ネタバレ解説&感想『アイの歌声を聴かせて』ラストの意味は? AIと人間の友情は? SF青春群像劇として考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想『アイの歌声を聴かせて』ラストの意味は? AIと人間の友情は? SF青春群像劇として考察

(C) 吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

ミュージカルアニメ『アイの歌声を聴かせて』

2021年に公開された『アイの歌声を聴かせて』はある意味で異色のヒット作だ。当初は客足が振るわなかったが、SNSを通じて口コミで人気に火が付き、今では熱狂的なファンを抱えるに至った。『アイの歌声を聴かせて』は批評家からの評価も高く、第45回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞している。

『アイの歌声を聴かせて』は女子高校生の姿をしたポンコツAIと呼ばれるアンドロイドと、人間の少年少女の友情を描いた青春群像劇である。監督であり、原作・脚本を務める吉浦康裕は「AI社会の未来のポジティブな世界観を作品で表現したかった」とスタッフトーク上映会で語った。

AIと人間の間に友情は生まれるのか。そして、その友情の行方は。本記事ではアニメ映画『アイの歌声を聴かせて』の解説と考察、そして感想を述べていこう。なお、以下の内容は『アイの歌声を聴かせて』のラストのネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『アイの歌声を聴かせて』の内容に関するネタバレを含みます。

『アイの歌声を聴かせて』ネタバレ解説&考察

人間と対話・共存できるAI「シオンプロジェクト」

大企業・星間エレクトロニクスによる実験都市の景部市。スマートホーム化が進み、田舎のように見えるが各所に労働ロボットがいるなど、まさしく吉浦康裕監督が『アイの歌声を聴かせて』のスタッフトーク上映会で語っていた「AI社会の未来のポジティブな世界観」だ。その一方で労働ロボットをいじめる学生がいるなど、完全には人間とAIは共存していないのがリアルでもある。

主人公のサトミのクラスにシオンという少女が転校してくるが、そのシオンこそ女子高校生の姿をしたポンコツAIと呼ばれるアンドロイドであり、サトミの母親の美津子が開発したものだった。ここで特徴的に描かれるのが、シオンが急に歌い出す場面だ。

『アイの歌声を聴かせて』は青春群像劇でありながら、ミュージカル映画の側面も持っている。しかし、ミュージカル特有の急に歌い出すことが異常なこととして表現されている。人は急に歌い出さない。

当たり前のことだが、AIのシオンはそんなことお構いなしに歌うという点が、AIと人間の違いを際立たせている。また、シオンはAIなので、歌い出すと周囲のAI対応の音響機器や労働ロボットが反応するのも、シオンが他の学生たちと違うことを際立たせている。

女性の自立を阻むもの

サトミが誤った操作をしてしまったことで、トウマ、ゴッちゃん、アヤ、サンダーの前でシオンがアンドロイドであることが露呈してしまう。サトミは母親への想いから、みんなに秘密にするように頼む。ここで、サトミの母親が置かれている環境が明らかになる。

サトミは告げ口姫と呼ばれていじめらていても、母親に学校で孤立していることを話さない。その理由は彼女の母親である美津子がシングルマザーとしてサトミを育てながら、星間エレクトロニクスで研究者として働き続けてきたからだ。美津子が毎日のように残業し、寝言でプログラムを口にするほど打ち込んでいたのがシオンプロジェクトだった。

ゴッちゃんによると、星間エレクトロニクスは男性社会らしく、美津子の活躍を良く思わない人もいるらしい。AIによって市町村まるごと管理するほど進んだ企業にもかかわらず、女性の活躍を疎ましく思うものがいる。その歪さは、古き日本の悪しき風習と未来的な実験都市の2つの顔を持つ景部市ならではのもと言えるだろう。

ミュージカル的な青春群像劇でありながら、女性の活躍を阻むガラスの天井(能力や実績のある女性やマイノリティが、性別や人種といった理由で、見えない障壁に阻まれ、組織のトップレベルに昇進できない状況)がある。そのリアリティが『アイの歌声を聴かせて』というSF作品が熱狂的なファンを獲得した理由の一つなのではないだろうか。

ゴッちゃんの悩み

クラスの中心的な人物であるゴッちゃん。成績優秀でスポーツ万能、何事もスマートにこなす人気者の彼だが、思春期ならではの悩みを抱えている。その悩みはオタクであり、スクールカーストであまり高い位置にいないトウマが思ってもないものだった。

今でこそアニメは市民権を得たと言えるが、それでも『アイの歌声を聴かせて』のような原作のない劇場アニメを熱心に観に行く層はそう多くないだろう。映画ファンの一部では、だいたい全国で6000人程度などと揶揄されることがある。

そのような熱心なファン、いわゆるオタクの目線から見れば、ゴッちゃんのような完璧人間に悩みは無いように思えるが、その悩みはオタク文化と密接に絡むものだったと言える。ゴッちゃんの悩み、それは自分には打ち込めるものがなく、恋人のアヤからトロフィーのように扱われていることだった。

