『バケモノの子』ネタバレ解説&感想 ラストの意味は? 九太と一郎彦、『おおかみこどもの雨と雪』との違いを考察 | VG+ (バゴプラ)

『バケモノの子』ネタバレ解説&感想 ラストの意味は? 九太と一郎彦、『おおかみこどもの雨と雪』との違いを考察

©️2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

2015年公開の『バケモノの子』

映画『バケモノの子』は2015年に公開された細田守監督の『サマーウォーズ』(2009)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012) に続くオリジナル映画第3弾。同監督が父と子の姿を描いた物語として知られている。

今回は、映画『バケモノの子』をラストの展開を中心にネタバレありで解説し感想を記していこう。以下の内容は結末のネタバレを含むので、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『バケモノの子』の内容に関するネタバレを含みます。

『バケモノの子』ネタバレ解説

バケモノ達を演じた声優陣に注目

映画『バケモノの子』では、9歳の少年・蓮が片親の母を亡くして親戚に引き取られるところから幕をあける。養子に行くことを拒否したは渋谷の街をさまよい、バケモノの熊徹と出会うと、バケモノの世界である「渋天街」に迷い込んでしまう。

蓮の特徴は、孤独から一人で生きていくための強さを追い求めているということだ。冒頭の親族とのやり取りでは、本家が蓮の後継人となること、蓮は唯一の男子なので大事な跡取りであることに触れられており、現代ではあまり見ないかなり保守的な一族に引き取られそうになっていることが分かる。

幼少期の蓮の声を演じたのは宮崎あおい。細田守監督の前作『おおかみこどもの雨と雪』では主人公の花の声を演じている。熊徹の声を担当した役所広司は、その後の細田守監督作品でも、『未来のミライ』(2018)、『竜とそばかすの姫』(2021) に出演し、2025年公開の『果てしなきスカーレット』にも主人公の宿敵クローディアス役で出演している。

バケモノたちが暮らす渋天街は、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(2001) の異世界のようで、しっかり子どもの目線のカメラワークも取り入れられている。渋谷に戻る道を閉ざされてしまった蓮は、長老の宗師から弟子を取るように言われていた熊徹に弟子入りし、住み込みで修行に臨むことになる。

ポイントは、熊徹にとっても弟子を取ることが宗師の後継者になるために必要なプロセスだったという点だ。単なる善意ではなく、利己心や野心、ライバルの猪王山へのライバル心など、師となる側の都合も踏まえた奇妙な師弟関係がスタートする。

蓮は「九太」という名前を与えられ、熊徹の友人である多々良百秋坊が見守る中修行を積んでいく。多々良役の大泉洋、百秋坊役のリリー・フランキーの演技が絶妙で、それぞれ違う形で九太に寄り添う二人の姿が良い。

九太が熊徹、多々良、百秋坊と修行の旅に出るシーンは「西遊記」のオマージュだ。九太は三蔵法師、熊徹は孫悟空、多々良は猪八戒、百秋坊は沙悟浄に対応している。この旅の中で九太は「強さ」にも様々な種類があることを知る。幻を作り出すこと、勝てぬものもあると知ること、現実を超越すること、世のあらゆるものを味わうこと……。

師弟としての熊徹と九太

師匠となった熊徹だが、熊徹には親も師匠もおらず、それが強さであり、弱さでもあった。一人で強くなれる独創性を持ちながら、教え方が分からないのだ。自分なら師匠にどうしてほしかったを考えろという多々良からの助言を受け、熊徹は九太に干渉し過ぎず、九太との生活を共にすることになる。

一方の九太は「なりきる」という亡き母からの助言の声を聞き、熊徹から“見て盗む”ことで学んでいく。相手に合わせることが得意という特性を活かし、熊徹の動きを完全に把握し、熊徹と渡り合えるようになるのだ。

九太はそのコツを熊徹に教え、熊徹は代わりに武術を教える。師弟の関係でありながら、師匠の熊徹もまた学んで成長していくのである。そうして歳月を重ね、17歳になった九太の声を演じるのは染谷将太。『おおかみこどもの雨と雪』では田辺先生役で出演し、その後も『竜とそばかすの姫』に出演、2025年公開の『果てしなきスカーレット』では役所広司演じるクローディアスの家来ギルデンスターンの声を担当している。

