中国が牽引するハリウッドの「パシフィック・リム化」 〜『パシフィック・リム』をおさらい〜 | VG+ (バゴプラ)

中国が牽引するハリウッドの「パシフィック・リム化」 〜『パシフィック・リム』をおさらい〜

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最高収益は中国! パシフィック・リムをおさらい

世界的ヒット作となった『パシフィック・リム』

2013年に公開されるや、世界中のロボットファンを虜にした映画『パシフィック・リム』(2013)。2018年4月には続編『パシフィック・リム アップライジング』が公開され、SF映画界でも久しぶりの新作人気シリーズとなりつつある。
二作目は新人映画監督のスティーブン・S・デナイト監督が指揮をとるが、一作目を手がけたギレルモ・デル・トロ監督の巨大ロボットへの愛情あふれる作風はそのまま活かされている。日本の特撮やアニメに影響を受け日本語で「Kaiju」と呼ばれる巨大モンスターや、一作目で舞台となった香港に、多様な人種の俳優を起用するなど、国際色豊かでボーダレスな世界観がパシフィック・リムシリーズ最大の特徴とも言える。『パシフィック・リム』の全世界の興行収入、約4億1,100万ドル(約470億円)という結果をみれば、SF映画界に新たなスタンダードを確立しようとする試みは、おおむね成功を収めたと言えるだろう。

本国アメリカ超え。中国1億ドル以上の興行収入

この興行収入の中で、唯一アメリカ国内の興行収入を上回ったのが、ほかでもない中国なのだ。日本での興行収入が約1,450万ドル(約15億円)であったのに対し、中国での興行収入は約1億1,200万ドル(約129億円)となっている。まさに桁違い。アメリカの約1億180万ドル(約117億円)を上回り、総興行収入の4分の1以上を占める大ブレークであった。このヒットも受けてか、2016年には中国のワンダ(大連万達)グループが製作会社のレジェンダリー・ピクチャーズを買収。正式に中国資本のハリウッド映画会社となった。中国人俳優を起用し、中国を舞台にしたハリウッド映画が増えていく中、英フィナンシャル・タイムズ紙のジョン・ガッパー記者は、レジェンダリーが米国内での観客を取り逃がしていると指摘した。だが、レジェンダリー制作の『グレートウォール』(2016)は、アメリカでの興行成績約4,550万ドル(約52億3,000万円)に対し、中国では4倍近くの約1億7,000万ドル(約195億5,000万円)を記録。『パシフィック・リム』と同様、中国が“主戦場”となった。アメリカ国内を中心としたマーケティングの意義は失われつつあるのだ。

中国での大ヒットを牽引した中国籍イェーガー

思わぬ形でスター誕生。三つ子のイェーガーパイロットの正体

『パシフィック・リム』は、真の意味での“グローバルマーケット”をハリウッドに持ち込んだ作品となるかもしれない。同作では、香港を舞台に、怪獣と巨大ロボット・イェーガーの戦いが繰り広げられた。中国籍のイェーガーとして登場したクリムゾン・タイフーンは、作中で唯一3名のパイロットが乗り込み、三本の腕を操るアクロバットな仕様だ。チャン・ウェイ・タン、ジン・ウェイ・タン、フー・ウェイ・タンの三つ子パイロットを、実際に三つ子であるルー三兄弟(チャールズ・ルー、ランス・ルー、マーク・ルー)が演じた。ロシア人のカイダノフスキー夫妻を演じたロバート・マイエとヘザー・ドークセンは、他人同士でありながら長年連れ添った夫婦役を演じなければならなかった。しかし、ルー三兄弟は息もピッタリに演じきり、中国の観客を熱狂させた。ところで、このルー三兄弟、実はカナダ生まれのカナダ育ち。母国語は英語で、中国語はほとんど話すことができなかったようだ。それでも、公開後から中国のテレビ番組に引っ張りだこで、2015年頃にはバラエティ番組のトークに中国語で参加するようになっている。同作の形に捉われない多様な起用が、思わぬ形でスターを誕生させたのだ。

ハリウッドのパシフィック・リム化

中国資本となって作成された続編

そして、ワンダグループのレジェンダリー買収後に、満を持して公開された『パシフィック・リム アップライジング』。今回は北京出身の中国人俳優ジン・ティエン(景甜)が重要な役割を演じる。中国の巨大企業シャオ産業を中心として物語が展開されるが、「パシフィック・リム=環太平洋」というタイトル通り、シドニー(オーストラリア)、香港(中国)、東京(日本)を舞台にイェーガーが激しい戦いを繰り広げる。そこで動き回るのは、デル・トロ監督が愛した日本アニメを題材としたロボット達だ。資本では敵わないかもしれないが、確実に蓄積され、人を育ててきた日本のコンテンツはそこに生きている。

「東のハリウッド」

一方で、今作では、ワンダグループが8,100億円を投資したとされる“東のハリウッド”こと、青島東方影都(チンタオ・オリエンタル・ムービー・メトロポリス)で撮影が行われた。不動産会社として創設されたワンダらしく、一時は施設の売却報道もなされたが、引き続き同社がマネジメントに携わることが明言されている。ハリウッドにおける中国資本の快進撃は、まだまだ終わりそうにない。

2017年には#MeTooムーブメントによって、長年にわたって蓄積された歪みをさらけ出した“ハリウッド”。人材も土地も資本も、そして市場までもが、その中心地をパシフィック・リム=環太平洋に広げる時代が来るのだろうか。ハリウッドの“パシフィック・リム化”を注視したい。

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