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「デスクリムゾン」に興味があるのか?
“上から来るぞ! 気をつけろ!”
“なんだ、この階段は!?”
“せっかくだから、俺はこの「赤」の扉を選ぶぜ!”
インターネットに耽溺する好事家諸氏なら、一度とならず聞き覚えのあるフレーズではないだろうか?
これらのユニークでいながら妙に心惹かれる語群は90年代に発売された伝説的ゲーム「デスクリムゾン」を発祥とするこれらのフレーズは、いわゆる「ミーム」として今でも健在だ。しかしその数奇な実態は今でも謎に包まれており、同時に我々の心を強く掴んでも離さない。
さて、奇しくも2026年、発売からめでたくも30周年を迎える「デスクリムゾン」のさらなる秘密に迫るため、筆者はその手掛かりが眠るという福岡県は那珂川の山奥にひっそりと佇む秘密スポット「不思議博物館」へと伝説の傭兵よろしく向かったのだった。
せっかくだから――。
※本稿は㈱エコールソフトウェア様の真鍋賢行社長より許可を得て制作しております。ご快諾、ありがとうございました!
そもそも「デスクリムゾン」って何?
1996年に㈱エコールから発売されたセガサターン用ガンシューティングゲーム。主人公である元傭兵・「コンバット越前(コードネーム。好物はビーフン)」が偶然手にした「進化する謎の銃」――〈クリムゾン〉を巡り、邪悪な機械生命体・デスビスノスが放つ怪物たちと謎の伝染病が跋扈するヨーロッパから世界へ、果ては宇宙まで股にかけて死闘を演じる。というのが本作の基本的なあらまし。
先述した「上から来るぞ! 気をつけろ!」、「せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」などの名言が連打されるあまりにも味わい深すぎる実写OPを始め、
「そもそも微妙に照準がズレている」
「撃ってはいけないモブが積極的にガンガン前に出てくる(通称・佐藤)」
「本編中では特に言及されていないムササビを撃つとライフが減る」
「謎の停電対応機能が搭載されている」
「敵の攻撃があまりに激し過ぎる上、被ダメージ後の『無敵時間』が存在しないため、油断すると数秒でゲームオーバーになる」
「それどころかラスボスが無敵になるバグがある」
などなど、あまりに独特過ぎる挙動や操作性が当時のゲーマーの度肝を抜き、また本作を発売前にレビューした某ゲーム雑誌記者を「これマジで出すんですか?」と驚嘆せしめたことは語り草になっている。
しかし本作は同時にその強烈な世界観に魅了された者――「クリムゾナー」を生み出すことになり、また2025年にはエコール公式から突如高解像度版のOPムービーが公開され、全国のクリムゾナーが大歓喜するなど今に至るまでその人気と偏愛されぶりには根強いものがある。
▲今もなお「帝王」として畏敬されるデスクリムゾン。画像はエコール公式HPより引用
不思議博物館を訪ねるぞ! 気をつけろ!
福岡県那珂川の山中にひっそりとたたずむ「不思議博物館」は知る人ぞ知る有名スポットである。
開館日は不定期で、館内には特撮怪獣人形にSF宇宙船、また昭和の怪奇漫画や図録――館内にところ狭しと蒐集されたコレクションの中には館長自身が制作した巨大クマムシ像やどこかシュールでキッチュな前衛アートなど、一種独特な造形物が立ち並び、異様な世界観を醸し出している。
奥にはカフェスペースがあり、妙に粗末なエプロンドレスに身を包み、頭上に古代両生類ディプロカウルスをあしらったカチューシャを掲げる「不思議子ちゃん」がドクターペッパーやクマムシを模したケーキ等々の不可思議な飲食物を給仕する。
その中でもひときわ目立つのが、博物館の最奥で独特の光沢を放つ異形の銃器――「巨大クリムゾン」である。
全長3.4メートル、高さ2.2メートル。あまりに異様過ぎる巨躯にセガサターン本体を埋め込み、前面に配置されたブラウン管テレビへとその銃口を向ける巨大クリムゾンでは実際に「デスクリムゾン」をプレイすることが可能だ。そうこうしている間にも幾人ものプレイヤーが面白半分に巨大クリムゾンに臨み、第一ステージである「サロニカの町」から情け容赦なく飛んでくる敵の猛攻に晒されては矢継ぎ早に散ってゆく。
そのような一種独特な空気感の渦中で、筆者は「巨大クリムゾン」の謎に迫るべく、館長である角孝政(すみ・たかまさ)氏にお話を伺った。
▲制作物である「実物大クリムゾン」を手にする館長の雄姿。
こうして、不思議博物館館長へのインタビューが始まった。
――本日はよろしくお願いします。本職は造形作家をされていると伺っているのですが、まずはふだんのお仕事についてお聞かせ願えないでしょうか?
