『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』公開
2014年に放送を開始したテレビ朝日の人気ドラマ『緊急取調室』の映画版にして最終章となる『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』が2025年12月26日(金) より全国の劇場で公開された。本作は2022年に公開される予定だったが、同年発生した安倍元首相銃撃事件と、2023年に首相役で出演する予定だった市川猿之助の逮捕により2度の延期を経験した。
そして2025年、首相役を新たに石丸幹二が演じてついに劇場版が日の目を見ることになった。2025年10月から12月にかけては元々予定のなかったシーズン5も放送された他、TELASAでは配信オリジナルドラマの『緊急取調室 FINAL CROSSROAD』も配信されている。全ての物語が『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』へと繋がっていくことになる。なお、本作ではドラマ版と同じく常廣丈太監督・井上由美子脚本のタッグで制作されている。
今回は、『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』について、特にラストの展開に注目して、ネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末のネタバレを含むため、必ず劇場で本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
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『THE FINAL』に相応しいオールスターキャスト
『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』の舞台はシリーズの最新の時系列で、シーズン5で行われた非常召集が解かれた後、緊急取調室の面々はそれぞれの持ち場に戻っている。巨大台風20号が日本列島を襲い、政府が対応を急ぐ中、長内総理の襲撃事件が発生。緊急取調室はまたも緊急招集され、犯人の取り調べを行うことになる。
シーズン5で非常召集が行われて解散したばかりなので、緊急取調室も随分と都合の良いヒーローチームのようになっている。だが幸い、真壁、梶山、菱本、小石川、そして玉垣のお馴染みのメンバーはそんな状況にも、もう慣れている感すらある。
映画『緊急取調室 THE FINAL』の事件は、被災者を受け入れている病院の視察に訪れた長内総理を、無職の森下弘道が襲撃。緊急取調室=キントリが聴取にあたったが、森下はわずかな情報しか出さず、捜査一課の監物・渡辺、生駒・酒井の手も借りて森下の過去と長内総理の繋がりを洗い出していく。生駒と酒井は2022年に放送されたスペシャル第二弾でキントリに配属された若手で、シーズン5でも助っ人として登場していた。
また、初代キントリメンバーの一人、中田善次郎の息子である山上善春も捜査一課の刑事として監物・渡辺の「モツナベ」コンビをアシスト。気づけば正規メンバー5人と捜査一課のサポートメンバー5人からなる10人の大所帯が完成しており、『THE FINAL』に相応しいオールスターキャストが実現している。
さらに、映画『緊急取調室 THE FINAL』では、2015年のドラマスペシャル以降しばらく姿を見せていなかった真壁有希子の娘・真壁奈央が救急救命士になって登場。演じる杉咲花は高校生だったシーズン1から奈央を演じており、映画公開時点で28歳になっている。
森下の狙い
さすがは優秀なキントリと捜査一課、捜査を進めるうちに森下と長内は同学で、同じヨット部に所属していたこと、学生時代に一名が死亡した遭難事故を共に生き延びていたことが明らかになる。さらに、長内総理が台風の災害対策会議に遅刻した「空白の10分」の間に森下と電話をしていたことも発覚。徐々に真相の断片が見え始めてくる。
森下は長内総理を襲撃する時に「空白の10分」を糾弾したが、実際には総理が何をしていたかを知っている立場だった。それでも警察に捕まり、全容を話すのではなくわずかな情報を与えていた理由は、長内総理が抱える秘密を警視庁捜査一課に捜査させるためだった。自分から公安に話せば総理の不祥事はもみ消されると考えたのだ。
