2023年公開の映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
2023年11月に劇場公開され、後にR15+で公開された「真正版」と合わせて興行収入32.2億円を記録した『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』。水木しげる生誕100周年記念作品として制作された本作は、社会現象とも呼べるほど大きな話題を呼んだ。
今回は、鬼太郎誕生以前の物語が描かれた映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』について、ネタバレありで解説し感想を記していこう。以下の内容は結末に関するネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから呼んでいただきたい。なお、以下の内容は性的虐待に関する言及を含むのでご注意いただきたい。
以下の内容は、映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』ネタバレ解説
水木とゲゲ郎の物語
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、龍賀一族の当主・龍賀時貞の死をきっかけに、血液銀行の水木が次期当主に取り入るために哭倉村へと出張に出たことから物語の幕が開く。哭倉村で水木は妻を探す“ゲゲ郎”と出会い、さまざまな怪異と遭遇することになる。
同時に水木は上司から摂取した者は不眠不休で働くことができる血液製剤の“M”について探るよう指令を受けていた。龍賀一族の跡取り争いのさなかで不審な死が次々と起こる中、ついに“M”の正体とゲゲ郎の妻の行方、そして不審死の背景が明らかになる。
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の物語を牽引するのは、ゲゲ郎と水木のバディものとしての魅力だ。ゲゲ郎は飄々としていながら、何百年も生きているような聡明さを持つ人物で、その正体は幽霊族の末裔だった。幽霊族というのは「ゲゲゲの鬼太郎」シリーズにおいて遥か昔に地球を支配していた種族で、鬼太郎も幽霊族である。
特殊な力を持つ幽霊族は人間から迫害を受けており、ゲゲ郎はかつて山奥にこもって生きていた。一方の妻は人間を愛しており、ゲゲ郎は妻との出会いを経て心境の変化を経験することになる。ちなみに幽霊族は死ぬ時に“幽毛”という毛を一本遺す。『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』ではゲゲ郎は“祖先の霊毛”で編まれた“霊毛組紐(くみひも)”を武器として持っている。
一方の水木は第二次世界大戦で捨て駒にされかけた経験から、仕事での出世を貪欲に狙う野心を持った人物だ。大義を盾に部下たちに玉砕を命じながら、上層部は逃げかって豊かな生活を送っていた。その経験が水木に、権力者への反発心と搾取される側から抜け出したいという二つの矛盾した感情を与えている。
幽霊族の末裔としてやはり迫害されるゲゲ郎と、人間側ではあるので見逃される水木。水木はついに目を瞑り搾取される側に回るのか、それともゲゲ郎を助けるのかという選択を迫られることになる。
「M」とは何なのか?
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の鍵になるのが摂取したもの強大な生命力をもたらす血液製剤“M”だ。Mの原材料は幽霊族の血で、龍賀家は人間の身体を媒介してMを精製していた。ゲゲ郎の妻は血の供給源として捕えられており、村の外部の人々がMを精製する媒体として捕えられていたのである。
「M」の意味は明かされていないが、戦後にGHQが占領下の日本で接収した財産を指す「M資金」がその名の由来という説がある。「M資金」の「M」はGHQのマーカット少将のイニシャルから取られたという説が有力だ。また、『ゲ謎』のMは、鎮痛作用があり戦時中に兵士にも使われた「モルヒネ」のイニシャルという説もある。
ゲゲ郎も龍賀家の人々によって妻と同じようにMの原材料として血を取られそうになるが、ゲゲ郎を助けに来たのは水木と沙代だった。水木に想いを寄せ、東京に連れて行ってほしいと懇願していた沙代は、過去に祖父の時貞から性的虐待を受けており、新たに当主となった時麿からも関係を迫られていた。母・乙米や叔母の丙江からもいじめを受けていた沙代は、妖怪・狂骨の力を借りて次々と龍賀家の人々を手にかけていた。
