鏡の国の生き物をつくる? SFと一緒に学ぶ、鏡像生命学と合成生物学
見た目も振る舞いも現生生物と同じ。しかし分子構造が鏡写しに反転しており、消化できる食べ物も感染する病気も違う、いわば鏡の国のエイリアン。「鏡像生命」と呼ばれるそんな生き物をつくる「鏡像生命学」と呼ばれる研究が今、世界中で進んでいる。
鏡像生命とはどのような生き物で、その誕生は人類社会にどんな変化をもたらすのか。医療や化学分野に革新をもたらす可能性もあるが、危険性もはらんでいる鏡像生命学とそれを可能にする合成生物学の最前線と今後の可能性を、研究者とSF作家が描く新しいタイプの入門書『鏡の国の生き物をつくる SFで踏み出す鏡像生命学の世界』が2025年8月に日刊工業新聞社から刊行される。
『鏡の国の生き物をつくる』には、合成生物学のホープ・藤原慶による「鏡像生命とは何か」を掲載。研究者にしてスペキュラティブアートの専門家・長谷川愛、人工知能やSFプロトタイピングの研究者・大澤博隆が藤原慶とともに監修し、茜灯里・柞刈湯葉・瀬名秀明・麦原遼・八島游舷の5名のSF作家がを舞台にしたSF短編小説を寄稿する。また、髙田咲良(合成生物学)、見上公一(科学技術社会論)、山本 直希(素粒子・原子核理論)と3名の研究者が鏡像生命と関連するトピックを解説。SF作家チョン・ソヨン等が参加する、SF作家と研究者による鏡像生命についての対談も収録している。
鏡像生命についての最先端の知識が得られるだけでなく、それがもたらす社会システムの変化や価値観の変化について考え、ひいては我々の世界についても想いを巡らせることのできる、注目の一冊だ。
鏡の国のエイリアン? 鏡像生命とは……
我々人類を含む生物たちは、DNAや酵素(さらにそれを構成するアミノ酸)といった様々な小さな部品で成り立っている。そしてその部品は、鏡写しに同じ形のものを作ることができる。例えば右手と左手、右耳と左耳が同じ構造を持って同じ働きをするように、鏡写しの部品たちは同じ働きをすることができる。しかし、右手用に作られた手袋を左手にはめることができないように、右手用に作られたハサミは左手では使いにくいように、鏡写しの部品たちは、働きかけ、作用する相手が異なっている。
生命に由来する地球上のアミノ酸はすべて、「L型」と呼ばれる形のアミノ酸だ。これを鏡写しにした「D型」と呼ばれるアミノ酸と、それをベースにしたDNA、RNA、タンパク質、生命、さらには動物や人間(これを鏡像生命・鏡像人類と呼ぶ)の再現までもが、現在の合成生物学の研究では視野に入っている。
鏡写しのDアミノ酸からできた鏡像人類は、鏡写しの部品たちが働きかける相手が異なるため、味覚・吸収できる栄養や毒として作用するもの・匂いなどにおいて我々とは異なる。我々と同じ言葉を話しながら、まったく違う文化を生きる存在との出会いは、世界をどんなふうに変えていくのだろうか。
『鏡の国の生き物をつくる SFで踏み出す鏡像生命学の世界』
『鏡の国の生き物をつくる SFで踏み出す鏡像生命学の世界』
監修・編:藤原慶
監修:大澤博隆、長谷川愛
目次
藤原慶「はじめに」
柞刈湯葉「螺旋を左に、ハンドルを右に」
藤原慶「鏡像生命とは何か」
「SFで踏み出す鏡像生命学の世界①」 茜灯里、チョン・ソヨン、長谷川愛、藤原慶
八島游舷「Dワールド」
麦原遼「均衡線」
髙田咲良「細胞を創る研究」
茜灯里「乙姫なんかじゃない」
見上公一「科学者の自治をめぐって」
瀬名秀明「ウィクラマシンゲによろしく」
山本直希「宇宙における鏡像対称性」
「SFで踏み出す鏡像生命学の世界②」 茜灯里、柞刈湯葉、大澤博隆、瀬名秀明、長谷川愛、藤原慶、麦原遼、八島游舷
大澤博隆「あとがき」
協力:慶應義塾大学サイエンスフィクション研究開発・実装センター
後援:石井・石橋基金 慶應義塾大学若手研究者育成ものづくり特別事業「鏡像世界の構築から広がるマルチバース創成」
校閲:青木航
装画:植田たてり
装幀・DTP:谷脇栗太
企画編集:Kaguya Books
発売:社会評論社
協力:サイエンスフィクション研究開発・実装センター
後援:石井・石橋基金 慶應義塾大学若手研究者育成ものづくり特別事業「鏡像世界の構築から広がるマルチバース創成」
発行:日刊工業新聞社
サイズ:A5版
ページ: 200頁
定価:1800円(税込1980円)
ISBN:978-4-526-08403-4
外来種問題についてSFと一緒に考える、『外来種がいなくなったらどうなるの?』がKaguya Booksから刊行!
日本国内における外来生物をめぐる状況や、顕在している問題とその解決を、北海道大学の学生たちを主人公とした物語を通して、SF的な想像力でシミュレーションしてみる書籍『外来種がいなくなったらどうなるの? SF思考で環境問題を考える』が、SFレーベルKaguya Booksから2025年8月に刊行されます。
「もしも外来種がすべて消えたら?」「もしも外来種が倍増したら?」「もしも在来種版生類あわれみの令が出たら?」……科学的な知見の積み重ねと地道な取り組み、慎重な対応が必要な「外来生物」について、研究者や外来生物の防除活動に携わってきた方々への取材に基づいた丁寧な議論を、極端な状況を想像するSFのストーリーと、豊富なコラムやインタビューによって読みやすくまとめた一冊です。
編著:宮本道人、古澤正三
監修:北海道大学CoSTEP
著:岩田健太郎、佐藤柊介、竹村昌江、中山小夏、西野沙織、福島彩夏
価格:1900円+税
判型:A5判並製
装画・装幀・DTP:吉池康二
ページ数:176ページ
Cコード:C0045
ISBN:978-4-911294-05-5
発行・発売:Kaguya Books