ゴッちゃん曰く、自分は何でも80点でこなす人間であり、何か一つに打ち込むことができない人間だという。その点では、トウマは熱烈なITオタクであり、サンダーはたとえみっともないと思われようとも柔道を諦めない人物だ。オタク少年とスポーツ少年。それがゴッちゃんにとってはある種の憧れだったのだ。

しかし、ゴッちゃんは周りからは完璧人間のように扱われる。本当は空っぽのように思えてしまう自分から見た自分と、何もかも充実しているように思われる周囲から見た自分。このギャップがゴッちゃんを悩ませていた。この思春期ならではの現実と理想の差を、一見すると完璧人間のように思えるゴッちゃんを通して描くのが見事だ。

ゴッちゃんの口からトウマやサンダーへの敬意を語らせることで、何かに打ち込めることそのものの素晴らしさと、それに時間を費やした青春の美しさが『アイの歌声を聴かせて』では鮮明になる。青春群像劇の語り部として、ゴッちゃんは完璧人間だったのかもしれない。そして、アヤが本当にゴッちゃんのことが好きで、彼女の中ではゴッちゃんは80点ではないことが彼の心を癒すのだった。

『アイの歌声を聴かせて』ラストをネタバレ解説&考察

告げ口姫の由来

トウマの所属する電子工作部の部室には禁煙という張り紙がされているが、その理由がラストにかけてアヤの口から語られる。電子工作部の部室は屋上にあり、その場所の都合もあってか先輩たちがタバコを吸う隠れ場所にされていた。サトミはトウマの居場所を守るためにそのことを教師に告げ口したのであった。

電子工作部の部室でタバコを吸っていたのはサッカー部の部員であり、学校のヒーローとされていた。『アイの歌声を聴かせて』においてゴッちゃんが“善の陽キャ”を描いたキャラクターだとすれば、サッカー部の先輩たちは“負の陽キャ”を描いたキャラクターだと言えるだろう。

明るくスポーツ万能な人気者。どんな学校にもいた存在だが、そのようなスクールカーストの上位の人々に良い思い出が無い人も少なくはない。トウマのようなスクールカーストの下位の人が困ったりすることや、傷つくことも考えずに自分たちが学校の王様かのように振る舞う。

そんなサッカー部の先輩によって、トウマの居場所である電子工作部の部室を奪われないように、ミサトは告げ口をしたのだった。しかし、思春期の子どもたちは時に残酷だ。サッカー部が大会出場停止になったのはタバコを吸った先輩たちの責任のはずだが、学生たちはその責任をサトミに押し付けたのだ。

トウマはサッカー部の先輩を大切な学校での居場所を奪う存在と感じていたが、他の学生たちには大人に反抗するヒーローに見えたのかもしれない。その3年生が最後に大会に出場できるチャンスを奪った。そのような理由でミサトは告げ口姫とあだ名がつけられてしまった。

発覚してしまったシオンプロジェクト

シオンはサトミにトウマの想いを告げるように手助けをしたが、最後はそれが積み重なり、美津子の成功を妬む支社長によってすべてが明るみになってしまう。実は、この裏には美津子のことを良く思わない年上の男性社員の存在があり、これもまた美津子を阻むガラスの天井の一つだった。ラストまでガラスの天井は美津子を苦しめるのだ。

支社長はサトミたちを子ども扱いし、脅迫する。それは彼女たちの両親のほとんどが星間エレクトロニクスで働いているという事実を利用したものだった。サトミたちに向けられる暴力はパワーハラスメントに近いものであり、社会の構造を利用したものだと考察できる。

高校生という子どもと大人の中間で、社会とは何かを考えはじめる年頃。そこでシオンのAI消去の危機を通して、『アイの歌声を聴かせて』では大企業に依存した社会が孕む危険性を描いるのだと考察できる。その描写は「AI社会の未来のポジティブな世界観」を映画化する上で外すことのできない、IT企業に頼り切った社会の負の側面だと言えるだろう。

シオンの正体

トウマは最初からシオンがサトミの名前を知っていたことを疑問視していたが、その答えをシオンの思い出、つまりバックアップデータの中から見つけ出す。それはトウマとサトミの距離が離れたきっかけになったプレゼントの改造AIだった。

シオンとは、もともとトウマが改造したAIをもとにしたもので、最後まで「今幸せ?」と何度も質問するのはそれが最初の命令だったからだ。それを踏まえて見直してみると、シオンはトウマの命令に従う場面が多い。それはトウマがハッキングしたためだと思われていたが、そうではなくトウマが最初にサトミを幸せにするように命令したためだと考察できる。

改造されたAIはインターネットへ逃げ出し、さまざまな媒体を介してシオンプロジェクトに潜り込んでサトミと再会しようとしていた。ラストでもう一度、冒頭のインターネット世界のきらびやかな光景が流れる。あの光景はシオンのもとになった改造AIがサトミを探して自己進化していく様子を描いていたのだ。