狂骨は龍賀家の人々に襲い掛かり、沙代は水木をも殺そうとするが、村長の長田が道連れにしたことで水木とゲゲ郎以外の人々はみな死ぬことになった。そして、水木とゲゲ郎はゲゲ郎の妻を見つけるべく、さらに地下を進んでいく。ちなみに屋敷の地下は禁域とされる島へと繋がっているとされていた。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』ラストをネタバレ解説
血桜の前の決戦
水木とゲゲ郎が行き着いたのは、血桜が咲き誇る空間だった。この桜の木はゲゲ郎の妻から血を吸い取り続けていた。この血桜には他の幽霊族の屍も埋め込まれている。龍賀の一族は幽霊族狩りを行なっていたが、狩られた幽霊族はここでMの源泉になっていたのである。
そして、そこにいたのは時弥の身体を乗っ取って復活した龍賀家当主の時貞だった。死してなお、まだ若い奴らには任せられないという如何にもな理由で舞い戻ったのだ。
ちなみに時貞は身体の弱い時麿を次期当主に任命していたが、時弥が成人した後は時弥を党首にするようにと遺言を残していた。時麿が当主に指名されたのは、Mを作る際に生まれる狂骨を封印する結界を守るための修行を積んでいたからだったが、沙代と狂骨によって時麿が殺され、時貞は早々に時弥の身体を乗っ取って帰ってきたのである。
時弥は時貞の孫と思われていたが、時貞の実の父は時貞であり、時貞は自分の死後の魂の器として時弥をつくったことを明かす。時弥とゲゲ郎、水木は『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の序盤で、時弥が生きている間に世界一の電波塔(東京タワー)を見られるかどうかという話をしていた。この時ゲゲ郎は、「変化を望まず恐れて潰そうとする者もいる」と、時貞のような存在の襲来を予見していた。
ゲゲ郎は妻と再会を果たすも、妻は血を取られすぎて瀕死の状態になっていた。そんな中、ゲゲ郎は妻は子どもを孕っていることを明かす。ゲゲ郎は巨大な狂骨に捕まるが、水木が狂骨を操る頭蓋骨を破壊。水木は時貞から富と地位を約束され、狂骨が世の中に放たれるという警告も受けたが、時貞の野望阻止から手を引かなかった。
戦争では弱い立場の人々が使い捨てにされ、ようやく戦後を迎えたが、仮初の平和の裏で暴力と支配は続いている。狂骨によって「国ごと滅ぶ」という時貞の警告に、水木が言い放った「ツケは払わなきゃなぁ!」という言葉は痛快だ。
こうして狂骨は時貞の支配を外れ、死ねない時貞を噛み潰し続ける。ゲゲ郎は解放され、そこに狂骨が襲いくるが、一同を助けたのはゲゲ郎の妻の腹の子、鬼太郎だった。血桜から血を吸い取られていた幽霊族の先祖たちが鬼太郎の鳴き声に呼応し、その髪の毛(霊毛)がゲゲ郎の霊毛組紐と合体。黄色と黒の横シマの球体が狂骨を包み込んで狂骨を打破する。
ちなみにこのシーンでは、『ゲゲゲの鬼太郎』の主題歌である「ゲゲゲの鬼太郎」の有名なフレーズ「ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲ〜」に似たメロディーが流れている。そして球体はゲゲ郎にまとわりつくと、お馴染みの縞模様のちゃんちゃんこへと変化する。先祖の霊毛で編まれたとされていた鬼太郎のちゃんちゃんこのオリジンがこうして明らかになったのだった。
注目の現代パート
ゲゲ郎は怨念である狂骨を押さえ込む役目を買って出ると、妻とお腹の中の子どもを水木に委ねる。ゲゲ郎は全ての狂骨を受け止め、その姿が変容していく。水木は、ちゃんちゃんこを着ていれば狂骨を見ても心を失うことはない助言されるが、逃げる途中で水木はこのちゃんちゃんこをゲゲ郎の妻に着せていることが分かる。水木のこの選択が、ある結末を生むことになる。
舞台は現代に戻り、鬼太郎は血桜の跡地に出現した最後の狂骨を倒そうとしていた。だが、これを止めたのはゲゲ郎=目玉おやじだった。目玉おやじはこの狂骨が「時ちゃん(時弥)」であることに気づくと、時弥を救えなかったこと、今も望んでいた未来は実現しておらず、人間は心貧しく苦しみ続けていることを悔いる。
それでも、目玉おやじには息子の鬼太郎がいる。鬼太郎が「忘れないで」という想いを受け継いだことで時弥は成仏。天に昇っていく先には沙代に似た人物の影が見える。ちなみに時弥は沙代の従兄弟だと思われていたが、共に実の父は時貞であるため姉弟という間柄である。
記者の山田は、鬼太郎が人間を助ける理由を知るために、この村の出来事を書き残すことを約束する。鬼太郎が人間を助ける理由、それはゲゲ郎とその妻を助け、ゲゲ郎の妻のお腹の中にいた鬼太郎を助けた水木の存在があったことは明らかだ。
水木のその後