角孝政氏(以下、「角」表記):そうですね。ふだんは博物館用の模型なんかを作っています。有名なところだと「海の中道(※福岡県福岡市の湾岸部に位置する『マリンワールド 海の中道』のこと。正式名称は海の中道海洋生態科学館。水族館イルカショーのテンションが高いことで有名)」の、大水槽の横に飾られている8メートルの大王イカの模型とか、北九州の、自然史・歴史博物館「いのちのたび博物館」にも色々納品していて……あと、小倉駅の銀河鉄道999の車掌像なんかも作っています。ブロンズじゃなくて、駅の中にあるフルカラーのほうの。
――県民的には馴染み深いスポットですね。
▲JR小倉駅に展示されている銀河鉄道999の車掌像。原作者の松本零士氏は福岡県久留米市出身。
角:巨大クリムゾンも、そもそもアジ美(福岡アジア美術館)の展示用に作ったのが始まりで……。
――えっ? 巨大クリムゾンって、不思議博物館のために作ったんじゃないんですか?
角:そこが逆で、そもそもアジ美の段階では、ここ(不思議博物館)はまだ存在していなくて。
――???
「不思議博物館」誕生の秘密に迫る。
――混乱してきた。すみません。そのあたりの流れを説明して頂いても大丈夫でしょうか……?
角:もともと「不思議博物館」は98年に開設したネット上の架空の博物館だったんですよね。まずはじめに、それを7年くらいやっていて。
――あー、いわゆる、個人サイトの時代ですね(※インターネットが巨大掲示板やSNSに収束していくゼロ年代以前は個々人が立ち上げたサイトや掲示板がネット交流の場として主流だった)。
角:それでアジア美術館の企画で、アジアの作家を4、50人くらい集めて展示をする「トリエンナーレ」という企画を三年に一度くらいやっていて、それの2005年度版に参加作家として選ばれたんですよね。それで出品作として「現実版・不思議博物館」を考えて、その新作として巨大クリムゾンを作りました。他にも、ここにあるクマムシなんかも一緒に展示したりして……。で、それの開期が二ヶ月くらいだったので。
▲館内に展示されている実物より体積比約一兆倍に拡大されたクマムシ像。クマムシを象ったものではおそらく日本最大級。
――この展示が、現状の不思議博物館を開館する直接的な「きっかけ」になったということでしょうか?
角:開館は2008年なんですけど、そもそも今の場所を買ったのが2003年だったので。WEB時代の時点で、ゆくゆくはリアルでこういう箱物を常設したいという野望自体は元からありました。作品の発表場所ってギャラリーとか美術館だったりするんですが、色々と規制が大きかったりして……。それと個展とかイベントは期間があるじゃないですか。「終了するのはなんだか、寂しいよね」と思って。そういう意味で、「終了しない展示」として不思議博物館を考えました。
――めちゃめちゃ含蓄深い言葉が出てきましたね。
角:形式として「よくわからないおじさんが郊外でやってる変な博物館」が昔からちょいちょいあると思うんですけど、「そういった発表の仕方が本来良いんじゃないか?」という仮説に基づいて、自分でもある程度わかってやっています。
――(笑)
角:まぁ、そういう意味では私もある程度客観的にやっているので「本物」ではないんですけど。たとえば、有名な伊豆の「まぼろし博覧会」とかも狙ってやっている業界最大手なんですけど、福岡だと左官さんが個人でやっている「三浦鏝絵(こてえ)美術館(公式インスタグラム)」とかがあって、いわゆるB級スポット的な。
――自然に「なっちゃった」感じじゃなくて、はじめからコンセプトとしてそこを狙っていると(笑)。
角:でも「変なおじさん」だけだと謎の施設になり過ぎてしまうので。それだとさすがにキツいので、マスコットを置こうと思って。それが「不思議子ちゃん」で。不思議子ちゃんはWEB時代からサイトにはいたんですけど。
――いわゆる「看板娘」的な(※インターネット黎明期、ネット民の活動の場が掲示板やSNSのようなプラットフォームに収束する前は個々人が独自のサイトを持つことが主流であり、概してサイトごとにマスコットキャラを設ける文化があった)。
角:不思議子ちゃんはトリエンナーレの時に、一度マネキンを作っているんですけど、2005年って日本で大きなメイド喫茶ブームが広まっていて。
――えっ。むしろそういった流行とは違った、「ウチは通俗的なメイド喫茶とは違う!」みたいな確固たる信念があると勝手に思っていたのですが、寄せているんですか!?
