スティーヴン・スピルバーグが描く新たなUFOとの出会い
SF映画史を、いや映画史を語る上で外すことのできない巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督。そのような彼のSF映画最新作である『ディスクロージャー・デイ』が2026年10月1日(木)に全国劇場公開された。
『ディスクロージャー・デイ』は、公開前から「スティーヴン・スピルバーグ監督が撮ったUFO映画の金字塔『未知との遭遇』(1977)の続編ではないか」など、憶測が憶測を呼んだ注目作だ。明らかになっていたのは、巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が原点の一つとも言えるUFO(現在の名称だと未確認異常現象――UAP)の映画を撮るということのみに近かった。
観客たちも、文字通り、ディスクロージャー・デイ(情報開示の日)を待ち続けた本作。スティーヴン・スピルバーグ監督は、現代においてUFO――未確認飛行物体を通して何を描こうとしたのか、解説と考察、感想を述べていく。なお、以下の内容は映画『ディスクロージャー・デイ』のネタバレを含むため、本編鑑賞後に読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ディスクロージャー・デイ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『ディスクロージャー・デイ』ネタバレ解説&考察
難解なSF映画? UFOと人類の出会いを描く群像劇
『ディスクロージャー・デイ』はロズウェル事件にまでさかのぼり、数多くのUFO/UAPに関することが事実である世界が舞台となっている。しかし、その存在は謎の組織ワーデックス(Waived Reporting, Development and Extraction――報告免除、開発及び採取)によって秘匿とされてきた。さらに世界はキューバ危機以来の冷戦状態に突入しており、時代背景としても『未知との遭遇』に近い状況となっている。
そして、キャラクターたちは主に2つの思想に分かれており、「発火寸前とも言うべき世界情勢の人類はUFO/UAPの存在を受け入れられない」というノア・スキャロン率いるワーデックスと「すべての人類には真実を知る権利がある」というヒューゴ・ウェイクフィールドがその代表として挙げられる。どちらかに属していなくても、UFO/UAPの秘密の一端を知ってしまった人々は、どう考えるべきかで、2つの思想で悩むことになる。
主人公のテック技術の天才ダニエル・ケルナーは、ヒューゴにグレイタイプエイリアンへの拷問や虐待映像を見せられ、ワーデックスを裏切った人物だ。また、もう一人の主人公であるマーガレット・フェアチャイルドはジャーナリスト志望だったこともあり、特殊な能力が目覚めたことをきっかけにヒューゴに似た考えを持つ。
これだけ書けば、ヒューゴが善で、スキャロンが悪と言い切ってしまうことができるように思える。しかし、映画『ディスクロージャー・デイ』はUFO/UAPとの遭遇による人類の動揺をとことん掘り下げる。まず、ダニエルの恋人でジェーン・ブランケンシップは人類を遥かに超えた高度な文明を有する知的生命体の存在が、人類の信仰基盤を揺るがしかねないと危惧する。
現在の冷戦下では宗教の違いこそあれ、“神”という絶対的な存在を信仰することで世界は倫理観を維持している。しかし、そこに全知全能の存在が現れた場合、神への信仰が崩壊して最後の一線を越えてしまうと考えているのだ。
無宗教を名乗る人物が多い日本ではわかりづらい意見かもしれないが、日本のSF映画においても言及した作品はあり、『シン・ウルトラマン』(2022)では「高度な文明を有する人類型のエイリアン」によって、世界中の宗教観にひびが入ったことが明言されている。
