海外で話題沸騰の『FEVER ビーバー!』とは? 異色映画の魅力と見どころを解説 | VG+ (バゴプラ)

海外で話題沸騰の『FEVER ビーバー!』とは? 異色映画の魅力と見どころを解説

© 2022 SABLJAK RAVENWOOD HOGERTON

もう一つのビーバー映画『FEVERビーバー!』とは?

この春、ビーバーを題材にした2本の映画が日本で公開になった。。ひとつはディズニー・ピクサーのアニメーション映画『私がビーバーになる時』(ダニエル・チョン監督、2026年)だ。日系アメリカ人の大学生メイベル・タナカが、祖母との思い出の地を守るため、彼女の大学の教授が開発した技術でロボットビーバーに自分の意識を移し、動物目線の世界で奮闘するという物語だ。

そしてもう1本が、様々な意味で『私がビーバーになる時』と対照的な『FEVERビーバー!』(マイク・チェスリック監督、2022年、2026年4月17日(金)日本公開)だ。舞台は(おそらく)19世紀のアメリカ北部のウィスコンシン州。リンゴ酒製造を廃業した男が、アメリカ北部の雪深い荒野で野生の生き物を狩り、毛皮を手に入れようとする――。

というあらすじを聞けば、『レヴェナント: 蘇えりし者』(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督、2015年)を連想するかもしれない。1823年のアメリカの極寒地帯で、毛皮ハンターのヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)は毛皮をめぐってネイティブアメリカンと対峙し、熊の襲撃によって瀕死の重傷を負い、暖を取るために銃の火薬で火を点け、死んだ馬の腹を裂いてその中でビバーク(緊急の野宿)する。

『FEVERビーバー!』でも、主人公の男は極寒の地で生きのびて毛皮を手に入れるために、苦労して火をおこし、ネイティブアメリカンと交渉して道具を交換し、罠を仕掛け、動物を殺して皮を剥ぎ、狼に襲われる。主人公がやっていることはけっこう似ている。しかし、リアルでシリアスな『レヴェナント』とはあまりにかけ離れた異様な映像体験に、見終わった後に唖然としてしまうだろう。

着ぐるみだらけの異様な世界

この映画の原題はHundreds of Beaversなのだが、タイトルどおり何百匹ものビーバーが登場する。そして、そのビーバーがすべて着ぐるみなのだ。しかも、遊園地で子供たちに風船をわたしているような、大きな目でおなかが丸い、大きな前歯が愛嬌いっぱいのやつだ。ビーバーだけではない。ウサギも、アライグマも、スカンクも、リスも、狼も、そりをひく犬も、鳥も魚も、ハエや蛆虫さえも、人間以外の生き物はすべてかわいらしい作り物だ。そして、みんな二足歩行をする(鳥と魚とハエ以外は)。

着ぐるみやぬいぐるみなので、死んだことを示すサインとして目が〈×〉になるくらいで、表情も変わらない。そんな動物たちが森の中を歩き、主人公と命のやりとりをする様子はとにかくゆるく、シュールで、不気味でさえある。

しかし、『私がビーバーになる時』でも人間視点の動物たちが視線や感情が読めない存在として描かれていたように、わたしたちの住む世界を俯瞰して見てみると実はこういうものなのかもしれない――と、映画を見ていくうちにじょじょにシュールな映像世界に取りこまれてしまう。

古典様式と現代性が生む魅力

動物たちが着ぐるみであることに加えて、全編モノクロで、登場人物が吐息や唸り声で感情表現をするだけで台詞を話さない表現スタイルもこの映画の大きな特徴だろう。特に映像は、1910年代半ばから1920年代初頭にハリウッドで製作された長尺《フィーチャー》映画草創期の様式を模倣している。主人公が凍てついた川辺を歩き回る姿をとらえた広い画角の映像などは、ハリウッド黎明期の巨匠D・W・グリフィス監督の『東への道』(1920年)のクライマックスを思わせる。

他にも、かつてよく用いられた丸いアイリス、フィルムに白い塗料を点状に描きこんで降りしきる雪を表現する手法、ざらつきのあるフィルムの質感、現在のわたしたちにはチープに見える他の映像や文字やイラストの合成も再現されている。さらに、バスター・キートンやチャップリンなどのサイレント映画を参照した場面も見られる。音楽も古いサイレント映画がソフト化される際に後付けされたような曲調だ(このことは、この映画がサイレント期の映像を装いつつ、〈音〉にもこだわりぬいている作品であることも示しているだろう)。

19世紀をうかがわせる大道具・小道具や衣装が用いられ、クラシックな映像表現にこだわった『FEVERビーバー!』だが、その一方でわたしたちにも身近で現代的な要素も数多く登場する。そもそもこの映画の全体的なストーリーは、主人公が狩りで手に入れた動物を毛皮交換所に持ちこんでは新たな武器や道具と交換してもらったり、途中で出経った人々からアイテムを手に入れたりするのを繰り返すことで、じょじょにステップアップしていくという、ゲーム的な内容だ。登場人物が台詞を話さないので、獲物と武器の交換条件がわかりやすく絵や数字で示されるところもゲーム的だ。映画のクライマックスでは、観客がコントローラーを握っていると思わず錯覚してしまうような、某アクションゲーム風の画面が作られている。19世紀には存在しなかったはずの様々なモノも登場する。

こうしたゲーム的・アニメ的要素や、数百匹のキモカワ着ぐるみビーバーたちがサイレント映画を忠実に再現した映像と組み合わされることで、かつて〈映画〉その時代の〈新しい〉テクノロジーであったということや、そこにはいかがわしさやシュールさや遊び心が満ちあふれていたのだとわたしたちに伝えてくれているように見える。映画を愛する人々が集う海外の映画祭で話題になったのも頷ける。〈映画〉についての映画の多くがそうであるのと同じように、『FEVERビーバー!』も映画の根源的な楽しさを思い出させてくれる作品である。のかもしれない🦫


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映画『FEVER ビーバー!』は4月17日(金)新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー。

『FEVER ビーバー!』公式サイト

監督・脚本・製作:マイク・チェスリック
出演・脚本・製作:ライランド・ブリクソン・コールテューズ
2022|アメリカ|モノクロ|英語|16:9|108min|原題: Hundreds of Beavers|G指定
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム、ローソン・ユナイテッドシネマ 提供:ニューセレクト、ローソン・ユナイテッドシネマ
© 2022 SABLJAK RAVENWOOD HOGERTON

溝渕久美子によるドラマ『ストーブリーグ』の見どころ紹介はこちらから。

溝渕久美子

作家。グラウンドホグのぬいぐるみ、ほぐさんと一緒に暮らしている。2021年に、2040年の台湾を舞台にしたSF短編小説「神の豚」で第12回創元SF短編賞の優秀賞を受賞。「神の豚」が『Genesis 時間飼ってみた』(東京創元社) に収録され、作家としてデビュー。「神の豚」は大森望編『ベストSF2022』(竹書房) にも収録された。その後、映像を題材にした歴史SF「台北パテーベビー倶楽部」を『紙魚の手帖 Vol.5 2022年6月号』に寄稿。2024年に齋藤隼飛編『野球SF傑作選 ベストナイン2024』に「サクリファイス」が採録。2025年に同作を中編にした「五パーセントの存在理由(レゾンデートル)」を『紙魚の手帖 Vol.21 2025年2月号』に寄稿した。その他にも 『恐怖とSF』(早川書房)や集英社『小説すばる』など寄稿多数。2024年10月より日本SF作家クラブ第5期理事を務める。

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