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のラストでは、水木のその後が描かれる。水木はちゃんちゃんこを着ていなかったせいか、禁域に立ち入って心を失った時貞の次男・龍賀孝三のように白髪の姿に変わり果てていた。さらに、それまで何があったのかという記憶を失ってしまっていた。こうして物語は、『ゲゲゲの鬼太郎』のベースとなった『墓場鬼太郎』の第一話「鬼太郎の誕生」を踏襲した展開へと繋がる。
エンドロールでは、「鬼太郎の誕生」をオマージュした物語の続きが描かれる。ある夜、ひとだまに案内された水木は、妖怪の夫婦に出会う。この二人こそゲゲ郎とその妻なのだが、水木には記憶がない。水木は狂骨を封じ込めたことでミイラ男と化したゲゲ郎から逃げ出すが、原作では話を聞き、子どもが生まれるまでの八ヶ月はここで見たことを黙っておくと約束している。
八ヶ月後、夫婦は亡くなっていたが、水木はその元来のやさしさで妻の方を墓に埋めてやることに。息子を心配する鬼太郎の父は、その遺体から左の目玉だけが溶け落ちて目玉おやじとなった。
ちなみにこの描写からゲゲ郎は左目を隠していただけであったということが読み取れる。『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』では、ゲゲ郎が水木に「目で見えるものを見ようとするから見えんのじゃ。片方を隠すくらいがちょうどいい」と助言するシーンがあったが、ゲゲ郎は敢えて右目だけで世界を見るようにしていたようである。
原作ではそれから三日目の夜、水木は墓場からの泣き声を聞き、墓場から這い出してきた赤ん坊の鬼太郎を目撃。水木は災いを恐れて鬼太郎を殺そうとするが、微かな記憶の中でゲゲ郎の姿を見ると、目玉おやじが見守る中、鬼太郎を抱き寄せたのだった。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』ネタバレ感想&考察
『墓場鬼太郎』との繋がりは?
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のラストは、亡きゲゲ郎と妻に代わって水木が鬼太郎を育てることになった。漫画『墓場鬼太郎』の「鬼太郎の誕生」では、水木は鬼太郎を殺せず墓場に置いて帰ったが、目玉おやじが鬼太郎を水木のところまで連れて行き、水木が鬼太郎を引き取ることを決意している。
ちなみにアニメ『墓場鬼太郎』(2008) では水木は鬼太郎を突き飛ばして墓石にぶつかったことで鬼太郎は左目を失っている。『ゲゲゲの謎』では、原作漫画に合わせて鬼太郎は生まれつき左目が見えないという設定が採用されている。
一方で、『ゲゲゲの謎』では沙代に殺された時磨や丙江は左目を潰されていた。鬼太郎の父の「片目で見るくらいがちょうどいい」という考えが影響したのか、哭倉村の怨念か、はたまた鬼太郎の母が血桜に捕えられていたことが原因かは分からないが、いずれにせよ水木が良い方向に描き直されたことは本作の特徴の一つだろう。
水木は『ゲゲゲの鬼太郎』の原作者・水木しげるとの共通点も多く、従軍経験や戦争を生き延びたこと、「子守りのばあさん」から妖怪について聞いていたことなどは、水木しげるのエピソードを元にしている。
先に触れた通り、水木は自分が心を失うと分かっていながらちゃんちゃんこをゲゲ郎の妻に着せて逃げた。おかげでゲゲ郎の妻はゲゲ郎とその妻は、ひと時の間を共に過ごすことができたのだろう。
ちなみに『墓場鬼太郎』では水木は面倒を見切れなくなった鬼太郎を追い出した後、目玉おやじを追って地獄に流され、生きた屍と化してしまう。ただし、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はTVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期と世界観を同一にする作品で、ラストで描かれた『墓場鬼太郎』風の映像は単に原作へのオマージュに過ぎない。
『ゲゲゲの鬼太郎』第6期では、目玉おやじが「鬼太郎を育ててくれた」として水木の名前を挙げている。また、鬼太郎は人間を助ける理由として、「約束みたいなもの」と、水木との間に約束があったことを示唆している。
水木と鬼太郎の父の絆、そして鬼太郎の原点を描いた『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』。何度見ても泣ける名作だ。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はBlu-rayが発売中。
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