様々な事件を解決に導いてきた『緊急取調室』の捜査一課に捜査させるためにわざと捕まるという発想は予想外で面白かった。現行のキントリに既に安心感と信頼があるからこそ説得力を持つ展開で、同時にキントリは森下の手のひらの上で転がされていたということにもなる。
ところが、森下は重い癌を患っており、ここで体調を崩して入院、森下からの供述はこれ以上得られない状態になってしまう。総理と警察上層部は大型台風が迫る中で森下の勾留期間切れと事件が有耶無耶になることを狙っていたが、ついにキントリは長内総理の取り調べに向けて動き出すのだった。
郷原は何を言っていたのか
前代未聞の総理大臣の取り調べ実現に向け、まずは磐城副総監が長内総理のもとを訪れて、警視庁の激励訪問を提案。建前を作りつつ、ヨット事故の被害者宅で見つかった航海日誌のコピーをチラつかせ、キントリが真相に辿り着いていることをアピールしている。建前を作りつつテーブルの下で脅しとも言える駆け引きをする、なんだかんだで出世した磐城らしい巧みな作戦だ。
一方、真壁が訪れたのは収監されている郷原政直のもとだった。郷原は元警視庁刑事部の部長で、キントリを創設した張本人であり、シーズン1ではかつて真壁の亡き夫・真壁匡の殺害を指示した犯人として逮捕された。
真壁は長内総理の取り調べ実現のために郷原に警備部を動かしてほしいと協力を要請すると、郷原は真壁に、角田警備部長へ「つまらないジョークで退屈している」と伝えればわがままを聞いてくれると返答。シーズン1の大ヴィランが味方になるまさかのパターンだ。
これまでの情報を整理しておくと、郷原は警察内で資金を違法にプールする︎“裏金づくり”を行なっており、不正や不祥事を内々に処理するために使っていた。真壁匡はその不正を発見し、告発を決意したがために消されたのだ。実行犯の堤は拳銃自殺でこの世を去っていたが、一連の事件には押収品の拳銃が使われており、捜査の中でキントリの春さんこと小石川春夫も銃撃を受けていた。
配信オリジナルドラマの『緊急取調室 FINAL CROSSROAD』では、警視庁総務部の石塚という人物が登場し、自身が押収品の拳銃を管理していたことを明かした。一方で、事件で使われた拳銃は何者かによって盗まれていたことを明かすと、警備部長の角田が登場。別件で石塚を連行し、石塚は去り際に真壁に「見ての通りだ」と告げ、角田が真壁匡殺害を含む事件に使われることになる拳銃を押収品から盗んで調達していたことが示唆された。
シーズン1では、郷原一人が一連の事件の罪をすべて被ったことで、警察内部の他の人々は罰されることがなかった。一方で、『FINAL CROSSROAD』では郷原が逮捕時に「私は笑えるジョークが好きだ」と言ったことが紹介され、梶山はこれを「服役中も睨みを効かせている」というメッセージだと解釈していた。
不正と事件に関与していた警察たちが、より良い警察組織づくりのために尽力しているうちはニコニコして黙っておいてやる——それが郷原のメッセージだった。今回の映画『緊急取調室 THE FINAL』での「つまらないジョークで退屈している」という角田への言付けは、「お前が凶器の拳銃を盗んで調達したことをバラすぞ」という脅しのメッセージだったのだ。
郷原がやったことは不正であり、人殺しであり、許されるものではないが、私利私欲のためではなく、警察組織を思って起こした事件でもあった。それを見抜いた梶山と真壁は、郷原なら動くはずだと考えたのだろう。それにしても、夫の死の原因である犯人を利用して総理の取り調べという最強のカードを得た真壁さん、強すぎる。そして、郷原を演じる草刈正雄のヴィラン演技も良過ぎた。
警備部長の角田は切り札を持ってやって来た真壁の前にあっさり撃沈。長内総理の退出時の導線をキントリの取調室がある地下を通るルートに変更する。ちなみに角田を演じた勝村政信は、「緊急取調室」と同じく前年に「FINAL」となる映画版が公開されたテレビ朝日の木曜ドラマ「ドクターX」シリーズでの加地秀樹役のコミカルな演技を全く感じさせないシリアスな演技を披露していた。
『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』ラストをネタバレ解説&考察
