『万事快調〈オール・グリーンズ〉』児山隆監督に聞いた見どころ、キャストの魅力、そして実写化の裏側 | VG+ (バゴプラ)

『万事快調〈オール・グリーンズ〉』児山隆監督に聞いた見どころ、キャストの魅力、そして実写化の裏側

『万事快調〈オール・グリーンズ〉』児山隆監督にインタビュー

第28回松本清張賞を満場一致で受賞した波木銅の同名小説を映画化した『万事快調〈オール・グリーンズ〉』が、1月16日(金)より全国公開中。『猿楽町で会いましょう』(2019) の児山隆監督が指揮し、主人公・朴秀美(ぼく・ひでみ)役を南沙良、もう一人の主人公・矢口美流紅役を出口夏希、二人と共に「オール・グリーンズ」という同好会を結成する岩隈真子(いわくま・まこ)役を吉田美月喜が演じる。そのほかにも、羽村仁成、黒崎煌代、金子大地など今最も旬なキャストが集結。主題歌をNIKO NIKO TAN TAN、劇中のラップ指導を壮子itが担当するなど、この1月の最注目映画だ。

『万事快調〈オール・グリーンズ〉』で描かれるのは、未来が見えない町に暮らす朴秀美と矢口美流紅たちが、夢を叶えるために一攫千金を狙う高校生たちの物語。ラッパーを夢見るSF好きの朴秀美、家庭に問題を抱える映画好きの矢口美流紅、漫画オタクの岩隈真子は、「オール・グリーンズ」を結成して“禁断の課外活動”に乗り出す。

今回、バゴプラでは『万事快調〈オール・グリーンズ〉』を手がけた児山隆監督にインタビューを実施。本作の魅力とキャスト陣との取り組み、原作小説を実写化するにあたって気をつけた点などを聞いた。本インタビューはネタバレなしとなっているが、ネタバレありで内容にも触れたインタビューも公開するので、そちらもお楽しみに。


インタビュー・構成:齋藤隼飛

──『万事快調〈オール・グリーンズ〉』、楽しく拝見させていただきました。「青春クライムストーリー」と言えるジャンルの作品ですが、映画としては“明るさ”が印象的でした。監督ご自身が考える、本作の魅力を教えてください。

児山隆監督(以下、児山監督):悲壮感がないところだと思います。なぜか悲壮感がない、軽やかというか。そこは大事にしようと思いました。もちろん作中ではつらい現実も描かれていますが、それを笑いながらかわしていくような軽快な感覚があってもいいんじゃないか、という思いがありました。人それぞれ状況は違いますから、皆が皆そうできるわけではないとは思います。ただ、そういうマインドがあってもいいのかなって。

──主人公の朴秀美はいろいろな背景を持つキャラクターですが、悲壮感がないというのは特徴の一つですね。朴秀美役の南沙良さんをはじめ、キャストも個性豊かな俳優陣が揃っています。原作があるキャラクターを実写で演じてもらうにあたって、どのように制作に取り組まれたのでしょうか。

児山監督:南沙良さんは、丁寧に準備をしてくる方だと思いました。過去作を見ていてもその姿勢は感じていたので、現場で細かく指示をするというよりは、まず「この人がどんな思いで作品作りに向き合っているのか」を知ろうとしました。それは南さんだけでなく、他のキャストの皆さんも同じです。南さんと出口夏希さん(矢口美流紅役)については、ほぼ全ての過去作を観ました。吉田美月喜さんはキャスティング決定してからクランクインまで時間がなく(岩隈真子役)の出演作も7~8割ほどは拝見できませんでしたが…。過去作やメイキングなどをできる限り見て、どういうスタンスで現場に立つ方なのか、その姿勢が作品にどう反映されているのかを理解した上で、今回どうアプローチするかを考えました。