ある時、食事のスピードでも熊徹を上回った九太はついに渋谷に帰ることができた。修行は積んだものの小学校に行っておらず、字が読めなかった九太は図書館で出会った楓に読み方を教えてもらうことに。この時、九太が読んでいたのはメルヴィルの『白鯨』だ。クジラは『サマーウォーズ』のネット空間の守護者であるジョンとヨーコなど、細田守作品の重要なモチーフである。

そして、九太は『おおかみこどもの雨と雪』でおおかみにんげんとして生まれた雨と雪のように、二つの世界を跨いで生きるようになる。そんな中、九太は楓に大学に行くことを勧められる。ちなみに楓の声を演じたのは広瀬すずで、本作が声優初挑戦だった。

高卒認定試験を受けるために役所の手続きを進める中で、九太は父親の現住所を知ることになる。そして父と再会を果たすのだが、人間の世界に戻ろうとする九太を叱責した熊徹と喧嘩になり、人間界へ戻るのだが、そこでも優しさを見せる父と喧嘩になってしまう。

かつて人間に感じた「大嫌い」という気持ち、心の闇が首をもたげる。バケモノの子として育ってきた九太は、初めてその闇について人に打ち明けると、楓もまた同じく闇を抱えていると明かす。この辺りはやはり、女性キャラに叱ってもらい受け入れてもらうことで男子の主人公が成長するという、日本アニメ映画にありがちな展開となっている。

『バケモノの子』ラストをネタバレ解説

九太と一郎彦を分けたもの

九太は渋天街に戻ると、そこでは宗師の後継者を決める試合が開催されることになっていた。熊徹と猪王山の戦いでは、苦戦する熊徹のために九太がセコンドになり、猪王山にカウンターを入れることで熊徹は勝利する。これは熊徹にはなかった、「相手に合わせる」戦い方だ。

共に闘い勝利したことで和解を果たした二人だったが、猪王山の息子の一郎彦が熊徹を刀で攻撃し、熊徹は重傷を負ってしまう。闇に支配されている一郎彦に対し、九太もまた闇に支配されそうになる。九太はすんでのところで渋谷の路地裏で拾ったチコに止められるも、一郎彦は闇に飲まれて彷徨うことになってしまった。

一郎彦を飲み込んだのは人間の心にのみ宿る闇で、実は一郎彦もまた人間として生まれて猪王山に拾われた身だった。猪王山は一郎彦が人間であることを認めず、バケモノの子であると信じさせようとしたがためにアイデンティティ・クライシスを起こし、九太を「半端者」と否定しながらも自分自身を疑うようになってしまっていた。

一方の九太は、多々良と百秋坊育ててくれたたくさんの人のおかげで一郎彦のようにならずに済んだことに気づいていた。猪王山は一郎彦のことを思って守るように育てていたが、シングルファザーの熊徹に放任気味に育てられた九太は、けれどコミュニティーからのサポートを得ることができていたのだ。

渋谷に戻った九太は楓に『白鯨』を預けようとするが、そこに現れた一郎彦が九太を吹き飛ばした後、『白鯨』を拾って巨大なクジラと化してしまう。『白鯨』では捕鯨船の船長エイハブがクジラと戦うが、それは自分自身の内面との戦いであると解釈できる物語になっている。『バケモノの子』でクジラになった一郎彦も自分自身と戦っており、同時に九太も自分の中にもある闇と対峙しているのだ。

ラストの意味は?

九太はクジラ=一郎彦の闇を闇を取り込もうとするが、熊徹は、半端者の自分にできることとして、九太の胸の中の足りないものを埋めてやりたいと宋師に申し出る。宋師は神になることができるのだが、熊徹は先程の戦いで勝利したた宋師の継承権を持っている。

そして熊徹は付喪神に転生。付喪神(つくもがみ)とは、霊魂が宿ったもののことで、「九十九神」とも表記する。「九太」の名前にかかっているのだ。付喪神のモチーフが登場したのは、「道具に心が宿る」というコンセプトが、「心が宿っていることが大事」という熊徹が伝えたかったメッセージと重なるからだろう。

つまり、外側だけが強くてもダメで、九太の心の空洞を埋めるものが必要だということだ。熊徹は自らを捧げてその空洞を埋める「胸の中の剣」となったのだ。九太は一郎彦の心の闇を斬ると、一郎彦も自分と同じ、バケモノに育てられたバケモノの子だと言ってやるのだった。この言葉は一郎彦に向けていると同時に、九太が自分自身でそのアイデンティティを決めた言葉でもある。