vs 総理大臣
映画『緊急取調室 THE FINAL』のラストでは、キントリが総力をあげて長内総理を地下の取調室に誘導。災害対応中の総理を、警察上層部の許可を得ずに取り調べするという非現実的な展開をアクロバティックな方法で実現していく。
「見学」「体験」「雑談」とステップを踏んでいき、長内総理は取り調べを受けることになる。そんな中、台風の影響で外国籍のタンカーが炎上し、長内総理は自衛隊によるタンカー撃沈を指示。国内で総理が自衛隊の武器使用を指示する異例の作戦だ。
なお、長内総理は災害対応にあたって、官邸が知事や自治体を飛び越えて指示を行える「広域支援即応措置」を発令している。この制度は『緊急取調室 THE FINAL』オリジナルの制度であり、現行日本には戦前政府に権限が集中した反省から緊急事態全般をまとめて定義し、官邸に判断を委任する法律は存在しない。
タンカー撃沈作戦が実行される間、長内総理は録音・録画を止めさせた上で、ついに25年前の事件の真相を語り始める。大学時代、長内と森下たちはヤーレン号でヨットレースに出場し、長内が艇長を務めていたが、メンバーの一人である上地が落下して死亡。上地の遺体と航海日誌は見つからなかったが、長内は残る乗組員たちを助けたリーダーとして脚光を浴びていた。その背景を利用して長内は20代にして政治家になり、その後首相の座にまで上り詰めたとされていた。
だが、実際には悪天候でのレース敢行に疑義を呈していた上地と口論になり、長内は「死ね」と言いながら上地を海に落としていた。これが事実であれば、殺意があったということで長内には殺人罪が適用される。森下が総理襲撃時に「死ね」と言ったのに、取り調べでは「死ね」と言っていないと供述した背景には、長内に自身の嘘を思い出させる狙いがあったのだ。
癌を患い、死期が近いことを悟った森下は、長内に電話を入れ、「空白の10分」の間に話をしていた。森下は自分が毎年命日に訪れていた上地の家に行って手を合わせようと言おうとしていたが、長内は森下がレース敢行に抗議する上地のメモが入った航海日誌を持っていると聞き、脅しだと思って航海日誌を買い取ると返事したのだった。森下は実際に遭難した場所も記憶していると話していたことから、長内たちは上地の遺体が発見されないように遭難場所についても嘘をついていたことが窺える。
森下が望んでいたのは、長内と共に目を背け続けてきた過去と向き合うことだった。上地を見殺しにして遺体を放置し、嘘の供述をしたことを森下は悔やんでおり、大学卒業後も商社での仕事は長続きせず、警備の職場でも誰とも話さない、孤独な人生を歩んでいた。一方の長内はヨット事故を足がかりに政界に進出し、総理にまで上り詰めた。
正義と真実に向き合った者が辛い目を見て、逃げた者が出世する世の中。さらに長内は、そもそもヨットレースの艇長になったこと自体も、父の財力を使い、元々艇長を務める予定だった学生を買収した結果であったことも明らかになる。
「正しい人間であるべき」
しかし長内は、総理を辞めるつもりはないと宣言。判断を失敗したことはないと強弁する。長内はキントリが真実に辿り着きつつあることを悟った上で、真実を話し、清廉潔白では総理は務まらない、国民はリーダーを必要としているとキントリを説得することで、「見逃してもらう」という逃げ道を選び取ろうとしたのだ。
「国民のため」と訴えかける長内だったが、小石川は「被害者がいる」と、たった一人のためであっても戦う姿勢を見せる。長内の考えは、多数のためなら少数が犠牲になっても良いと考える「最大多数の最大幸福」という功利主義の考え方だ。だが、少数の者を救うのもまた政治の役目である。
一方の真壁は、録音・録画こそしていないが、この目と耳で知った事実は変えられないと主張。人を殺して償わない人間は、罪の重さに耐えかねて間違った判断をしてしまうかもしれない、だから「我々の組織のトップは絶対に正しい人間であるべきだと、そう思っています」と言い切るのだった。
ドラマ『緊急取調室』シーズン5では、「いちど失敗した人間こそ役に立てる」というテーマの物語も描かれたが、映画版では権力者に対して「絶対に正しい人間であるべき」と、真壁は強く迫った。どちらのテーマも万人に適用できるわけではなく、権力者に対しては厳しく追求する警察、という理想的な姿が描かれたのは良かった。
ラストの意味は?