羽村仁成さん(藤木漢役)と黒崎煌代さん(ジャッキー役)については、飲み込みが非常に早かったです。特段何か大きな修正をするということはなく、最初に脚本を読んでもらった段階でほぼ言うことがなかったと記憶しています。金子くん(佐藤幸一役:金子大地)もそうなんですが、特にこの三人は本当にスッと現場に入っていて。異常なスピード感でした(笑)。

──児山監督のこれまでの映画作品では、『猿楽町で会いましょう』、「トイレのハナコ」(『イカロス 片羽の街』収録)と、二人の人物の関係性を描いてきた印象があります。『万事快調〈オール・グリーンズ〉』はバディでありながらトリオの作品でもある。朴秀美、矢口美流紅、岩隈真子という主要キャラ三人のバランスはどのように考えていましたか。

児山監督:「バランスを取ろう」と強く意識したというより、三人が一緒にいるだけでワクワクする、その感覚を大事にしました。この三人をずっと見てたくなる、みたいな。現場でもそいう感覚があったんですよね。今後この三人が揃うことってあるのかな、って思うと、そういう瞬間がとても尊くて。なんか本当に、ずっと“良い”んですよね(笑)。だから、その感情をちゃんと映像に落とし込みたいと思っていました。

その上で、誰か一人に極端に寄りすぎないことは意識しました。でも、人間関係のバランスってあるじゃないですか。美流紅は皆を引っ張っていって、朴はクールだけど何かやるつもりがあって、岩隈はあれだけ口が悪いのに意外と臆病で。皆が同じ目的を持って「いけいけどんどん」になるわけではなくて、各キャラクターが「今ここで何を思っているのか」というところを大切にしました。

──作品全体を通して、「外の世界を志向する若者たち」がテーマの一つだと思いました。児山監督ご自身も大阪出身で上京されていて、『猿楽町で会いましょう』の主人公も上京組でした。『万事快調〈オール・グリーンズ〉』でもご自身の経験を重ねた部分や、相性の良さはありましたか。

児山監督:『万事快調〈オール・グリーンズ〉』に関して言うと、むっちゃくちゃあります。ロードサイドにファストフード店があって、大した娯楽もないし、まぁ本屋とかはあるけれど、「このまま行ったらどうなるんだろう」みたいなことは、子どもの頃からすごく思っていました。そこで大人になっていく人たちも身近にいて、それで幸せになっていく人もたくさんいるんですが、漠然とした不安みたいなものが急に去来するというか(笑)。その感覚はずっと意識しながら撮っていました。

──私も大阪出身なので、すごく分かります。そういえば監督された『アオアシ』のスペシャルムービー*も上京の話でしたね。『アオアシ』の例はありましたが、監督にとって『万事快調〈オール・グリーンズ〉』は、長編映画としては初めて原作のある作品を実写化する挑戦でもありました。実写化にあたって、特に気をつけた点を教えてください。

児山監督:気をつけた点は、原作者の波木銅さんが「面白い」と思ってくれるかどうかでした。もちろん、人となりをすべて理解していたわけではありませんが、この原作が波木さんにとって大切なものであることは明白だと思います。原作とまったく同じ感情体験を再現することはできないかもしれないけれど、原作を読んだ時に感じた爽快感や読後感に近いものを、映画でも得られるような、不思議な関係にできたらいいな、という思いは最初からありました。

そのためには、リスペクトを持ちながらも、勇気を持って変えるところは変える必要がある。「気に入ってもらおう」と作るのではなく、「好きだ」と思ってもらえたらなって思いながら作りました。

*『アオアシ』のスペシャルムービー:小林有吾のサッカー漫画『アオアシ』をベースに制作された全11話の実写ショートムービーを児山隆監督が指揮した。「4月のキックオフ」と題された同作では、サッカー留学で上京する少年と周囲の人々の姿が描かれた。

