『ゴジラ-0.0』で怪獣に立ち向かう人類の英知
『ゴジラ-1.0』で第96回アカデミー賞視覚効果賞を受賞した山崎貴監督。『2001年宇宙の旅』(1968)のスタンリー・キューブリック監督以来、約55年ぶりに監督が同賞を受賞したことでも話題となった。山崎貴監督の名前を映画史に残した『ゴジラ-1.0』の続編、『ゴジラ-0.0』が2026年11月3日(火・祝)に日米同時公開された。
かつて、海神(わだつみ)作戦でゴジラを葬った敷島浩一たち。『ゴジラ』(1954)のオキシジェン・デストロイヤーのようなSF兵器ではなく、戦後間もない日本でも実行可能と思わせる科学的な作戦でゴジラを倒すという展開には、度肝を抜かれた。
そして、『ゴジラ-0.0』においても、予告編で語られた鳴神(なるかみ)作戦など、人類による対怪獣作戦が展開される。本記事では『ゴジラ-0.0』で描かれる人類の英知たる対怪獣作戦について、実際はどうなのかを科学的視点から解説していく。なお、以下の内容は『ゴジラ-0.0』のネタバレを含むため、本編鑑賞後に読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ゴジラ-0.0』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『ゴジラ-0.0』の鳴神作戦と八幡作戦についてネタバレ解説
第一の作戦:鳴神作戦
『ゴジラ-0.0』で最初に登場するのは、海神作戦の系譜であり、天才気象予報官である青山眞琴が立案した対ギドラ用の鳴神作戦だ。これはGHQと米軍が提案してきたギドラを燃料気化爆弾で焼殺するというプランAに対し、ゴジラが核攻撃を耐えたことを踏まえて考えたプランBである。
鳴神作戦とは、天才パイロットである敷島浩一が操る戦闘機スカイレイダーの誘導のもと、爆撃機の深山から避雷針を落として、落雷でギドラを焼殺するものである。落雷で発生する温度は太陽の表面温度の5倍ともされ、燃料気化爆弾の華氏5400度をはるかに上回る。
そのため、プランAよりもギドラの焼殺は確実かと思われたが、まず複数の機関銃を搭載した爆撃機に相当するギドラを翻弄するために、木の葉落としと呼ばれる高度な空中戦闘機動を行わなければならない。木の葉落としは零戦が得意としていたとされる高等技術であり、作中では震電でゴジラと戦った天才パイロットの敷島浩一しかできない芸当であった。鳴神作戦は敷島浩一が持つ「トップガン」シリーズのマーヴェリック並みの飛行技術と、青山眞琴の直感と知識に裏打ちされた気象予報が無ければできない作戦だったと言える。
「敵が後ろにつく直前で機首を急激に上げて失速させ、機体自体をエアブレーキにして減速。ほとんど操舵が効かない状態の中、卓越した操縦技術と空間認識能力で立て直し、軽量の隼ならではの加速力と上昇力で上昇。今度はこちらが敵の後ろをとるキリエ流木の葉落とし」(ミリタリー監修:二宮) #コトブキ https://t.co/wgzMvllBeE
— アニメ『荒野のコトブキ飛行隊』公式 (@kotobuki_PR) February 15, 2019
結果、木の葉落としに成功したのは敷島浩一だけで、他のスカイレイダーはギドラによって撃墜されてしまう。さらに、落雷という強烈な刺激がギドラに流れ込んだことで、ギドラの細胞の進化が加速し、三つ首の姿へと変貌した。死の淵から不死鳥の如く復活し、黄金の鱗を持ったキングギドラを生み出してしまった。そのことから、鳴神作戦は『ゴジラ-0.0』において、怪獣の細胞の再生能力が人類の想定を上回ったことによる失敗した作戦として扱われている。
第二の作戦:八幡作戦
雷神の別名である鳴神の名を冠した第一の作戦の失敗を受け、『ゴジラ-0.0』のラストで行なわれたのが武運の神の名を冠した八幡作戦である。これはキングギドラに呼応するように現れたゴジラとキングギドラを戦わせるという作戦を展開した後、勝利するも負傷した怪獣を倒すべく立案された作戦だ。
