宇宙の海へ深く潜れ。ソ・ユンビン「ルナ」(訳:廣岡孝弥)ウェブマガジンで先行公開開始! | VG+ (バゴプラ)

宇宙の海へ深く潜れ。ソ・ユンビン「ルナ」(訳:廣岡孝弥)ウェブマガジンで先行公開開始!

宇宙空間のホワイダニット、ウェブで先行公開開始! ちっぽけな命の存在論を探究する荘子SF、無料で一般公開開始!

作家や翻訳者たちが、韓国SFの新しい風を紹介する企画「ニュー韓SFプロジェクト」。最初の取り組みとして、ウェブマガジンKaguya Planetにて短編小説を掲載していきます。第三弾はソ・ユンビンさん「ルナ」です。翻訳は廣岡孝弥さんです。

また、第二弾として会員向けに先行公開していた、ウィレさんによるSFミステリ短編「マゼンタ・C・セレスの愛と革命」(翻訳:廣岡孝弥)は、全文を無料で一般公開しています。

ウェブマガジンKaguya Planetでは毎月、SF短編小説を配信中!

掲載した作品は、マガジン『Kaguya Planet』として刊行します。

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ニュー韓SFプロジェクトの第三弾はソ・ユンビンさん

ニュー韓SFプロジェクトの第三弾はソ・ユンビンさんです。ソ・ユンビンさんは2022年、『ルナ』で第5回韓国科学文学賞中短編部門の大賞を受賞しデビュー。済州島の海女の生活を宇宙に置き換えた本作は、審査員のキム・ボヨンさんから「宇宙遊泳を海女の潜水に例えて文学的に美しく変奏した作品で、韓国でしか生まれない作品」と高く評価されています。

著書に、短編集『波が着く未来』『翼の切除手術』、長編『永遠なる黄昏の恋人たち』『ユニバーサル・シェフ』などがあります。自身の小説をファンタスチカ(現実世界の規則を超越・再構成する思弁小説・幻想小説で、レムやストルガツキー兄弟の作品に代表される)に連なるものと位置付けるソ・ユンビンさんは素晴らしいユーモアの持ち主でもあります。昨年のSF作家ソンや今年の大分SF大会では、ご本人曰く「オタク日本語」を駆使して交流。『日韓SF交換日記』では、ソ・ユンビンさんを「家来にしている」猫の視点から、大統領弾劾デモに参加する日々やシュレーディンガーの箱に閉じ込められた猫を思い描くソ・ユンビンさん自身を描きました。

翻訳を手がける廣岡孝弥さんは2021年に第5回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」にて『モーメント・アーケード』(ファン・モガ作)で最優秀賞を受賞。ファン・モガさん『生まれつきの時間』をはじめとした韓日翻訳、[サウナ×人]を掘り下げるおしゃべりシリーズ『トトノイ人』をはじめとしたリトルプレスの制作やサポート業など多岐に渡り活躍しています。プロジェクト第一弾イ・サンファさん「蝸の角」、第二弾ウィレさん「マゼンタ・C・セレスの愛と革命」に引き続き翻訳をしてくださいました。

宇宙に響く磯笛スンビの音は、海女たちの生存を知らせる

ソ・ユンビンさん「ルナ」は、船外活動服と命綱一つで宇宙へ「潜水」し、自身の吸う酸素を推進力としても使いながら、貝やウニを獲るように衛星群の鉱石を採集する海女たちを描いた作品です。日本では四・三事件やリゾート地としても知られる済州島は、農地に適した場所の少ない火山島であったため古くから素潜り漁が行われ、現在でも多くの海女が生活しています。ソ・ユンビンさんはそんな海女の生活の舞台を宇宙に移し、若者の成長と存在起源を問う物語として再構成しました。

主人公は、宇宙を遠くまで「潜水」することを夢見る見習いの海女の「ルナ」。意地っ張りで無謀なところもあり、同期で同じくハルマンに育てられたイオをいつも心配させています。レム『ソラリス』やキューブリック『2001年宇宙の旅』といった古典SFを織り込みつつ、先輩海女のハルマン(おばあさん)たちにどやされながら宇宙へ飛び込むルナたちの海女仕事ムルジルの日常が細やかに描かれています。