神となった熊徹は、九太の心の中に生き続けることに。決断力の神になる予定だった宗師は据え置きで渋天街に残っているようだ。楓も渋天街を訪れると、九太は高卒認定試験を受けると自分で決め、父とも和解を果たして共に暮らすことになる。エンディングで流れる曲はMr.Childrenの主題歌『Starting Over』だ。

『バケモノの子』ネタバレ感想&考察

母子から父子の物語へ

映画『バケモノの子』は、前作『おおかみこどもの雨と雪』で母子の物語を描いた細田守監督が挑戦した父と子の物語だった。守り過ぎず、干渉し過ぎず、だが熊徹の友人たちが九太を気にかけてやるというコミュニティーのあり方は理想的で、「母」の存在感を最小限にとどめていた点は、母の役割を絶対とせず、女性に担わせ過ぎないという視点では良い描き方だったように思う。

本作は師弟の物語でもあり、師匠も弟子の姿から学ぶというメッセージもあった。それはつまり親も子の姿から学ぶことがあるということでもある。だが、『バケモノの子』で「父と子」と「師匠と弟子」の関係の境界線を曖昧にしたことで、『おおかみこどもの雨と雪』で母子関係が固定されていた事実も浮き彫りになった感はある。

熊徹には、あくまで自分の利益のために九太の師匠になるという利己心が許されていた。前作で描けなかった親子関係の“幅”を描いたと見ることもできるが、父には子と“父子”以外の関係が作れるのに、母には子と“母子”以外の関係が作れない、という捉え方もできてしまう。

背景には細田守監督の家族観、延いては同監督が世間に広く通用すると考えている家族観が存在していることは確かだ。だが、同監督の親子観については他の作品も含めて考察する必要があるので、今回はこれくらいにしておこう。

細田守監督作品の二元性

また、『バケモノの子』は、現実世界とネット世界を舞台にした『サマーウォーズ』、自然界と人間界を舞台にした『おおかみこどもの雨と雪』に続き、二つの世界を舞台にした作品だった。『バケモノの子』では、最終的には二者択一ではないという結論を導き出している。

同時に、AかBかという二元性が基準で、その間のグラデーションの中で主人公が立ち位置を決めるという話にもなっている。この構図は父と母男と女の二元論で話を進める構図とも重なる。細田守作品が日本で受け入れられてきた背景には、やはり比較的保守的な家族観があったと考えることはできる。

興行が全てではないが、『バケモノの子』は当時細田守監督にとっての最高額となった興行収入58.5億円を記録した。新海誠監督が一般層に受ける恋愛を描ける監督だとすれば、一般層に受ける家族の物語を描けるというのが細田守監督の強みなのだろう。

そうして日本の家族観を描き続けてきた細田守監督の最新作『果てしなきスカーレット』では、どんな物語が描かれるのか。宮崎駿監督のように海外でも大ヒットを記録することになるのか、その行方にも注目しよう。

映画『バケモノの子』はBlu-rayが発売中。

バップ
¥2,709 (2026/01/10 09:36:05時点 Amazon調べ-詳細)

小説版は角川文庫より発売中。

¥814 (2026/01/10 09:36:06時点 Amazon調べ-詳細)

『おおかみこどもの雨と雪』の解説&感想はこちらから。

『サマーウォーズ』の解説&感想はこちらから。

『崖の上のポニョ』の解説&感想はこちらから。

『すずめの戸締まり』ラストの解説&考察はこちらから。

『もののけ姫』の物語が持つメッセージの解説&考察はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
お問い合わせ
¥2,200 (2026/01/11 02:50:13時点 Amazon調べ-詳細)
社会評論社
¥1,650 (2026/01/10 22:52:44時点 Amazon調べ-詳細)

関連記事

  1. 『メガロボクス2』ティザー映像と監督の発言から設定と内容を読み解く

  2. アニメ『ULTRAMAN』声優まとめ【木村良平、田中秀幸、諸星すみれ……キャストが過去に出演した作品は?】

  3. 第2期2話/26話ネタバレ感想『呪術廻戦』甘える五条、そして無下限呪術。原作漫画との違いも解説

  4. 第2話ネタバレ感想!『SSSS.DYNAZENON』あらすじ・考察・解説〜“苦悩する主人公”と、戦う理由〜