八幡作戦は対象となる怪獣を罠の場所におびき出し、液体窒素を大量にかけるというものである。これによって怪獣を凍結させ、固まったところに次は大量のガソリン燃料をかけて爆破。凍結状態の怪獣を爆炎が包むことにより、温度差で怪獣を殺す作戦と野田健治の口から解説されている。
気泡を利用してゴジラを海底へ沈め、バルーンで海上に一気に浮上させるという水圧の急激の変化を利用した海神作戦。そして、落雷の高温で焼殺する鳴神作戦。山崎貴監督のゴジラなどの怪獣はSF兵器ではなく、どこか現実的な作戦で倒されているが、温度差で怪獣を殺すという海神作戦と鳴神作戦の要素を継いだような八幡作戦は現実的に可能なのだろうか。
『ゴジラ-0.0』の八幡作戦が可能かどうかネタバレ解説
液体窒素による細胞へのダメージ
『ゴジラ-0.0』ではキングギドラに対して八幡作戦が実行される。科学的な視点で考えると、この人類の英知の結晶は怪獣に通用するのだろうか。まず、八幡作戦の第一段階である液体窒素による冷凍攻撃は、細胞を効率よく破壊すると考察できる。
細胞は低温になると、細胞膜を構成する脂質の流動性が低下し、膜の柔軟性が失われる場合がある。これにより、細胞膜を介した物質の出入りや情報伝達に影響が生じる。さらに、細胞は凍結すると、細胞内外に氷晶が形成されることで損傷する場合がある。
凍結速度や温度変化によっては、細胞内の水分が移動して脱水状態になったり、氷結晶が細胞の構造を傷つけたりするためだ。実際に、食品や医療分野では、細胞や組織への損傷を抑えるために冷凍方法や不凍物質の研究が進められている。
液体窒素は、通常の大気圧下で約マイナス196℃という極低温の液体であり、細胞や組織を冷却するために利用される。ただし、巨大な怪獣の体表にかけたとしても、内部まで短時間で凍結させられるとは限らない。実際にどの程度の損傷が生じるかは、冷却速度や対象の大きさ、熱の伝わり方によって変わる。
宇宙怪獣であるキングギドラに、地球上の細胞の常識が通じるのかどうかという疑問もあるかもしれないが、『ゴジラ-0.0』はそこも解決している。本作のキングギドラは、隕石として地球に飛来した後、長野県松本市の北アルプスで動物たちの遺伝情報を収集してギドラの姿を獲得した。そのため、キングギドラの細胞も、少なくとも地球上の生物と共通する性質を持っている可能性がある。
爆炎による細胞の急速解凍
八幡作戦の狙いは、液体窒素による極低温で怪獣の体表や組織を損傷させたうえで、ガソリンの爆炎によって急激な温度変化を与えることだ。凍結と加熱を組み合わせたときにどの程度の損傷が生じるかは、対象の構造や温度変化の速さによって異なるが、作中では凍結によって弱体化した怪獣に、さらに熱衝撃を与える作戦として描かれている。
液体窒素による凍結は弱体化だけではなく、細胞膜を破壊しておくという前準備だと考察できる。これこそ、野田健治が解説していた温度差でゴジラやキングギドラを殺すということではないだろうか。現実でも、食品の研究などで細胞を凍結させると、細胞膜が破壊されてしまい、解凍と同時に水分などが流れ出していくことが報告されている。
また、ゴジラやキングギドラなど怪獣が持つ戦車や戦艦の砲撃にも耐える頑強な皮膚や鱗にも、この冷凍から爆炎という温度変化が有効だと考察できる。金属などの素材は、急激な温度変化によって熱膨張や熱収縮が不均一に起こると、内部に大きな応力――熱衝撃が生じる場合がある。
その応力が素材の強度を超えると、ひび割れや破損につながる。ゴジラの皮膚やキングギドラの鱗にも同様の現象が起きるかは現実には判断できないが、作中では、こうした温度差による損傷を怪獣の身体にも応用した作戦と解釈できる。
八幡作戦と同じ方法で倒されたドクター・ドゥーム
急速冷凍と爆炎による解凍でキングギドラを倒すという八幡作戦。これと似た方法で倒されたアメコミのヴィランがいる。それが『アベンジャーズ/ドゥームズ・デイ』(2026)で注目を集めるマーベルのヴィラン、ドクター・ドゥーム/ヴィクター・フォン・ドゥームだ。