角:寄せてます(笑)。でもあくまでもメイドじゃなくて「不思議子ちゃん」なので、衣装もただのメイド服じゃなくてボロボロにしていて。不思議博物館は「不思議の国のアリス」が元ネタになっていて、その世界観を自分なりにアレンジしているのですが、アリスの作者のルイス・キャロルはカメラマンでもあって、モデルのアリス・リデルに粗末な服を着させた「乞食娘」という有名な写真があるんですけど、そのイメージとメイド服を足してデザインしたものが不思議子ちゃんの衣装になります。
――カフェとしても営業しているのは何故でしょうか?
角:入館は無料なんですけど、でも全部無料で運営するのはさすがにしんどいので。あとB級スポットというか、怪しげな博物館ってほとんどカフェがないので「カフェが欲しいな」と思って。ウチは不思議子ちゃんもいるし、「博物館のカフェコーナー」みたいなものを作ろうと思って。
――ああ~! なるほど!
▲館内に展示されている最初期型の「不思議子ちゃん」(画像左)
ゲームを創作に活かす。
角:ゲームの話なんですけど、私、2000年に、30歳になる前くらいまではゲーム機を買ったことがなくて。それまでゲームもほとんどやったこともなくて。というのは真面目な彫刻家になりたかったので、ゲームは時間の無駄だと思ったんですよね。そもそもクオリティも当時はゲームはまだ全然ドットとかが荒くて。やればハマったのでしょうけど、(セガ)サターンとかプレステ時代にはまだ興味を持てなかったんですよね。
――スーパーファミコンとか、マリオとかもまったく通らなかったんですか?
角:全然ですね。兄がマリオで遊んでいるのを隣で見ていたくらいで。ドラクエも、30分くらいしかやったことがないです。
――ええ~っ!?
角:だけど昔からロボットが好きで、ガンダムにもめちゃめちゃハマった世代で。それでガンダムみたいに「直感的に操作できるロボットのゲーム」があるということで、セガの『電脳戦機バーチャロン』に憧れて、衝撃を受けまして。当時はゲームセンターで遊んでいたんですけど、お金が掛かるので「一日二回」までと回数を決めたりして、そういうのを一部のファンの間で「2チャロン」とか呼んでいましたね(笑)。それがドリームキャストに移植されたらかなりグラフィックが良くなって。それでも当時の時点ですでに「ドリームキャストがなくなる!(※2001年生産終了)」となっていたんで、慌てて本体と一緒に買いました。
――あの時代のセガは藤岡弘、さんを起用した「せがた三四郎」とか、ドリームキャストでも「湯川専務」シリーズとか広告面でも独特のキャンペーンを打ち出していて、それなりに盛りあがっていたイメージがあるのですが……。
角:流行以前に、そもそもグラフィックスチップの開発と供給が遅れたせいで本体の生産が間に合わなくなって、発売までに予定していた出荷台数を準備できなくなったみたいで。なので、欲しいときに誰も買えなかった。当時の時点で本体にモデムを搭載してネットワーク通信にも対応しているとか、目の付け所は良かったんですけどね。
――あー……。セガって、そういうところありますよね……(※この最初期の躓きが波及してサードパーティのソフト開発遅延を引き起こし、そうこうまごついている間に2000年にSONYが名機・PlayStation2を発売開始。当時はまだVHSが主流だったが、しかし本体と同時期に1999年に大ヒットした『マトリックス』のDVD版が発売され、また2002年にも『ハリーポッターと賢者の石』のDVD版が発売されるなどビッグタイトルの「円盤化」も拍車をかけ、DVD再生機能を搭載したPlayStation2は瞬く間に膾炙し……諸行無常である )。
角:で、バーチャロンだけだともったいないし、ドリームキャストの処理能力を活かすためにも他のゲームにも色々と手を出すことにして、その一環で、せっかくだからガンシューティングとかにも手を出してみようと思って。
――せっかくだから(笑)。
角:当時は『バーチャコップ』とか『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』とかが流行っていたんですけど、でも「どうせ」面白いんだろうなって……。内容も、なんとなく想像できるし。
――(笑)
角:そこでたまたま『デスクリムゾン2』のパッケージを手に取って、「なんだ、これは!?」と衝撃を受けて……。裏の説明書きを見ても「追いつめられし者の作り出す、狂気の世界を存分に見るがいい!」とか書かかれていてさっぱり意味がわからないし……。あとから知ったんですけど、「1」をボロクソに叩かれたことへの意趣返しだったみたいで。パッケージも「戦闘」と「銭湯」を掛けていて、エコールの社長がダジャレ好きなんですよね。「戦闘(銭湯)より帰還」ということらしいです。
▲「デスクリムゾン2」銭湯から出てくるコンバット越前の雄姿が目印。画像はエコール公式から引用。
――パッケージからして面白いですものね(笑)。……ちょっと待ってください。館長はデスクリムゾンに、一作目からじゃなくて、「2」から入ったんですか?
