進めていく。
娘・愛美の旧友・美穂から自分が知らなかった娘の顔やSNSのウラ垢を教えてもらうと、自分が父としてSOSを出していた愛美に何もしてやれなかったということを知る。そして、娘の愛美がアダルトビデオメーカーの社長・小山の愛人だったこと、小山は愛人に売春をさせていたという事実に突き当たる。
小山はヤクザである京極に自分の名義で借りたホテルを使わせていたとして、詐欺罪で別件逮捕。九条は京極から小山の弁護を依頼されることになる。小山が、愛美が妊娠した後に中絶させたと明かし、九条が「その言い方は気に食わない」と反発する展開は原作通りだが、ドラマではより九条の怒りの感情が伝わる演出になっている。
先に触れたが、このエピソードで注目すべきオリジナル展開は、烏丸が壬生のもとを一人で訪ねるシーンだ。嵐山の娘が殺された件に関わっているならすぐに九条から離れてくれと言う烏丸に対し、壬生も九条先生が必要だと食い下がるのだ。
壬生と烏丸が九条を取り合う熱い展開なのだが、一方で壬生は「あんたがなれよ、九条先生みたいな弁護士に」と挑発する。この辺りは“壬生”の解釈が素晴らしく、ストイックかつ人の扱いに長けている壬生らしい言動になっている。
そして壬生は、離れるかどうかは九条先生自身が決めることと、“最後は本人が決める”という九条の信念をそのまま烏丸に伝え展開も熱い。一方の烏丸は、九条先生が烏丸を苦しめているという、仙道敦子演じる母・晃子からの指摘も経て(これもドラマオリジナルだ)、九条に依頼人は選ぶべきと言うようになる。
しかし、九条はその矢先に京極から呼び出されると、服役中の伏見組組長の面会に行ってほしいと依頼される。九条には伏見組の系列組織からも依頼が来るようになり、烏丸は組長の依頼が断れないなら一緒にいれないと告げて、最終回を迎えることになる。
Netflixドラマ『九条の大罪』ラストをネタバレ解説&考察
壬生の策
原作漫画では第6巻の途中から「愚者の偶像」というエピソードに入るのだが、ドラマ『九条の大罪』の最終回第8話では内容的には第6巻から第8巻まで飛んで、「暴力の連鎖」というエピソードが描かれる。
ここでキーキャラクターとなるのが、10年前に嵐山刑事の娘を殺し、刑期を終えて出所してきた犬飼だ。犬飼は「家族の距離」で介護施設のオーナーとして登場した菅原の下に付き、壬生への復讐を誓っていた。
犬飼の主張は、10年前に小山が愛人だった嵐山の娘の口封じを京極に依頼し、京極からの指示で壬生が未成年だった犬飼たちを使って殺しをさせたというもの。介護施設の件で壬生を恨んでいる菅原は犬飼と組み、久我を人質に3億円を一週間で用意するよう壬生に要求したのだった。
壬生は、京極から間に入って面倒を見ると申し出られるが、自分で始末をつけると拒否。菅原の本拠地に乗り込むと、菅原の手下が反旗を翻し、壬生は菅原と犬飼の制圧に成功する。そして壬生は、京極に挑むために半グレを結束させることを試みる。
菅原の手下たちは「菅原 vs 壬生」の構図で単に壬生に寝返ったわけではなく、菅原が壬生に付くことで「vs 京極」への道筋がつくという未来を事前に提示され、壬生の案に乗ったのだろうか。あるいは久我のように、用意周到に菅原のもとにスパイを何人も送り込んでいたということもあり得る。
これは原作通りだが、菅原を制圧した上で、「もっと大きな影響力を持つために菅原さんが必要だ」「仲間になってくれ」とリクルートする壬生のやり方は痺れる。さらに犬飼には、「怒りの矛先を間違えるな」として、現時点で自分たちはお互いに京極の犬だと認め、力を貸すよう告げる。相手のプライドを尊重しながら、より大きな視点で連帯を実現する、壬生のハイライトが見事に実写化されている。
烏丸の母というキーキャラクター