また、マーガレットの恋人であるジャクソンはエイリアンがもたらす莫大な情報量を処理しきれない彼女を見て、病気ではないかと疑う。ジェーンやジャクソンの反応を見ると、ワーデックスはペンタゴンやFBIと結託してUFO/UAPの技術で利益を得てきた存在だが、スキャロンの考えも一概に否定しきれないことがわかる。映画『ディスクロージャー・デイ』はスピード感のある作品でありながら、真実を知る重要性と、その覚悟を問う作品となっている。
ロズウェル事件、エイリアン・アブダクション……の新解釈
また、最大の特徴は、これまで王道のUFO/UAP映画で描かれてきた題材を再解釈している点にある。映画『ディスクロージャー・デイ』において、マーガレットとダニエルはエイリアン・アブダクションの経験者とされている。
エイリアン・アブダクションとは、人間がエイリアンに一時的に連れ去られ、身体検査や実験などを受けるとされるものだ。有名なのは1961年のヒル夫婦誘拐事件などがあり、マーガレットとダニエルはエイリアン・アブダクションによって特殊能力を得たとされている。このエイリアン・アブダクションによって特殊能力を得た人物を、映画『ディスクロージャー・デイ』ではエクスペリエンサー(Experiencer)――経験者と呼んでいる。
マーガレットとダニエルはエイリアンによって通訳のような特殊能力を与えられており、マーガレットは地球上のすべて言語を話し、テレパシーやエンパシー、他人の心が流れ込んでくる“ドロップイン”などの人類を理解する力を持っている。それに対してダニエルは宇宙を構成するすべての数式を読み取り、宇宙を理解する力を持っている。
また、ロズウェル事件といったUFO/UAP墜落事件についても新しい解釈が行なわれており、ワーデックスはUFO/UAPからオーバーテクノロジーを回収し、それを軍事産業に転用して利益を上げている。ワーデックスが持つ技術の中でも、最新鋭のものがUFO/UAPから回収したデバイスと呼ばれる装置だ。
デバイスは素手で持つことすら危険なもので、デバイスを通してスキャロンは人の心に入り込み、会話をすることや肉体を操るといった“ダイブイン”を行なっている。また、エクスペリエンサーであるマーガレットはデバイスをさらに使いこなしており、強く握ることで物体の透明化や莫大な電力を生み出すといったことが可能である。
このようにスティーヴン・スピルバーグ監督は、これまでのSF映画で描かれてきた「アメリカ軍はUFO/UAPから技術を回収している」といったロズウェル事件やエリア51といった都市伝説を再解釈している。そして、最新のVFXやこれまで培ってきた演出力で「エイリアン・アブダクションとそれによって特殊能力が存在する」という都市伝説をエクスペリエンサーとして描いたと考察できる。
映画『ディスクロージャー・デイ』ラストネタバレ解説&考察
ヒューゴ・ウェイクフィールドの計画
情報開示を画策するヒューゴ・ウェイクフィールドの組織は、ダニエルから電話を受けている際にずっと建物の大道具を組み立てているのが特徴だ。その目的はマーガレットのエイリアン・アブダクションの記憶を呼び起こすため、すべてのはじまりである10歳の彼女がエイリアン・アブダクションに遭った1996年2月23日の頃の家を再現していた。
ヒューゴは一貫して、エイリアンから共感や交感といった理解し合うことの意義を受け取ったとしており、彼の部下はエイリアンの存在を天啓のようなものだと考えているものもいる。そのため、マーガレットと出会った際、彼女に十字を切る女性がおり、マーガレットはひどく困惑していた。これはジェーンが危惧していたエイリアンの存在による宗教観の揺らぎだと考察できる。
スキャロンのことをファーストネームのノアと呼ぶほど親しい間柄のヒューゴは、彼を最愛の妻を失ってから心を閉ざしてしまった人物とし、エイリアンを受け入れるように訴えている。ダニエルが情報開示した映像の中にはヒューゴが隔離シート越しにエイリアンと額を合わせている様子も記録されており、その際に何かを受け取ったと考えられる。