──原作者の波木銅さんとは、どのようなコミュニケーションを取られたのでしょうか。

児山監督:今話したようなことを自分の考えを文章にしてお渡ししました。拍子抜けするぐらいの感じで、「好きにやってください」という感じで言ってもらったのですが、一度きちんとご挨拶もしたくて、お時間をいただいてお会いしました。その時にも同じようなことをお伝えしたのですが、「存分にやってください」と言ってくださったんです。
完成した映画を見た波木さんが「自分が原作したとかは関係なく、いち映画としてめちゃくちゃ面白い映画でした。理想的だった」と仰っていたと担当の編集者の方から聞きました。人づての話ではありますが、それを聞いたときは本当に嬉しかったですね。

――バゴプラを読んでくれている方はSFファンの方も多いのでお聞きしておきたいのですが、児山監督が影響を受けたSF作品はありますか。

児山監督:好きなのは『リベリオン』です。好きですねー、クリスチャン・ベールの。古典的なディストピアSFで、監視社会が描かれるんですが、そこに「ガン=カタ」っていう拳銃と武術を組み合わせた格闘術が登場するんです。それが革命的にカッコよかったですね。ただ劇中の美術で、未来の車とか出せないから車を全部白塗りにしていたりして、そういうところが可愛くて好きです。

あとは『マンダロリアン』がめちゃくちゃ面白くて、ビックリしちゃいました。すっかり「スター・ウォーズ」を観なくなっていたんですが、『マンダロリアン』は面白すぎるなって(笑)。本当に毎話面白くて。今度の映画も今から楽しみです。

『ブレードランナー』も好きです。昔レンタルビデオ屋にあって、ポスターの絵が怖くてなかなか観られなかったんですけど、高校3年生くらいの時にやっと観て衝撃を受けました(笑)。高校生の時に「これ凄すぎないか」と思ったのを覚えています。

最近の作品でも、『ザ・クリエイター/創造者』とかめっちゃ面白かったです。ハードコアなSFの知識はまだまだなので勉強が必要ですけど、SF映画はいつか撮りたいと思っています。

児山隆監督作品『万事快調〈オール・グリーンズ〉』は全国公開中。

『万事快調〈オール・グリーンズ〉』公式

波木銅による原作『万事快調〈オール・グリーンズ〉』は文春文庫より発売中。

¥880 (2026/01/23 09:26:16時点 Amazon調べ-詳細)

映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』のネタバレありの児山隆監督インタビューは後日公開予定!

【作品概要】
◎タイトル:『万事快調<オール・グリーンズ>』
◎原作:波木銅「万事快調<オール・グリーンズ>」(文春文庫)
◎監督・脚本・編集:児山隆
◎出演:南沙良 出口夏希 / 吉田美月喜 羽村仁成 黒崎煌代 / テイ龍進 松岡依都美 安藤裕子 / 金子大地
◎主題歌:NIKO NIKO TAN TAN 「Stranger」 (ビクターエンタテインメント/Getting Better)
◎公開:2026年
◎配給:カルチュア・パブリッシャーズ
◎コピーライト:©2026「万事快調」製作委員会
■公式サイト https://www.culture-pub.jp/allgreens/
■インスタ https://www.instagram.com/allgreens_movie/
■X https://x.com/allgreens_movie

東京国際映画祭で実施された児山隆監督の舞台挨拶の模様はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
お問い合わせ
¥2,200 (2026/01/23 02:51:15時点 Amazon調べ-詳細)
社会評論社
¥1,650 (2026/01/22 22:53:12時点 Amazon調べ-詳細)

関連記事

  1. 登場人物を多面的にする演出論『ペナルティループ』荒木伸二監督、山下リオ インタビュー

  2. 小川哲インタビュー:『嘘と正典』までの全著書から“流儀”を紐解く【SFG×VG+】

  3. 「海外の読者は実在する」勝山海百合、2020年を振り返る。相次ぐ英訳、感じた変化【Kaguya Planet インタビュー】

  4. SF作家対談 林譲治×春暮康一:デビュー・二冊目・アンソロジーを語る。〆切とクオリティを守れるか