一方、ドラマ『九条の大罪』最終回第8話は、短くない時間が九条と烏丸の対話に割かれる。九条は自分の「間人(たいざ)」という名前が「人間」という字をひっくり返したものだと明かす。この設定は原作(既刊の15巻まで)では触れられておらず、原作者の真鍋昌平がインタビューなどで語っているコンセプトだ。
ひっくり帰った人間とカラスのコンビ。犬のブラックサンダーを飼うと決めた時には、九条は烏丸に「もう家族みたいなもんじゃないですか」とじゃれていたが、二人が出会った時と比べると、すっかり兄弟のようになっている。
それでも、烏丸は九条の事務所を辞め、流木の事務所へ移籍することになる。烏丸は流木に、至高の検事がいたとしたら、九条先生はパクられるのでは? と問いかける。その後に映し出されるのは、生田斗真演じる九条の兄・鞍馬蔵人である。
九条の兄は東京地検の検事で、エリートコースを邁進している。九条を一族の恥だと罵るなど、反社の弁護を務める九条を敵視している。なお、「至高の検事」というワードは、ドラマ版で「暴力の連鎖」としてまとめられているエピソードのうちの、一部の原作タイトルである。
そして、完全にドラマオリジナルなのが一度九条に会いたいと言っていた母のために、烏丸が九条を実家に連れ行くシーンだ。そもそも毎話のように烏丸と母との会話が挿入される展開自体が原作にはないもので、ドラマでは烏丸の母もキーキャラクターになっている。
母がかつて殺された夫について触れると、烏丸が母の顔を見て表情を確認する仕草が妙にリアル。そんな中、九条は、高1の時に亡くなった母は、人の役に立って欲しいと言っており、無能な自分でも人の役に立ち、誰かを助けることをやり切るしかないと考えて弁護士をやっていると説明。烏丸の母は「あなたが選んだ道なら全力で応援します」とお母さんは言うと思うと背中を押している。
実は『九条の大罪』では、“母”は曽我部のように不在であったり、雫のように無関心であったり、物語に“正”の力を及ぼすことは少ない。だが、ドラマ『九条の大罪』では、このシーンも含めて、烏丸の母が不安定ながらも積極的な役割を担っていることが分かる。
再登場したアイツは?
そんな中、街角で森田が逮捕される。森田とは、第1話「片足の値段」で飲酒運転及びひき逃げで九条に助けられたチンピラだ。九条の兄・鞍馬が記者の市田にリークしていた、①九条の依頼人で執行猶予中の男がクスリで再逮捕されて嵐山の元に送られた、②嵐山は娘が殺された件のバックには伏見組がいると見て、③嵐山は伏見組を潰すために九条弁護士を追っている、という内容の①が森田逮捕の情報に当たる。
森田はひき逃げ事件の際に、スマホを九条の事務所に預け、アプリゲームの履歴を隠蔽することでよそ見運転の疑いを逸らすことに成功していた。嵐山ら刑事は、GPS情報からスマホが九条の事務所にあったことを割り出し、さらに森田の自供を引き出すと、九条による証拠隠滅を確定させる三つ目の要素、第三者からの供述を手に入れるため、烏丸に任意の事情聴取を行ったのだった。
嵐山たちが、かつて被害者遺族だった烏丸家が週刊誌報道によってバッシングに晒された過去を引き合いに出し、烏丸を揺さぶるのは原作になかった展開だ。母のもとに通う烏丸の描写が生かされている。
そんな中、壬生のもとには犬飼がさらった人間が京極の息子の京極猛だという情報が届く。犬飼はヤバい人間に手を出してしまったと考え、口封じのために猛を消すことに。最悪に向かって突き進んでいく。なお、京極猛の役は杢代和人が演じている。
九条も九条で、九条によるスマホの隠蔽指示を自白した森田から、弁護士の変更を告げられる。九条は、娘の誕生日である8月15日に娘と会う約束をしていたが、その反面、状況はどんどん悪化していく。
ラストの意味は?