しかし、スキャロンがエイリアンを警戒する理由も理解できる。それは「未知の存在だから」という陳腐なものではなく、情報開示された過去の映像で「ワーデックスたち人類がエイリアンを友好的に迎え入れたのにも関わらず、生きたまま解剖するなど拷問した」ものがあったため、彼らに復讐されるのではないかと考えているではないかということだ。
また、高度な文明を持ち、人間の精神を操ることができるエイリアンならばヒューゴの精神に何かしらの干渉した可能性も危惧したと考察できる。このような設定のSF映画として、戦争への皮肉を描いた『スターシップ・トゥルーパーズ3』(2008)が存在している。
『スターシップ・トゥルーパーズ3』(2008)の軍国主義の地球連邦政府では宗教は禁止されている。その中で、オマー・アノーキ総司令官が宗教の良さを説き始めるが、実は信仰心の正体は敵のエイリアン(バグズ)に精神汚染だった。
ラストでバグズの神は倒されるものの、宗教の有用性に気付いた地球連邦政府は国家宗教を制定して志願兵を募るという皮肉なラストになっている。そのため、“ダイブイン”によって精神操作ができるスキャロンは、ヒューゴの宗旨替えを同じ理由で警戒していると考察できる。
キリスト教はエイリアンをどう理解するのか
観客の代弁者として、人類の倫理観の基盤になっている宗教観の崩壊を危惧しているジェーン。彼女はラストまで情報開示すべきかどうか悩み続け、かつての恩師である修道院のシスター・モーラに連絡を取る。そこで旧約聖書の創世記第1章を引用し、神は至高の傑作として人類を創造したのではないかとシスターに問う。
シスター・モーラの返答は想定外のもので、旧約聖書の創世記では神は“地上における”至高の傑作として人類を創造したと語った。つまり、地上ではない場所――地球以外の文明の創造において聖書は言及しておらず、神が完璧な宇宙を創ったとすれば人類以外にもその恵みを分け与える心の広さを持っているはずだと考えているのだ。
スティーヴン・スピルバーグ監督はニュージャージー州に住んでいた際、父親に連れられて夜空に流れるペルセウス座流星群の美しさにより、宇宙に興味を持ったと語っている。このシスター・モーラの説明はおそらく、スティーヴン・スピルバーグ監督が感じた理解しようとしてもしきれないような広大な宇宙の美しさを、人類が理解できるように落とし込んだものだと考察できる。
また、これはキリスト教が本質的な部分を保ちながらどのように時代の変化に適応してきたのかも描いていると考察できる。聖書の内容は変化することはない。しかし、読み手は変化する。そのため、文章の解釈も変わり、変化の中でキリスト教の博愛の精神を保ち続けようという試みがシスター・モーラの創世記の解釈ではないだろうか。
情報開示によって最後に何が起きた?
ワーデックスの妨害もあったが、エイリアン・アブダクションの記憶を取り戻したマーガレットにより、情報開示の日(ディスクロージャー・デイ)はテレビ局KCXEで行なわれる。そのニュースは全世界を一瞬で駆け巡り、北朝鮮を発端としたアメリカとロシアの核戦争の脅威すら、エイリアンの存在が公開されたことで止まってしまう。
79年間も隠されていたが、地球には何度もUFO/UAPは訪問していたという事実。その衝撃は戦争を止めるだけではなく、人類の歴史を覆す。人類が英知を結集しても開発できないような高度なUFO/UAPの存在や、想像もしていなかった人類以外の知的生命体の存在。世界中が情報開示された映像に釘付けになる。
そこにヒューゴが連れてきたのは、年老いた一人のエイリアンだった。そのエイリアンはダニエルとマーガレットという自分の言葉を理解できるエクスペリエンサーに何かを伝えると、マーガレットがカメラに向かって「聞いて」と語りだすところで映画は終わる。
エイリアンが伝えたかったことは何なのかは、ラストまで明かされない。その解釈は観客に委ねられている。高度に発達した文明を持つからこそ、未だに戦争を止められない人類に知恵を授けるのか。それとも同胞を拷問した人類に裁きを下すのか。それは観客の解釈次第だろう。
映画『ディスクロージャー・デイ』ラストネタバレ感想
