ネタバレ解説&感想『事故物件 ゾク 恐い間取り』ラストの意味、幽霊の正体は? 主人公の心情を考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想『事故物件 ゾク 恐い間取り』ラストの意味、幽霊の正体は? 主人公の心情を考察

(C) 2025「事故物件ゾク 恐い間取り」製作委員会

『事故物件 ゾク 恐い間取り』公開

殺人、自殺、孤独死などが起きたいわくつきの部屋、いわゆる事故物件に住み続ける「事故物件住みます芸人」の松原タニシのベストセラーを原作にした亀梨和也主演『事故物件』(2020)。その続編である『事故物件 ゾク 恐い間取り』が2025年7月25日(金)に全国の劇場で公開された。

主人公のタレント志望の青年・桑田ヤヒロ役には映画単独初主演となるSnow Manの渡辺翔太。監督は『リング』(1998)以降、Jホラーを牽引してきた中田秀夫が務めるなど、その豪華なキャストとスタッフにも注目が集まる話題作だ。『事故物件 ゾク 恐い間取り』では福岡から上京してきたヤヒロは「事故物件住みますタレント」として活動し、彼の目線を通してオムニバス形式で様々なホラーが描かれる。

本記事では『事故物件 ゾク 恐い間取り』で描かれた幽霊の正体や、それによるヤヒロの心情の変化など解説と考察をし、最後に感想を述べていこう。なお、本記事は『事故物件 ゾク 恐い間取り』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『事故物件 ゾク 恐い間取り』の内容に関するネタバレを含みます。
虐待描写注意
以下の内容は、子どもの虐待描写を含みます。ご注意ください。
自殺描写注意
以下の内容は、自殺描写を含みます。ご注意ください。

『事故物件 ゾク 恐い間取り』ネタバレ解説&考察

『事故物件 ゾク 恐い間取り』は「事故物件住みますタレント」として活動するヤヒロを通して、様々な事故物件を訪れ、そこで心霊現象に遭遇するというある種のオムニバス形式のホラー作品である。そのため、登場する幽霊の正体や、その目的も多種多様となっている。

『事故物件 ゾク 恐い間取り』には5つの事故物件が登場し、ヤヒロはカメラを回す中で幽霊に対する感情も変わっていく。そこで、ヤヒロが経験した心霊現象とその原因になったと思われる幽霊の正体と、ヤヒロが幽霊に対してどのような感情を抱いていたのかについて解説と考察をしていこう。

必ず取り憑かれる部屋

ヤヒロが上京して最初に住んだ物件で、彼が「事故物件住みますタレント」として注目されるきっかけになった部屋が“必ず取り憑かれる部屋”だ。紹介してくれた浄仏不動産いわく自殺者が出た後、クリーニングもされていないため、タレント志望など金欠の顧客にとっておすすめの格安の物件となっている。

白い女の影がちらつくことの多いこの物件は、ヤヒロと惹かれ合う春原花鈴に対してスマホを介して「出てけブス」という声が聴こえてくるなど、嫉妬深い女性の幽霊がいる事が考察される。この白い女はヤヒロに執着し、花鈴を追い出そうとする、ヤヒロの首筋に噛みつくなど、生前に男性関係で何かあったのだろうか。

その後、ヤヒロは鏡の後ろから呪物を発見する。この呪物は心霊研究家・神室日和の解説によると、一家を根絶やしにするためのもので、白い女が自分の片目をくりぬいてつくったのだろう。この呪物は浮遊霊を呼び寄せており、白い女だけではなく、この部屋を幽霊まみれにしていた。

ヤヒロはこの事故物件を引っ越すことに対し、自分が引っ越したら白い女は孤独になってしまうのではと危惧するが、神室日和から「あんた寄り添いすぎると持ってかれるよ」と叱られた。ヤヒロのこの寄り添いすぎる性格は、今後の心霊現象にも影響するようになる。なお、この事故物件で起きた壁に頭をこすり続けるというヤヒロの行動は原作者の松原タニシの実体験をもとにしている。

いわくつきの古い旅館

栃木県にある銀行家の家を改築した旅館で、CSの番組でヤヒロが生中継のロケレポーターとして訪れた事故物件。ヤヒロの肉体を介して語られたことによれば、大病を患った娘を看病していた母親が、苦しむ我が子を見かね、窒息死させた事件が過去にあったという。

ロケ後、ヤヒロは「事故物件住みますタレント」としてこの旅館に泊まるが、そこで2階からドンドンという音が聴こえる。この音は窒息死させられる娘が抵抗する音であり、ヤヒロは母親の幽霊と遭遇することになる。母親の幽霊はノイズなどの形で般若心経を唱え、娘に謝罪し続けるなど、強い後悔の念に駆られているのだろう。

