MCUの今後はどうなる?
MCU映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』が2025年7月25日(金) より日米同時公開を迎えた。2025年のMCU映画としては最後の公開作品となったが、ディズニープラスでは8月1日(金) よりアニメ『アイズ・オブ・ワカンダ』が前倒しで配信を開始している。
2026年夏公開の映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』もニューヨークで撮影が始まり、2026年12月18日公開の映画、『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』2027年12月17日公開の『アベンジャーズ/シークレット・ウォーズ(原題)』へ向けて、MCUの動きは活発化している。
一方で気になるのは、『シークレット・ウォーズ』でフェーズ6とマルチバース・サーガの幕を閉じた後のMCUの展開についてだ。『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』の公開直前には、マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギが米Varietyで『シークレット・ウォーズ』でMCUを一度「リセット」すると発言したことも話題になった。
フェーズ4からフェーズ6までのマルチバースサーガで拡大したタイムラインを「単一」に戻すことも示唆した他、フェーズ7以降に開始するMCU版「X-MEN」シリーズでは完全に新しいキャストを起用することも明かしている。
「X-MEN」のコスト抑制と“ハリウッド不況”
MCUの“仕切り直し”に注目が集まる中、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』公開後の7月末、米Varietyはハリウッドのエージェントの情報として、マーベル・スタジオが新たな「X-MEN」のキャスティングに際し、Aリストの俳優ではなく若手の俳優をエージェントに要望していると報じた。当該エージェントはその理由を「コストを抑えるため」と話している。Aリストというのは、誰もが知るスター俳優達のことで、キャスティングには当然高額なギャラが発生する。
2025年8月現在、ハリウッドの状況は少々複雑だ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) では興行収入6億1,400万ドルを稼ぎ出した中国市場では、自国産の映画が人気を集めている一方で、物価高やキャストの出演料も含むコスト増によって製作費の回収が難しくなり、“ハリウッド不況”と呼ばれる状況に陥っている。
ハリウッドでは、パンデミック前の2019年には年間9作品もの10億ドル超え作品を生み出していたが、2025年は8月現在で興行収入10億ドルを突破したのは実写版『リロ&スティッチ』(約10億ドル)のみという状況。世界興収トップの座は中国作品の『ナタ 魔童の大暴れ』(約19億ドル)に譲り渡している。
配信ブーム後に起きている現象
筆者がハリウッド関係者に取材した情報では、現在は業界全体で製作が縮小傾向にあり、Aリストですらスケジュールが空いている状態だという。パンデミック後の配信ブームでは映画制作に当てられていた製作費がドラマ作品に回り、新たな“Aリスター”達を誕生させたが、その受け皿が失われているというのだ。
MCUでも見られた配信作品の増産は、ディズニープラスやNetflixをはじめとするプラットフォームが登録者数を増やし、功を奏した。例えばディズニープラスの登録者数は2020年末に約7,370万人だったが、2021年に『ワンダヴィジョン』や『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』『ロキ』シーズン1などが配信されると、同年11月の発表では登録者数は約1億1,810万人と大台の1億人を突破した。翌2022年には約1億6,420万人となり、2年で1億人近い登録者数増を記録している。
パンデミックによって映画館での作品公開と大ヒットが難しくなる中、年に数度の“イベント”として映画館を訪れるライト層より、定額課金でシリーズを網羅するコア層を取り込む狙い自体は、一定の成功を収めたと言える。
しかし、業界が活況を呈している時には次々とスターが生まれるが、“ハリウッド不況”と呼ばれる時期が到来し、大量生産の方針が転換されると、スター俳優のスケジュールにも余裕が生まれる。そこで割を食うのはAリスターの俳優だけではない。スケジュールが押さえられないスターに代わって起用される類似俳優や、オーディションのチャンスが回ってくるはずだった若手のチャンスも減少しているというのが現在のハリウッドの状況なのだ。
