X-MENの時代の前触れ? MCUドラマ『ワンダーマン』、〈ミュータント・サーガ〉の布石になり得るあの設定を考察 | VG+ (バゴプラ)

X-MENの時代の前触れ? MCUドラマ『ワンダーマン』、〈ミュータント・サーガ〉の布石になり得るあの設定を考察

©︎ 2026 MARVEL

『ワンダーマン』のMCU要素

2026年1月からディズニープラスで独占配信を開始した『ワンダーマン』は、MCUドラマ最新作で、予備知識がなくても単独で楽しめる「マーベル・スポットライト」の枠組みで全8話が一斉配信された。俳優のサイモン・ウィリアムズがハリウッドでスターを目指して奮闘する物語で、一方でMCUファンには嬉しい要素も散りばめられている。

『ワンダーマン』をMCU作品たらしめる大きな要素は、映画『アイアンマン3』(2013) や『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021) に登場したトレヴァー・スラッタリーの再登場、数々の作品に登場したダメージ・コントロール局の登場、そしてスーパーパワーを持っている人々が当たり前に存在しているという世界観だ。

サイモン・ウィリアムズは、スーパーパワーを持っている疑いでダメージ・コントロール局に危険視されることになるのだが、『ワンダーマン』の世界ではハリウッド業界もまた独自の規制を行っている。いわゆる「ドアマン条項」と呼ばれる規制が導入されているのだ。

ドアマン条項は、過去に起きた不幸な事件をきっかけに、大手スタジオがスーパーパワーを持つ人物の撮影への参加を拒否する内容で、オーディションの段階で俳優はスーパーパワーを持っていないことが確認される。ドアマン条項が導入された時点で保険料が莫大な額に値上がりし、大手スタジオ以外の現場でもスーパーパワーを持つ人間の参加は難しい状況となっている。

ドアマン条項の欠点

『ワンダーマン』では、自分の意思とは関係なくスーパーパワーを持ってしまった人の夢が閉ざされる状況が描かれている。一方で、スーパーパワーを持っていて、かつ演技をやりたいという人は世間的にマイノリティであり、肝心のスーパーパワーも業界のパワーバランスを変える力にはなり得ない。競争も激しい世界であり、ルールを変えるためには“数”という壁が立ちはだかるのだ。

一方で、ドアマン条項はスーパーパワー持っている人の「職業選択の自由」を疎外していると言える。アメリカでは修正第14条の「営業の自由」や「契約の自由」を根拠に職業の自由が認められている。同時に安全を目的とした合理的な規制も認められているが、ドアマン条項は、その「合理性」に疑義がある。

例えば、ドラマ『ジェシカ・ジョーンズ』(2015-2019) にも登場したマインド・ウェーブの「近づくと相手が悪人かどうか分かる」という能力など、撮影現場での重大な事故にはつながらないであろうスーパーパワーの持ち主も一律に俳優業への道が絶たれる。かつてジェシカ・ジョーンズは、「あなたも私も自分で選んだ道。彼は違う」と、能力を持って生まれたマインド・ウェーブを庇った。

その一方で、ドアマン条項では、人より筋肉質である、勘や運が異様に良い、といった現実に存在する人々まで条項の対象とみなすこともできる。つまり、選別が一律かつ恣意的であるがゆえに、ドアマン条項は合理性も公平性も失われている状態だと推察できるのだ。それは、女性として生まれてきた人をホルモンの値(血中テストステロン値)を根拠に「男性」と判断して排除するような、スポーツの世界で起きている問題と重なる部分がある。

〈ミュータント・サーガ〉で大きな変化?

こうした不平等が是正されにくいのは、当事者の数が圧倒的に少なく、他の競争者にとっては制度による排除が自身に有利に働くからだ。だから現実の世界では、少数者の権利のために立ち上がる人々や政治家の存在が必要になる。

MCUでは、この状況は今後一気にひっくり返る可能性がある。〈インフィニティ・サーガ〉、〈マルチバース・サーガ〉と続いてきたMCUだが、映画『アベンジャーズ/シークレット・ウォーズ』(2026) の後には「X-MEN」フランチャイズを軸とした〈ミュータント・サーガ〉が幕を開けると言われている。

すでに〈マルチバース・サーガ〉でも、ミズ・マーベルやネイモアに「ミューテーション」「ミュータント」という言葉が使われている。後天的に力を手に入れたスティーヴ・ロジャースやピーター・パーカーらと違い、生まれつきスーパーパワーを持ったミュータントのキャラクターが今後は大幅に増加するものと見られる。

そうしてより多様になったMCUの世界では、一律にスーパーパワーを持った人々にとって不利となる規制や法律は、シー・ハルクことジェニファー・ウォルターズや、デアデビルことマット・マードックら当事者性を持った弁護団によって覆されていく可能性もある。数の原理も重要だが、地道な活動や訴えを通して、暴力に頼らず世界を変えていくことも重要だ(それは「X-MEN」シリーズの主要なテーマの一つでもある)。

今後、MCUで「X-MEN」のミュータント設定が加速していけば、生まれた時から職業選択の自由を奪われている存在はいなくなるかもしれない。『ワンダーマン』はそうなる前の、現在のMCUの世界の状況を、残酷だが明確に示した重要な作品なのかもしれない。

現実世界でも、多数決がすべてではない。権利を奪われている少数の声が社会の仕組みに反映されるように、私たちも日頃から地道な活動に取り組んでいこう。

ドラマ『ワンダーマン』は全8話がディズニープラスで配信中。

『ワンダーマン』配信ページ

本記事の筆者が翻訳を手がけた、MCUの多数のコンセプトアートを収録した『マーベル・スタジオ:ジ・アート・オブ・ライアン・メイナーディング』はKADOKAWAより発売中。

デッドプールの30年の歴史を振り返る『デッドプール 30th Anniversary Book』も発売中。

【ネタバレ注意】『ワンダーマン』の解説&考察はこちらから。

『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』予告編第4弾の解説&考察はこちらから。

『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』ラストの解説&考察はこちらから。

ドラマ『ヴィジョンクエスト(原題)』についてはこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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