急激な温度変化によって金属の身体にダメージを与えるという点では、『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』(2005)のドクター・ドゥームを思い出す。映画では、ヒューマン・トーチ/ジョニー・ストームの炎で高温になったドクター・ドゥームに大量の水を浴びせ、身体を覆う金属を急激に冷却することで動きを封じていた。温度変化の順序こそ八幡作戦とは逆だが、熱衝撃を利用して相手の身体を損傷させるという点では共通している。
金属を扱う人々にとって、急激な温度変化による損傷は注意すべき現象だ。特に野田健治は、大日本帝国の技術士官だったため、戦闘機などの兵器製造の際に素材の知識として、どのような温度変化が機体に大きな損傷を与えるのかを研究していた可能性もある。
そこに村上教授たちの生物学の知識も加わった可能性が高い。『ゴジラ-0.0』の巨大生物対策班が夜通し怪獣対策について考える場面も踏まえると、生物にも温度の急激な変化が有効かどうかを研究し、鳴神作戦での落雷も耐え抜いたキングギドラや核攻撃から再生を果たしたゴジラたち怪獣の細胞膜を前もって破壊してから焼殺するという結論に辿り着いたのではないだろうか。
共鳴増幅器に見るSF作品としての『ゴジラ-0.0』
『ゴジラ-1.0』から引き続き、山崎貴監督の描く「ゴジラ」シリーズの魅力は、超科学で怪獣を倒すのではなく、どこか実現できそうな科学要素のある怪獣の倒し方にあるだろう。対怪獣の作戦だけではなく、村上教授の共鳴増幅器がその良い例だ。
『ゴジラ-0.0』ではカラスに共鳴増幅器をつなぐことで、大量のカラスを研究所に呼び寄せている。このアルフレッド・ヒッチコック監督の『鳥』(1963)を想起させる場面では「動物同士は共鳴波を持っており、それを利用すればゴジラさえも同じ細胞の共鳴波の増幅によって誘導できる」と村上教授に解説させている。
事実、カラスは鳴き声を使って仲間に情報を伝えたり、危険を知らせたりすることが知られている。実際にアルフレッド・ヒッチコック監督が『鳥』を撮るきっかけになった怪事件はドウモイ酸中毒(記憶喪失性貝毒)と言われているが、山崎貴監督はSF的な解釈と現実の動物のコミュニケーションを組み合わせて、大石典子のゴジラ細胞と共鳴波増幅器というSF的なリアリティを『ゴジラ-0.0』に与えた。
他にも「自分たちで(対ゴジラ超兵器)スーパーXを作ってみたい」と語った後に登場した、スーパーXを想起させる“B-29のエンジンを積んだ化け物じみた二式大艇”など、現実を少し拡張した存在を登場させている。このように山崎貴監督は動物パニック映画の金字塔から東宝特撮の超兵器をどうすれば現実に落とし込めるかに注力したと考察できる。
そのような科学的な考察とSF的な発想により、『ゴジラ-0.0』はリアルSF作品として成立していると考察できる。なぜ戦後間もない日本に出現したゴジラやキングギドラと人類が戦えるのか。それを考えたときに、これならできるかもしれないと思わせてくれるのが、山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』と『ゴジラ-0.0』の魅力ではないだろうか。
映画『ゴジラ-0.0』は2026年11月3日(火・祝) より全国の劇場で公開。
Source
astec「【温度】細胞培養で使われる温度帯」/農林水産省「細胞の損傷を抑えた冷凍法とは? 医療分野でも活用される冷凍技術」/日経ビジネス「細胞の組織を破壊しない「冷凍革新」」/一般社団法人日本機械学会「熱衝撃」/動物プロダクション SCIENCE FACTORY ltd. 動物プロダクション サイエンスファクトリー「カラスの言葉を解読せよ!…鳴き声に秘められた高度な知性とコミュニケーションの世界」/日刊スポーツ「「ゴジラ-1.0」山崎貴監督3冠獲得 続編を求める声に「やってみたい気持ちは、もちろん」
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山崎貴監督が手がけた『ゴジラ-1.0』の小説版は発売中。
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