『デッドプール4』『ブレイド』は「急いでいない」
そんな中、“ハリウッド不況”と製作費の高騰を背景にマーベル・スタジオが「X-MEN」でAリスト俳優ではない若手中心のキャスティングを進めるとすれば、ハリウッド全体の流れにも変化をもたらす可能性もある。マーベル・スタジオは、映画『ゴジラ-1.0』(2023) でハリウッドと比べてかなりの低予算で脅威の映像表現を実現した山崎貴監督とその手法にも関心を示しており、製作費の抑制は今後のマーベル作品の一つの指針になり得る。
先のVarietyの報道によると、マーベル・スタジオにとって2024年に公開した唯一の映画作品である『デッドプール&ウルヴァリン』(興行収入約12億ドル)は重要な資産ではあるものの、同スタジオは続編に当たる『デッドプール4』の製作は急いでいないという。スーパーヒーロー作品への投資が縮小する中で、リブート版『ブレイド』と合わせて「特に急ぐ必要性を感じていない」と関係者が述べたと報じられている。
「デッドプール」の第4作目は、ライアン・レイノルズとヒュー・ジャックマンを擁した『デッドプール&ウルヴァリン』の続編だ。MCU版『ブレイド』は、メインロールを務めた『ジュラシック・ワールド/復活の大地』(8月8日日本公開)が7億6,000万ドル超のヒットを記録しているマハーシャラ・アリが主演を務める。
この先一年半はフェーズ6とマルチバース・サーガを閉じるための大作が控えているという事情はあるが、マーベル・スタジオは既に実績のあるスター俳優の作品は一旦ペースを落として、来る『シークレット・ウォーズ』での“リセット”に備えて「X-MEN」シリーズの若手を中心としたキャスティングを進めていくものと思われる。
旧「X-MEN」方式を再現?
そのようにして、一つのフランチャイズが人気キャスト中心のシリーズと若手中心のシリーズを両立させた例は過去にもある。旧20世紀フォックスが製作した「X-MEN」シリーズでは、オリジナルの三部作が成功を収めた後、映画『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011) から若手俳優を中心としたリブートをスタート(当時ジェームズ・マカヴォイは32歳、マイケル・ファスベンダーは34歳、ジェニファー・ローレンスは20歳、ニコラス・ホルトは21歳)。プロフェッサーXやマグニートーら主要キャラの若き日を描くというコンセプトでシリーズの知名度を生かしながら、キャストを若手に入れ替えてコストを抑制するスマートなやり方だった。
一方で、「X-MEN」フランチャイズとしてはヒュー・ジャックマン主演の「ウルヴァリン」シリーズと、ライアン・レイノルズ主演の「デッドプール」シリーズを同時並行で走らせ、2010年代に一時代を築いた。若い俳優中心の群像劇と、スター俳優中心の大作が交互に公開される状況を作ったのである。キャリア初期に「X-MEN」に携わっていたケヴィン・ファイギが、MCUでもこの流れを再現する可能性は十分に考えられる。
現在、既に公開日が発表されている作品以外で製作が確定しているMCU映画は、『X-MEN』『ブレイド』『ブラックパンサー3』『シャン・チー2』『アーマー・ウォーズ』のみ。『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』ではアイアンマン/トニー・スタークを演じてきたロバート・ダウニー・Jr.がドクター・ドゥーム役でMCUにカムバックを果たすが、『アベンジャーズ/シークレット・ウォーズ』では「リセット」が予告されている。“ハリウッド不況”とコストカット、そして若手起用の先に、MCUはどんな形で生まれ変わるのか、引き続き注視していこう。
MCU映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』は公開中。
本記事の筆者が翻訳を担当した、マーベル・スタジオの歴史をアート部門トップのライアン・メイナーディングのアートと共に振り返る『マーベル・スタジオ:ジ・アート・オブ・ライアン・メイナーディング』は好評発売中。
【ネタバレ注意】『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』ラストの解説&考察はこちらから。
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