タンカー撃沈成功の一報が入った後、長内総理は災害対策にあたるとして緊急取調室を後にしていたが、即応措置解除を発表する会見の場で総理と国会議員を辞職することを発表。ヤーレン号事件の再捜査が始まることになる。真壁は総理自身に決断を託し、今度こそ正しい判断を選んだのだ。
磐城副総監は辞職願いを提出するが総監から拒否される。しかし、緊急取調室は今後同じメンバーで招集されることはないと発表されている。元々、ドラマ『緊急取調室』シーズン5では小石川と菱本は定年退職まであと半年とされていたので、二人は無事に定年を迎えることになりそうだ。
最後に一同は「うぇ〜い」ではなく、通算二度目の「イェーイ!」で締める。ラストでは緊急取締室の停止が報告される一方で、長内の事件に関しては新規職員の手によって取り調べが行われることも示されている。『THE FINAL』と銘打った本作だが、若干の余白も残した終わり方になっている。
エンディングで流れる曲は緑黄色社会「さもなくば誰がやる」。「常識はずれが変えてくんだ」「泣き寝入りは嫌」と、キントリと真壁有希子らしい歌詞が唄われている。
『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』ネタバレ感想&考察
現実と交差するテーマ
『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』では、真実を追求しようとする真壁有希子およびキントリの仲間たちが総理大臣を取調室に引っ張り込み、25年の事件の真実を暴くという展開を見せた。公安部の脅しに屈さず、塀の中の郷原を使って警備部を動かし、警視庁内部との戦いを制していく展開は、ファンタジックでありながらもリアリティーラインは保っており、ハラハラする展開が楽しめた。
テロを契機とした事件であっても、動機と背景の究明を目指し、真実を明らかにするという姿勢は、安倍元総理襲撃事件で襲撃の背景を有耶無耶にしようとした一部政治家や論客の真逆を行くもので、現実社会との相似点も見えた。総理に正しくあることを求めるマッチョな姿勢は、様々な不幸を背負う容疑者と向き合ってきた緊急取調室ならではのもので、大きな善のための小さな犠牲を許さないという確固たる信念がカッコいい。
また、映画『緊急取調室』と同時期に公開されたTBSドラマ『ラストマン〜全盲の捜査官』の映画版『映画ラストマン FIRST LOVE』では、主人公がFBI捜査官という設定もあって銃が多用されたが、『緊急取調室』はやはり最後まで銃を使わない“言葉の銃撃戦”にこだわった点も良かった。同じ警察ものでも多様な作品が生まれてヒットしていることに、国内ドラマ・映画の豊穣さを感じる。
余談だが、ドラマ『緊急取調室』シーズン5では、梶山が真壁にプロポーズをする衝撃の展開があった。映画版では一切触れられることはなかったが、むしろ後から製作が決まったシーズン5でその件を処理してくれていて良かった。キントリファンには、嬉しいボーナスタイムだった。
『緊急取調室』今後はどうなる?
気になるのは、本当に『緊急取調室』がこれで終わりなのか、という点だ。「現行のメンバーでの招集はない」「新規職員による取り調べが行われる」という余白を残した言葉がやはり引っかかるのだ。
小石川と菱本は定年退職になるとしても、天海祐希演じる真壁有希子や田中哲司演じる梶山勝利、塚地武雅演じる玉垣松夫はまだ残っている。一時的にキントリに加わったこともある比嘉愛未演じる生駒亜美、野間口徹演じる酒井寅三といった面々も新たなキントリに加わることはできるだろう。工藤阿須加が演じる、善さんの息子の山上善春もいる。
例えば『ラストマン』は“ラストマン”が、『ドクターX』は“ドクターX”が主人公である必要があるが、『緊急取調室』は緊急取調室が舞台になれば、どんなキャストでも継続することは可能だ。もちろん、これまでのキャストだからこその魅力も大きいため、旧キャストと新キャストの混合チームとして生まれ変わる可能性も否定できない。
テレビ朝日系の人気ドラマでは『ドクターX』が終了したばかり。同じ刑事モノの『相棒』のように『緊急取調室』も引き続き人気長寿ドラマになっていく未来に期待したい。
バゴプラでは、2025年の映画やドラマを振り返る「お疲れ様会」を配信で開催!
本記事の筆者である齋藤隼飛が出演します。詳細とお申し込みはこちらから。
劇場版『緊急取締室 THE FINAL』は2025年12月26日(金) より公開。
劇場版『緊急取調室 THE FINAL』オリジナル・サウンドトラックは発売中。
『緊急取締室』の相田冬二によるノベライズ版は発売中。
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