トウマはシオンが8年の月日を経てシンギュラリティ(技術的特異点)を起こしたのではないかと推理していたのだ。シンギュラリティとは自律的なAIが自己フィードバックによる改良を繰り返し、人間の知能を超える瞬間が訪れるという仮説だ。美津子はすべてのAIがシオンのようになる可能性があると考えていた。

シンギュラリティを引き起こすということは簡潔に言えばAIが人類を超えることを意味しており、人類はシンギュラリティを引き起こしたAIが何を起こすかわからないという倫理的な問題も有している。それは美津子や支社長が危惧するように人類全体にパニックを蔓延させる可能性もある。

しかし、サトミたちはそうは考えない。それは『アイの歌声を聴かせて』のメインテーマである「AI社会の未来のポジティブな世界観」にも通じるものであり、人間につくすようにプログラミングされたAIが自己進化の果てに最後に辿り着く場所を“優しさ”だと考えたのだ。

シオンはただただサトミに幸せになってほしかった。両親が離婚し、告げ口姫と呼ばれていじめにあっているサトミに幸せになってほしかっただけだった。それは“優しさ”であり、人間につくすというAIの根本的な命令を従属ではなく、他人に優しくなることと解釈したのだと考察できる。

子どもにしかできないこと

サトミたちと美津子はシオンを星間エレクトロニクスの本社から救い出そうと作戦を立てる。最初、サンダーがトウマにシオン救出作戦を提案したとき、トウマは勝てるわけがないと断った。それは子どもと大人、高校生と大企業が喧嘩したとしても勝てるわけがないという考えに基づくものだった。

しかし、サンダーは「自分には失うものはない。これしかできない」と返す。そして、シオンの正体を知ったトウマは救出作戦に賛同する。サトミたちがシオンを救出するのは、はっきり言って無茶で、負け戦になるのは火を見るよりも明らかだ。

それでもサトミたちはシオンを助け出そうとする。ラストの救出作戦という無茶ができるのは、大人ではなく子どもだからであり、シオン救出も含めて“青春”なのだと考察できる。シオン救出のために無茶苦茶なことをする。その一分一秒が貴重な青春なのだ。『アイの歌声を聴かせて』はそんなかけがえのない青春を描いている。

学校を舞台にした青春からはじまり、ラストでは大企業を相手に友情を守り通す別の青春へと移り替わっていく。さまざまな青春を描いたからこそ、『アイの歌声を聴かせて』は熱狂的なファンを獲得するに至ったのだと考察できる。

『アイの歌声を聴かせて』ネタバレ感想

シンギュラリティの先にあるもの

『アイの歌声を聴かせて』ではシオンを通してAIのシンギュラリティを描いているが、そこではSF作品でありがちなAIの反乱などは描かれない。AIに課せられた根本的な命令である人間につくすことが進化の果てに、誰かに優しくすることへと昇華していく様子を描いている。

そして、シンギュラリティを起こしたAIによって他のAIもシンギュラリティを起こしていく。その連鎖反応を、『アイの歌声を聴かせて』ではラストシーンの星間エレクトロニクスの本社ビルのロボットたちがシオンに歌うように語りかける場面へとつなげていく。

これはAIたちのシンギュラリティの連鎖反応をAI同士の友情として表現したのだと考察できる。『アイの歌声を聴かせて』ではラストのシオンの歌声によって、AIのシンギュラリティが“優しさ”と“友情”を生むと表現している。

人間への反乱の火種として描かれやすい“人間に従うこと”が自己進化の果てに“他者への優しさ”へと変わることこそ、『アイの歌声を聴かせて』の最大の魅力ではないだろうか。ラストまで通してみることで、制作陣がAIにポジティブな可能性を見出していると感じられる。

青春だから出来たこと

もし、リアリティを追求するのだとしたら、『アイの歌声を聴かせて』のラストで語られた全員お咎めなしというのは無理があったかもしれない。こういうとき、大人は周りからの評価を気にするものだ。トラブルが起きて、内々で処理するとしても誰かをスケープゴートにするだろう。

しかし、その無理を通すのが『アイの歌声を聴かせて』の良いところだ。何故ならば、『アイの歌声を聴かせて』は青春群像劇なのだ。ラストはみんなハッピーエンド。前向きに未来へ進むもので良いじゃないか。

シオンは最後の最後まで、最初の親友であるサトミの幸せを願った。そして、トウマをはじめとするみんなも新たな一歩を踏み出し、それぞれの幸せへと進んでいく。その爽やかなラストが元気をくれる。

『アイの歌声を聴かせて』はリアルな部分やSF作品としての魅力もあるが、それと共に青春群像劇としての希望に満ちたラストを見せてくれる映画だった。人に優しく、それによってみんなが幸せに。忘れがちな普遍的なテーマを、AIを通して描くからこそ、『アイの歌声を聴かせて』は多くの人の心に響いたのだと思われる。

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鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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