ドラマ『九条の大罪』のラストシーンは、九条と烏丸が屋上でコーヒーを飲むシーンだ。烏丸は、嵐山が壬生と京極を狙っており、その狙いの中に九条も入っていると警告。しかし、九条は「どんな人間にも法律だけは平等」として、弁護士としての責務を果たそうとする。
九条がしているのは「法」と「責務」の話だが、烏丸がしているのは「心」の話だ。九条がかつての母と同じ目をしていて、心が壊れずにやっていけるか、と烏丸は心配するのだが、九条は「正直怖い」と人間的な側面を見せつつもなぜ裏社会の人間の弁護を引き受けるのかを説明する。
九条は、法律では人の命は守れないから、弱い人たちの命を守るとしたら、それを脅かす悪人たちを含めた弱肉強食の生態系の中に踏み込んでいくしかない、と考えていた。弁護士が誰かを助ければ誰かを不幸にする。ならば自分がその罪を背負おうと思ったというのだ。
この考えは、「法律は命までは守れない」という原作漫画での九条の諦観の後に、「だから私はこうする」という積極的な考えと行動を付与するものだ。「自分がその罪を背負う」ところまで含めて、九条に力強いヒーロー性を与えている。
九条は、烏丸の母の言葉を引用し、「死の瞬間にこそ、その人の生き様が出る」と、このまま裏社会に足を踏み入れた仕事のやり方を変えないと宣言する。「この生き方を私が選んだんです」という言葉は、作中で依頼人について「最後は本人が決めること」と繰り返していた九条間人だから説得力がある。
そして烏丸は、今の九条に烏丸は必要かと尋ねると、九条は「必要ありません」と答え、烏丸は決心したように九条に「お世話になりました」と礼を言って立ち去るのだった。九条は、これ以上烏丸を巻き込むべきではないと考えたのだろう。
一方の烏丸の原動力は「九条が心配」という点にあり、「必要だ」と言ってくれれば残るつもりだったのかもしれない。立ち去る烏丸の瞳が切ない……。二人が別れる一方、京極たちは懸命に猛を探し回り、猛を捕える犬飼のチェーンソーが血飛沫をあげ、ドラマ『九条の大罪』シーズン1は、幕を閉じている。
Netflixドラマ『九条の大罪』ネタバレ感想&考察
ドラマならではの魅力
ということで、なんとも意外なところで幕を閉じた実写ドラマ版『九条の大罪』。どう考えてもシーズン2がないと視聴者的には困ってしまうが、まずは実写化の感想を記して、その後に原作漫画のどこまでが映像化されたのかを見ていこう。
実写版『九条の大罪』は、制作にTBSが入っていると言うこともあり、音楽の使い方なども含めて「大人のTBSドラマ」という感じで楽しむことができた。本作は16歳以上対象の作品となっているが、原作漫画よりも各要素はマイルドになっていたこと、クールなキャラクターたちが感情移入できる人物になっていたことで、多くの視聴者にとって見やすい作品になっていたのではないだろうか。
特に、主人公の九条間人については、原作ではやや超人的なカリスマ性もあったが、ドラマ版では烏丸の人間らしさにも影響を受ける柔軟性があった(烏丸の実家にまで行っちゃうなんて)。その「人間・九条」を描くには柳楽優弥というキャストの人選はパーフェクトだったように思うし、ちょっとメンヘラチックで後を追いかけてくる烏丸役として松村北斗という人選も完璧だったように思う。
特に松村北斗は映画『ファーストキス 1ST KISS』(2025) や実写版『秒速5センチメートル』(2025) で見せた“女性との関係で揺れた末に反省する男性”の姿とは全く違う、“母と男のことが心配で仕方がない男の子”を見事に演じていた。“男×男”のストーリーでの演技もいけるとあらば、今後も俳優として引く手数多だろう。
追いかける烏丸に対し、九条は待つ。路上でへたり込んでいた雫にも名刺を渡して、「いつでもどうぞ」とだけ声をかける。アダルトビデオへの出演についても「続けるも辞めるも最終的には本人の意思です」と言い切る。
烏丸は、少年時代に裁判所で見かけた九条の事務所に雇ってもらいに行く。九条を危険に晒す壬生のところまで「九条先生から離れろ」と言いに行く。そこに盗聴器を置いていく。二人は真逆だ。
なのに九条は、烏丸が曽我部の人生を救った様子を見た後、介護施設のケースでは、「お父さんはあなたに感謝していたはず。家守さんは頑張りました」と自分の“主観”を伝えに行った。この二人のケミストリーが実写版『九条の大罪』では非常にうまく描かれており、ドラマ版最大の魅力の一つになっている。
なお、漫画版の九条は、他者の感情を理解するのが難しく、感情の起伏がほとんどないという特性を持っていることが見受けられるが、ドラマ版ではその要素がほとんどなくなっている。この変更は、今後の展開にも影響を及ぼすものと思われるので注目したい。
