鈴木いづみSF短編集が海外で話題に ジェンダー観「驚くほど現代的」死後35年を経て世界で評価 | VG+ (バゴプラ)

鈴木いづみSF短編集が海外で話題に ジェンダー観「驚くほど現代的」死後35年を経て世界で評価

Verso Fiction

鈴木いづみの初英訳作品が話題に

1986年に逝去した作家の鈴木いづみのSF短編集が初めて英訳され、『Terminal Boredom: Stories』のタイトルで2021年4月20日にバーソ・ブックスより発売された。翻訳者はPolly Barton、Sam Bett、David Boyd、Daniel Joseph、Aiko Masubuchi、Helen O’Horanの6名。同作は2004年に文遊社から刊行された短編集『ぜったい退屈』を英訳した作品で、海外のメディアと批評家からは高く評価する声が聞こえてくる。

「驚くほど現代的」

アイルランドのアイリッシュ・タイムズは、優れた翻訳小説を紹介するDeclan O’Driscoll記者の「The best new fiction in translation」という記事で、他の4作品と共に鈴木いづみの『Terminal Boredom』を紹介している。7編の収録作品の中でも「夜のピクニック」を英訳した「Night Picnic」を最も優れた作品とした上で、「私たちが採用している、社会的に構造化された行動規範を非常によく検討したもの」と称賛。鈴木いづみが1986年に亡くなったことを鑑みれば、ジェンダーの流動性とアイデンティティの捉え所のない性質についての的確な考察は「驚くほど現代的」だと評価して記事を締め括っている。

ニューヨーク・タイムズは作家のキャサリン・レイシーによる書評を掲載。「1986年に36歳で亡くなった鈴木は、いつも運命論者、反逆者、そして脱落者の側に立つ」と紹介し、以下のように解説している。

鈴木の文章が“パンク”と評されるのは、形式的な理由ではなく、不満を抱えた語り手たちに関係している。彼女のプロットは単純明快で、予測可能とさえ言えるが、それは時代の問題かもしれない。1970年代や80年代にはスペキュラティブな警告として通用していたものが、現在ではより直接的に私たちが抱える問題を描写しているように思える。

そして、鈴木いづみと同時代を生きた作家としてアーシュラ・K・ル=グウィンの名前を挙げ、「鈴木もル=グウィンも、ジェンダーロールはコスチュームや支配、感情や苦悩の問題であることを知っていた」と評価した。

ステレオタイプから脱した最初の作家の一人

Hyperallergicに寄稿したRen Scateniは、「A Female Vision of Sci-Fi」と題した記事で鈴木いづみを特集。鈴木いづみの短編小説「魔女見習い」が掲載された1975年の『S-Fマガジン』では、パメラ・サージェント、アーシュラ・K・ル=グウィン、マリオン・ジマー・ブラッドリーといった欧米の作家たちと共に、鈴木いづみや山尾悠子が日本の読者に紹介されたと記している。そして、今回発表された『Terminal Boredom』でようやく鈴木いづみの短編集が英訳されたことを歓迎した。

また、収録作品を紹介しながら、やはり鈴木いづみの「ジェンダーに関する理解」と「流動的なアイデンティティの探求」を評価する。「鈴木は、男性中心のSF文学界において、男性作家の作品に多く見られた性差別的な表現やステレオタイプから脱し、異なる女性像を提示した最初の作家の一人」と、賞賛を惜しまない。今なお残る二項対立のジェンダー観にも、SFを通して批判的な眼差しを向けていることを紹介している。

A Female Vision of Sci-Fi」はかなり力の入った論考になっているので、ぜひ原文も読んでいただきたい。

香港のサウスチャイナ・モーニング・ポストは、作家のバーナード・コーエンによる「日本SF界のレジェンド、鈴木いづみのディストピア短編小説が初の英訳で登場 ジェンダーや人口問題がテーマ」と題した書評を公開。各話を詳細に紹介し、6人の翻訳者による異なるアプローチも魅力の一つとしている。

ワシントン・ポストは、『Terminal Boredom』が1970年代の米SF界におけるフェミニズムの流れの写し鏡になっていると解説する。この記事では、今最も影響力のある韓国のSF作家の一人、キム・ボヨンの英訳短編集『On the Origin of Species and Other Stories』『I’m Waiting for You And Other Stories』と共に鈴木いづみの『Terminal Boredom』が紹介されている。

このように、1986年に36歳で逝去した鈴木いづみは、死後35年の時を経て世界で広く読まれる作家の一人となった。海外の評者は鈴木いづみの作品を「驚くほど現代的」と評価する。短編集という形が、現在の英語圏SFの潮流を掴んだという要因もあるのかもしれない。それでも、もしル=グウィンらが活躍した時代に翻訳され、海外に輸出されていれば、と想像せずにはいられない。

2022年には、バーソ・ブックスから鈴木いづみ短編集の第二弾の出版も予定されているという。これを機に、鈴木いづみの再評価と日本SFの海外への再進出の流れが加速することを願おう。

『Terminal Boredom』の日本語版『鈴木いづみセカンド・コレクション〈2〉 SF集 ぜったい退屈』は文遊社より発売。

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バーソ・ブックスから刊行された『Terminal Boredom: Stories』は、日本のAmazonでは洋書の短編集ランキングでベストセラーになっている。

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Source
アイリッシュ・タイムズ / ニューヨーク・タイムズ / Hyperallergic / A Female Vision of Sci-Fi / サウスチャイナ・モーニング・ポスト / ワシントン・ポスト

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