ヤヒロはこの家で親子の幽霊を目撃するが、信じてもらえず、それどころか作り話が上手いとして重宝されるようになる。ヤヒロは寄り添いすぎる性格から開かずの間にお菓子とジュースを備えるが、ロケレポーターの経験に味を占め、「事故物件住みますタレント」の肩書を活かして売れたいという思いが悪い方向に強くなりはじめるのだった。

降霊するシェアハウス

「事故物件住みますタレント」としてバズりたいという感情が強くなりはじめたヤヒロが浄仏不動産で探してきた物件で、幽霊を見るといって入居者の出入りが激しいシェアハウス。ヤヒロはこの部屋で降霊術を行ない、その映像でタレントとしての成功を狙っていた。その感情の変化を象徴するものとしてフラワーズロックが登場する。ヤヒロはフラワーズロックを「物音を感知するセンサー」として利用していた。

このシェアハウスではたびたび老婆の姿が目撃され、隣に住む久米海斗の部屋から老婆のうめき声が聴こえてくる。ヤヒロはこの現象を絶好のチャンスと考え、海斗を巻き込み、降霊術を行なった。そこでは「ワタシノチ」という文字が現われ、天井が割れ、そこから血が海斗に垂れる怪現象が発生する。

海斗はその日を境に精神を蝕まれることになり、不安に思ったヤヒロは再び神室日和に相談する。神室日和は老婆について尋ねられると、顔がぐちゃぐちゃで人相が読み取れないと解説する。その理由はシェアハウスになる前の部屋の入居者の死因であり、老婆が顔から地面に飛び降り、顔がぐちゃぐちゃになって死亡したのだった。

老婆の幽霊は海斗の背中に飛びつき、海斗を飛び降り自殺させる。自殺の理由はわからないが、老婆は入居者を自分と同じ道に引きずり込みたかったのだろう。海斗は一命を取りとめるものの、ヤヒロは自分が降霊術を行なったことで友人を心霊現象に巻き込んだと後悔し、これをきっかけにバズりたいという欲求を恥じるようになる。

花鈴の部屋

住むところを失ったヤヒロは花鈴の家に身を寄せるようになる。当初はようやく事故物件から解放されたと思ったヤヒロだったが、花鈴の家でも金縛りや黒い男の影などを見てしまう。ヤヒロは花鈴の家に自分が幽霊を連れ込んでしまったと考察するのだったが、神室日和は関係ないと言い、ヤヒロに花鈴を警戒するように忠告するのだった。

花鈴の不審な行動に違和感を抱きはじめるヤヒロだったが、ヤヒロの母親が倒れたという報せが届き、ヤヒロは福岡に帰らなければならなくなる。福岡の製鉄所の社長から紹介された事務所の社長の藤吉に連絡するヤヒロだったが、藤吉とは連絡がつかず、そもそも名刺の藤吉という名前が書き換わっていたことを知る。

『事故物件 ゾク 恐い間取り』ラストネタバレ解説

「事故物件住みますタレント」に選ばれた理由

福岡に帰ろうとしていたヤヒロは花鈴の過去を知る。花鈴の父親は売れない俳優をしていたが、母親が浮気をし、その間男が花鈴に暴力を振るったことに激昂して間男を殺めてしまったのだった。それ以降、花鈴は本名を隠してきた。花鈴の本名は藤吉リホ。事務所社長の藤吉の娘だった。

花鈴に一緒に生きようと語り、福岡へともに帰ろうとするヤヒロだったが、花鈴は何かに取り憑かれて街を彷徨う。その足取りを追うヤヒロは孤独死していた藤吉の死体を見つけたのだった。藤吉はすでに死亡しており、ヤヒロはずっと幽霊と過ごしていた。それを踏まえて見直すとヤヒロとしか藤吉は話しておらず、喫茶店ではヤヒロの前にだけメニューと水が置かれ、口論する様子を周囲の客は不思議そうな目で見ている。

そして、藤吉が語っていた「幽霊も優しいやつに惹かれる。だからお前を選んだ」という言葉の意味を知る。藤吉は寄り添いすぎる性格のヤヒロがエキストラの仕事で花鈴と出会ったことで、自分の娘を守ってもらうためだろうか、彼女をヤヒロに託したのだった。ヤヒロは言葉の真意を汲み取ると、自分の寄り添いすぎる性格を活かしてもう一度「事故物件住みますタレント」として奮起するのだった。