『九条の大罪』特有の魅力とは
『九条の大罪』の面白いところは、弁護士を主人公としたリーガルものでありながら、依頼人が主に裏社会の人々であることによって、すべてのエピソードが繋がっていくという点だ。依頼人を連れてきながら、“処刑人”としての仕事も果たす壬生の存在も大きい。
例えば、一般の人ならば、逮捕されて弁護士にお世話になるという経験を一度もせずに生涯を終える人は多いだろう。リーガルものが1話完結のドラマにしやすいのは、一つの裁判が終われば次の物語に進めるからだ。
だが、裏社会で生きる人たち/生きざるを得ない人たちは、一つのケースが終わってもそこに滞留し続け、負の連鎖を断ち切ることができず、また事件を起こしたり犯罪に巻き込まれたりすることになる。ドラマ版では九条が繰り返し「まだ終わっていない」と口にしていたが、森田のように、過去の事件に絡んだ人物も繰り返し登場するのが『九条の大罪』の特徴である。
九条の依頼人たちが滞留していく一方で、九条は気づけば身動きが取れないほどに裏社会に浸かってしまっているという展開もリアルだ。ドラマ版では九条が自らその道を選んだと強調されていたことも印象的だった。
壬生と菅原が組むというのは原作でも胸熱な展開で、菅原役の後藤剛範の好演も光っていた。菅原には、「絞るだけ取って死にかけのこの国を捨てる」というビジョンがあったが、各人の思想も『九条の大罪』の見どころの一つだ。今回はあまり口数が多くなかった壬生の思想も今後語られることになるだだろうか。
シーズン2はどうなる?
となると、やはり気になるのは、Netflixドラマ『九条の大罪』に続編はあるのかどうかという点だ。2025年11月に配信されたNetflixドラマ『イクサガミ』と同じく、『九条の大罪』は続きそうなラストでありながら、配信開始時点ではシーズン2は発表されていない。『イクサガミ』は配信翌月の12月にシーズン2への更新が発表されており、『九条の大罪』も視聴数次第で更新の判断が下されるということなのだろう。
ドラマ『九条の大罪』シーズン1で扱われたエピソードは、原作漫画でいうところの「片足の値段」「弱者の一分」「家族の距離」「消費の産物」「事件の真相」、そして「暴力の連鎖」の冒頭部分だ。原作では、8巻から「暴力の連鎖」が始まり、11巻で新章が始まる。つまり、ドラマ『九条の大罪』シーズン1は、原作の“第1章のクライマックスの冒頭”で終わってしまったことになる。
ドラマのラストの状況をおさらいすると、九条は森田の件での証拠隠滅を疑われている状況で、かつ烏丸を失い孤立している。警察側はこれを機に10年前の嵐山の娘の殺害事件について、首謀者である小山、依頼を受けた京極、実行犯に指示をした壬生(すべて警察の想定)、そしてこの機に反社の“守護神”となった九条をしょっぴきたいと考えている。
裏社会の方は、小山はホテルの部屋を京極に貸した詐欺罪で逮捕され、京極は息子が行方不明、壬生は傘下に入れた犬飼が京極の息子を何者かの依頼で拉致してしまった、という状況。うーん、こうして整理するとやはり何も片付いていない……が、烏丸が九条の事務所に入ってから去るまでの物語と考えれば一つの区切りになるのだろうか。
なお、原作の6巻途中から8巻冒頭までのエピソード「愚者の偶像」は、ドラマ版では飛ばされている。このエピソードはどちらかというと壬生と壬生の関係者がメインになる話なので、烏丸を準主人公に置いたドラマでは扱いづらかったのかもしれない。もちろん話自体は面白いし、壬生の魅力的な側面も描かれるので、シーズン2で扱われる可能性もあるだろう。
順当にいけば、シーズン2は原作漫画第8巻の途中から描かれることになりそうだ。漫画『九条の大罪』はドラマ版の配信開始時点でも連載が続いており、第16巻が刊行されたばかり。そのままドラマも新章に突入すれば、大病院や大麻畑を巡る事件、伏見組の新たな実力者たちの登場など、魅力的なストーリーがまだまだ描かれることになる。
同じく漫画からNetflixで実写ドラマ化された『今際の国のアリス』は、原作のストーリーを2シーズンで描き切り、シーズン3ではその後を描くオリジナルエピソードが展開された。ドラマ『九条の大罪』については、長期シリーズ化にも期待して続報を待とう。
ドラマ『九条の大罪』はNetflixで独占配信中。
真鍋昌平による原作漫画はビッグコミックスより発売中。
ドラマの続きは8巻の途中から描かれる。
最新刊の第16巻は2026年4月2日より発売中。
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