真実を知る権利と受け止める覚悟
映画『ディスクロージャー・デイ』では、真実を知る権利についてラストまで一貫して様々な解釈がなされる。これは2017年12月に報道された国防総省がUFO/UAPの調査に資金を投じているというニュースを、スティーヴン・スピルバーグ監督が読んだことを発端としている。
しかし、その時期から10年ほど経ち、秘密を隠す権力者との戦いには別のニュアンスも生まれた。その代表格がコロナ禍のパンデミックで爆発的に広がった陰謀論の存在だろう。どうしても、ワーデックスとの戦いは、政府や権力者が真実を隠しているという陰謀論的な物語と重なって見える部分がある。その一方で、本作はワーデックスが実際に人類に隠していた事実を設定として描いているため、現実の陰謀論とそのまま同一視することもできない。
スティーヴン・スピルバーグ監督は真実とは何なのかをどこまでも追求し続け、その真実がどこまで醜いものであっても受け止める覚悟が今こそ必要だと考えていると思われる。事実、ワーデックスは人類がエイリアンに拷問をしていたという真実を隠していた。その醜さを認め、エイリアンと向き合う姿勢こそ、真実を知る権利だと定義したのが映画『ディスクロージャー・デイ』だと考えられる。
信用されなくなった政府
また、ワーデックスは『未知との遭遇』などの政府組織とは違い、国防総省やFBIと関係を持つものの、税金で運営されている機関ではないとされている。これは税金で運営されていると、正体が明るみになる可能性があるためと言及されており、UFO/UAPの技術を軍事転用して資金を得ているとされている。これは「メン・イン・ブラック」と似た設定である。
しかし、ワーデックスが政府機関ではない理由について、もう一つ説明がされている。それは政府を信用していないというものだ。ダニエルがジェーンに最初に見せた映像として流したのが、リチャード・ニクソン大統領がハリウッドスターにエイリアンの死体を自慢しているものだった。ニクソン大統領と言えば、ウォーターゲート事件で任期中に辞任した唯一の大統領である。
ワーデックスは大統領について、8年経てばただの人になる存在と考えており、エイリアンについて知らせる必要がないとまで言い切っている。現在のアメリカ政治における大統領と政府への不信感とも重ねて見ることができる。ワーデックスたちエイリアンの技術の管理者という大局から見ればアメリカ大統領など、所詮は挿げ替えられる頭に過ぎないと考えていると思われる。
ラストにエイリアンが伝えたかったこととは
エイリアン・アブダクションによって特殊能力を人類に与え、通訳としてダニエルとマーガレットというエクスペリエンサーを生み出したエイリアンたち。彼らがラストで伝えたかったこととは何なのだろうか。それについてはキャラクターそれぞれが別々の解釈を持っていると考察できる。
もしかしたら、ワーデックスのエージェントたちは高度な文明を持ったエイリアンに対する非人道的な扱いが暴露されたことで、エイリアンがアメリカを報復攻撃するのではないかという恐怖と諦めがあったかもしれない。それとも、エイリアンは『E.T.』(1982)に登場するような温和な種族であり、人類と公式での初接触を求めたのかもしれない。
ヒューゴたちはマーガレットとダニエルにしたように無限に近い宇宙の知識を授けに来た神のような高度知的生命体として、エイリアンとの交流による新時代を期待したのかもしれない。それらの点でも映画『ディスクロージャー・デイ』はラストまで難解な作品だったと言える。
しかし、その難解さこそ、スティーヴン・スピルバーグ監督が訴えたかった真実を知る権利に伴う覚悟だったのではないだろうか。最後までエイリアンが何を伝えたかったのかを考えている瞬間、すでに観客はスティーヴン・スピルバーグ監督の思惑通りの反応をしているのかもしれない。
映画『ディスクロージャー・デイ』は2026年10月1日(木)より全国劇場公開。
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