『事故物件 ゾク 恐い間取り』ネタバレ感想

ジャンプスケアを利用した恐怖

前作『事故物件』は中田秀夫監督も語っている通り、「おかしみ」のある怖ポップな作品だった。それに対して、本作はストレートなホラー映画を目指して作ったと中田秀夫監督は解説している。そして、これまでの真綿で首を締めるようなJホラーとは異なったケレン味のある作品に仕上げたとと思われる

じわじわと来る王道のJホラーと異なり、『事故物件 ゾク 恐い間取り』ではジャンプスケア(ホラー作品で観客を驚かせるために用いられる手法で、突然大きな音や映像で驚かせる演出)が多用され、恐怖で歪んだ俳優の顔のアップが多いなど、ホラー初心者でも楽しめるようなジェットコースタームービーになっている印象だ。その一方、メッセージ性もあり、事故物件という他人の不幸を利用して商売をするのは倫理的にどうなのかという問いかけもしている。

そのことから、ホラー初心者には入門として、ホラー好きにはそもそも心霊現象を金儲けにするのは死者への冒涜ではないかというメッセージ性のある作品として楽しめるようになっているとと考えられる。ホラー初心者とホラー好き、両者に楽しんでもらえるように取れるのも『リング』の中田秀夫監督だからできた技かもしれない。

感情を強調した演出

ラストで明かされる花鈴と藤吉の関係など、これまでの王道のJホラーからあえてずらした部分もありつつ、『事故物件 ゾク 恐い間取り』は感動を誘うような展開になっているような印象を受ける。これはヤヒロの寄り添いすぎる性格でも反映されており、ヤヒロは事故物件では必ず手を合わせ、お供え物をしている。そして、それらをしなかった降霊するシェアハウスで起きた事件に後悔の念を抱いているのだ。

人の死で商売をするということがどういうことか。それをヤヒロの心情の変化と花鈴を守りたいと死後も思い続けた藤吉の幽霊を通して描きたかったのではないかと考察できる。そのため、近年のドライなホラー作品を求めて見に行くと肩透かしをくらうかもしれない。

しかし、そこで肩透かしをくらうからこそ、人の死に冷笑的になっている観客に対し、事故物件は人の死後も続くその人の人生であり、人の命の重さというものを考え直すべきではないかと訴えかけていると考察できる。

インティマシー・コーディネーターと臨床心理士

『事故物件 ゾク 恐い間取り』にはインティマシー・コーディネーターと臨床心理士が参加している。臨床心理士という職業は有名だが、インティマシー・コーディネーターは知らない人もいるかもしれない。インティマシー・コーディネーターとは俳優らの身体的接触やヌードなどが登場するシーンを撮影する際に俳優が深いな思いをしないように演出とすり合わせを行なう職業だ。

しかし、『事故物件 ゾク 恐い間取り』では直接的な性的シーンなどはない。それでも、俳優の尊厳を守るインティマシー・コーディネーター、それもその草分けとも呼べる西山ももこを起用したのには、ホラー映画特有の展開に対する配慮があったのではないかと考察できる。

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まずは風呂場のシーン。旅館を訪れたヤヒロが浴場に入る短いシーンだが、このシーンでは一人しかいないにもかかわらずヤヒロは腰にタオルを巻いている。風呂場は一番無防備になる瞬間であるため、ホラー映画では描かれることの多い空間だ。そのため、俳優たちは裸になることを求められる。このようなホラーのお約束に対して、インティマシー・コーディネーターを起用することで、俳優が演技しやすいように配慮したのだろう。

また、最初の物件で首筋を噛まれるシーンでもインティマシー・コーディネーターは活躍したのではないだろうか。ホラー映画では幽霊が体に絡みつくことが多いが、そのとき俳優にとって触れられたくない体の場所に触れることもあるかもしれない。とくに首筋を触れられて良い気持ちになる人は少ないだろう。こうした幽霊との絡みにも一役買っていたと考察できる。

また、臨床心理士の起用だが、これは子どもの虐待シーンがあったためではないだろうか。旅館でのシーンで、ヤヒロは母親が子どもを窒息死させる場面を目撃する。ここで子どもは必死に抵抗しており、このような演技が子役の心に傷を残すこともある。その配慮として臨床心理士の起用があったと考察できる。

これまでのオーソドックスなホラー展開をしつつも、新しいホラーへの問いかけをしている『事故物件 ゾク 恐い間取り』。ホラー初心者も、ホラー好きも両方に楽しんでもらえるように作品を撮ったキャストとスタッフの努力がうかがえる作品だった。

映画『事故物件 ゾク 恐い間取り』は2025年7月25日(金)より全国の劇場で公開。

『事故物件 ゾク 恐い間取り』公式サイト

松原タニシの原作「事故物件」シリーズは現在発売中。

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前作『事故物件』は現在配信中。

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鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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