角:そうです! ちょっと遊びにくかったんですけど、ギリ普通に遊べる感じで。たぶんエコールの社長が「面白い」と思う感覚と自分の「面白い」と思う感覚が近かったんだと思います。「よくわからないものを作りたい」というところにシンパシーを感じたというか。「社長の念」が伝わってきたというか。ただの出来の悪いゲームじゃないんですよ。まぁ、「2」もラストでいきなり新しい敵が出てきて「次回に続く!」みたいな感じで終わっていて、未だに続編が30年近く出ていないんですが。社長は「3」を出したがっているみたいですけど。それで2をクリアしたあとに色々調べてみたら「1」が色々な意味で凄いらしいと知って、妙に根強いファンがついているみたいだし、「これは確認しないと!」と思って、オークションで探して、セガサターン本体ごと買いました。
――本体ごと! すごい!
角:はじめにデスクリムゾンを遊んだときに感じたんですけど、「念」が籠っているんですよ。それがディスクを通じてちゃんと伝わった気がしたんですよね。「これは凄いぞ……!」と。
――ゲーム内では特に語られていませんが、よくよく考えると謎の銃を手に入れた元傭兵が伝染病をきっかけとして大学からジャングル、荒野を通過して最終的に宇宙へ向かうという筋書きも、SF冒険譚としてふつうに格好いいですものね。
(※筆者は長年最終ステージではコンバット越前が宇宙に向かっていると思い込んでいたのだが、チェック段階で館長から「ラストは宇宙ではなく地上に着陸した宇宙船の中かもしれません。未確認ですが、もしかしたら宇宙に行ってるのかもしれないし自信はないです」というコメントを頂いたため、さっそく最終ステージ『デスビスノスの宇宙船』について調べてみたのだがよくわからず、エコール真鍋社長が自ら執筆・公開しているデスクリムゾンを題材にした小説『フリーズ!ーデスクリムゾン・レゾナンスー』にそれらしき表記がないか確認してみたものの、けっきょくよくわかりませんでした……)
角:それで案の定、あまりにゲームにハマり過ぎてしまったので「このままじゃいけない! 時間がもったいない!」となって、ゲームから受けた刺激を本業の造形に還元することにしたんです。そうすれば無駄にならなくなるので。
――とてもよくわかります(深く頷く)。
角:それで、まずNECが出した「セヴンスクロス」という生き物のDNAを書き換えて進化させながら冒険するゲームと「アーマードコア(※フロムソフトウェアのロボット・アクションゲーム。主人公となる傭兵が自機のパーツを自由に組み替えることができる)」と、から着想を得た「アーマードクロス」という生き物をパズルみたいに組み合わせる作品も作ったんですけど(https://www.asahi-net.or.jp/~bu9t-sm/arm0.html)、それと『バイオハザード2』の、攻略本に載っているマップをバラバラにしてコラージュみたいにしたりして。その流れで、巨大クリムゾンもトリエンナーレのために準備していたのですが、美術館側にゲームに詳しい人がいなくてあまり伝わらなくて……。企画自体が上手く進まなくなったんですけど、アジ美の方から「角さん、色々作っているから全部出したらどう?」と打診されて、はじめは巨大クリムゾンを体験できる「喫茶デスクリムゾン(?)」という企画を進めていたのですが、クリムゾンだけ置いていたのではよくわからないとなって……それで話し合った結果、「ネット上の不思議博物館」の「現実版」というコンセプトで、その収蔵物のひとつとして巨大クリムゾンを展示することになりました。
――クリムゾンが先だったんだ……。
角:で、勝手に作るのはいけないので一応エコールの社長に許可を取ったら、アジア美術館の展示の時に本人が来てくれて講演会を開いてくれたんですよね。全国からクリムゾンのファンも集まってくれて。イベントで、社長自ら巨大クリムゾンを使って実際にプレイもしてもらったんですけど、めちゃめちゃ下手なんですよね(笑)。
――いや、アレは無理ですって(笑)(※巨大クリムゾンは必然的に全身を使って操作することになるため、常人の肉体では耐えきれず数分程度で活動限界を迎えることになる)
角:いや、巨大クリムゾン云々じゃなくて、そもそも下手で。「なんで下手なんですか?」と訊いたら「私が出来るようじゃ駄目ですよ」とよくわからない言い訳をされていて(笑)。
――今でこそちょいちょいアニメやゲームを題材にしたアートがありますけど、そういう意味ではその手のムーブメントの「はしり」だったのではないでしょうか?