ルナを見守る三人のハルマンの名前にも工夫が凝らされています。ルナたち若い海女の育成と全体の号令・指揮を行うフヨ・ハルマンは百済の首都「扶余」と「付与する」をかけています。「風紀担当」でルナたちの育ての親でもあるマニョン・ハルマンは、韓国語の魔女(マニョ)とも発音が似ているフランス語のmignon(小さい・かわいらしい)から。ハルマンのアイデンティティを韓国に限定しないのが狙いです。三人目のヒウォン・ハルマンは「希願(희원/ヒウォン)」で、ルナの目標が望み薄く、遥か遠くにあるというニュアンスが込められています。

とはいえ、ここでもユーモアは健在です。宇宙を遊泳する海女たちの生活を描く美しい描写の一方、宇宙遊泳しながら手にはマンサリとビッチャン(ともに海女の使う採集道具)を持っているというビジュアルを思い浮かべると、韓国の読者は爆笑してしまうのだそうです。

ソ・ユンビン「ルナ」(廣岡孝弥訳)

《あらすじ》衛星の表面を掘り、鉱石を採集する宇宙の海女・ルナ。まだ見習いだから命綱はたったの30mで、ルナはそれが不満だ。ある日の船外活動中、ルナは見知らぬ宇宙服を着て漂う人を見つけるが……。

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ソ・ユンビン「ルナ」(廣岡孝弥訳)を読むには

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ニュー韓SFプロジェクトの作品は、約一ヶ月の会員向けの先行公開期間を経て、無料で公開いたします。ソ・ユンビン「ルナ」(廣岡孝弥訳)は10月3日(土)に一般公開予定です。

ニュー韓SFプロジェクトの第二弾、ウィレ「マゼンタ・C・セレスの愛と革命」(廣岡孝弥訳)を一般公開中!

ニュー韓SFプロジェクトの第二弾として、Kaguya Planetで先行公開していた、ウィレ「マゼンタ・C・セレスの愛と革命」(廣岡孝弥訳)を一般公開中! 会員登録も必要なく、全文を無料で読むことができます。

ウィレさんは2010年8月Naver「本日の文学」シリーズに「迷宮には怪物が」が掲載され作家として本格的にデビュー。以後ウェブ小説「魔王が多すぎる」「賢い文明生活」の連載のほか、様々な媒体に寄稿しています。

2022年には「殺す方が宜しい」で第2回BritG終末文学賞を受賞。これはゾンビとボディ・スナッチャーをテーマとしたSFやホラーなどのジャンル小説に特化した文学賞です。さらに2023年には「両足で歩く男の怪談」で第11回SFアワードを受賞、2024年には本作「マゼンタ・C・セレスの愛と革命」で第12回SFアワードを受賞しました。作家名のウィレ(위래)は韓国語の上(위)と下(아래)を合わせて作ったペンネームだそうです。

〈愛〉を止めるな! 愛を止められないなら、愛し方を変えるんだ! ウィレ「マゼンタ・C・セレスの愛と革命」

ウィレ「マゼンタ・C・セレスの愛と革命」(廣岡孝弥訳)は、人類があらゆる星系へ進出し、覇権を争う遠未来が舞台です。使用料を支払えば、戦闘指揮や軍事能力のある人間〈有名者〉のレコードを転写=複製できる時代。それぞれの共同体は転写した〈有名者〉を雇って戦争や調査を行っていました。

そんな〈有名者〉の一人、リュジンの複製である語り手はどうやら訳あり。廃艦の調査に向かった探査船〈神聖冒涜〉内で七人を殺害したようなのですが、本人はそれを覚えていません。なぜなら、その直後に自分自身の頭の中身を「編集」して記憶を消してしまったから。物語は、頭のまっさらな状態の語り手がそのことを聞かされるところから始まります。

ウィレさんの活躍する「ウェブ小説」とは、韓国で発達したエンタメ小説ジャンルの一つです。ファンタジージャンルを中心とするのは日本のライトノベルと似ていますが、紙の本ではなくウェブ掲載が前提となっている点が異なります。ウィレさんはウェブ小説のほか、SFやホラーなどの様々なジャンル小説を横断しながら作品を発表しています。

「マゼンタ・C・セレスの愛と革命」もまたジャンル横断的な作品です。各共同体が覇権を争うスペース・オペラの世界を舞台にして、人間の頭の中という究極の密室で起こるミステリー。それは愛すらも「編集」する技術によって、人間とは何かという根源的な問いへと繋がっていきます。

タイトルのマゼンタ・C・セレスは、古代に存在していた帝国の〈有名者〉にして、転写すれば共同体を滅ぼすという伝説の〈デーモン〉です。心身を服従させ徹底的に支配しようとする力を目の前に、それが偽りだとわかっていても操作されてしまう人間。崇高な人間の愛が利用される時、どうすれば「愛」は革命へと繋がるのか。人間の生、存在、そして愛、興味深いテーマが盛りだくさんの作品です。

ウィレ「マゼンタ・C・セレスの愛と革命」(廣岡孝弥訳)

《あらすじ》能力のある人間の複製を雇用できる時代。探査船〈神聖冒涜〉内で起きた殺人はすぐさま解決したかに思われた。犯人のリュジンは権力志向で、その複製たちがクーデターを企てた例が複数の星系で報告されているからだ。犯人も動機もあからさまに思われた事件は、他ならぬリュジン自身のとある行動によって謎を深めていく。

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ソ・ユンビンさんも参加している『日韓SF交換日記 あなたの言葉を聞くための対話』好評発売中!

ソ・ユンビンさんも参加している、日本SF作家クラブ・韓国SF作家連帯編『日韓SF交換日記 あなたの言葉を聞くための対話』はKaguya Booksから好評発売中! 総勢三十名以上のSF作家・翻訳者が集って、「SFの魅力」「フェミニズム」「病気や障害と創作」「作家として大切にしているもの」「クリエイターと政治」など、様々なトピックについて綴った一冊です。

ソ・ユンビンさんはSF作家の八島游舷さんと共に、SFとは何か、ということについて日記を綴っています。ソ・ユンビンさんを「家来にしている」猫の視点から、シュレーディンガーの猫の比喩などを交えてユーモラスに書かれた日記をお楽しみください!

『日韓SF交換日記」はその他にも、『僕の狂ったフェミ彼女』などで知られるミン・ジヒョンさんによる講演録「フェミニズムとSFは韓国でどう出会い、広がったのか」や、両団体の作家24名が二人一組になって言葉を交わした〈日韓SF交換日記〉などを収録。

〈日韓SF交換日記〉では、「韓国/日本女性SF」、「フェミニズムSFと韓国/日本のマンガ」、「韓国SFの歴史と傾向」、「闘病経験を作品に盛り込む」、「ハードSFとテクノロジー」、「SF作家になるまで/なってから」など、社会的な話から個人的な話まで、様々なテーマについて執筆しています。

また、、『となりのヨンヒさん』などで知られるチョン・ソヨンさんと、池澤春菜さんが、作家団体の代表をする苦労や翻訳と執筆の相互影響、複業の秘訣や大好きなSF作品などについて語り合対談「わたしとあなたのエンカレッジ!」、ソ・ユンビンさんファン・モガさんへ・ドヨンさんミン・ジヒョンさん藤井太洋さん、そして司会の堀川夢さんによる座談会「日本から見た韓国SF、韓国から見た韓国SF ──フェミニズム、男性性、兵役、連帯の可能性」、かかり真魚さんによる短編小説「エコーズ」も収録しており、充実の一冊です。

SF、フェミニズム、みみっちい喧嘩、醜くなる自由…… 韓国と日本、社会と個人、フィクションと現実。あなたとわたしの間で呼応する、よりよい明日を目指すためのたくさんの言葉たちを詰め込んだ一冊、ぜひお手に取ってみてください。

『日韓SF交換日記 あなたの言葉を聞くための対話』
編:日本SF作家クラブ・韓国SF作家連帯
イ・コンヘ/イ・サンファ/イ・シド/イ・ソヨン/ソ・ユンビン/チェ・イテク/チョン・ソヨン/チョン・ドギョム/チョン・ヘジン/チョンイェ/デイナ/ファン・モガ/へ・ドヨン/ホン・ジウン/ミン・イアン/ミン・ジヒョン/揚羽はな/池澤春菜/井上雅彦/白井弓子/上田早夕里/かかり真魚/吉良佳奈江/立原透耶/田場狩/中野伶理/長谷敏司/林譲治/廣岡孝弥/藤井太洋/堀川夢/溝渕久美子/八島游舷
サイズ:四六判
ISBN:978-4-911294-09-3
ページ:304ページ
価格:2700円+税

収録しているコンテンツ
講演:フェミニズムとSFは韓国でどう出会い、広がったのか ──ミン・ジヒョン
日記:韓国と日本のSF作家24人12組による交換日記
対談:わたしとあなたのエンカレッジ! ──チョン・ソヨン×池澤春菜
座談会:日本から見た韓国SF、韓国から見た韓国SF ──フェミニズム、男性性、兵役、連帯の可能性
小説:かかり真魚「エコーズ」

VG+編集部

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