角:そうですね。普段ぜんぜん興味を持たないようなゲームのファンが美術館まで足を運んでくれるって当時は中々なかったんじゃないでしょうか? 当時でも作家がゲームっぽい作品を作るというのはあったんだけど、「市販の■■ゲー」を題材にして紹介するのはあまりなかったと思います。
――現在進行形でもないと思います。
哀れな青年よ。巨大クリムゾンの秘密は、お前を破滅へと導く!
巨大クリムゾン誕生の秘密
――それでは本題の、「巨大クリムゾン」のお話を聞かせてください。そもそも、原作のクリムゾン自体に「進化する銃」という設定がありますが、巨大クリムゾンはその最終形態なんですよね?
角:そうですね。本作には「第一作以降、コンバット越前の手を離れた〈クリムゾン〉が次々と強大な精神の持ち主たちの手に渡り、彼らの精神を蝕みながらその強靭な精神の力を吸収するのなら、銃自体も巨大に変形するのでは?」というコンセプトがあります。
――あれ? そもそもゲームの方に、そういう設定ってありましたっけ? 「進化する銃」という設定自体は知っているのですが……。
角:いいえ。私の、まったくのオリジナルです。
――えっ!? すみません。デスクリムゾンって意外と凝っているので(失礼)、設定として「クリムゾン最終形態」みたいなのがあると勝手に思い込んでいたのですが……えっ、じゃあこのデザインって、一から館長が考えられたんですか!?
角:そうなりますね。「2」はやりこんだのでその設定は大切にしたくて。社長はあまり納得していないというか、ちょっとイメージと違ったみたいですけど。
――えぇ~っ、ぜんぜん知らなかった……。うわっ、めちゃめちゃカッコいいな、コレ……。
角:「2」の設定をベースにしているのでデザインも生物的に寄せて、それでいて機械的な、動力パイプがうねうね突き出ていたりして。色合いにもかなり凝っていて虹色っぽく、視る角度によって色が変化する「マジョーラ」というすごく高い塗料を使っています。
――マニアックな話になるのですが、ひょっとして「仮面ライダー響鬼」のスーツに使われていたものですか?
角:そうです! 響鬼の紫は色の変化が多くて、同じものが「仮面ライダーカブト」とかにも使われていて。
――えっ、カブトもそうだったんだ……。赤いのに……。
角:マジョーラの赤はあまり変化しないので。マジョーラ、綺麗なんだけど、よくわからない色をしているのでビジュアル的に微妙にパッとしないという欠点があって……。
▲独特の光沢を放つ巨大クリムゾン。たしかに仮面ライダー響鬼と同じ色をしている……。
――それで、巨大クリムゾン自体にもアート的な意味合いがあると伺っているのですが。
角:すみません。十年以上前のことなんで私もよく覚えていないんですけど(笑)。たしか、ゲームというものは本来はプレイヤーを期待させたり、楽しませたりするものなのに、だけどデスクリムゾンはまったく逆で。当時の「最先端」なのに、大抵の場合プレイヤーを困惑させたり、怒らせたり、ときに憎しみ、慰みさえ抱かせる奇怪なもので……「異端」なんですよね。異端で、「逆先端」。そこから現代芸術における「価値観・常識の逆転・相違」の文脈を感じて、たいへん面白く感じました。さらにそれを巨大な立体物とすることで、デスクリムゾンの不条理な世界観をさらに増幅させ、それをわかりやすく体験してもらう狙いがあった、気がします。
――若干ひねくれていますけど、不自由さや不条理自体を楽しむ、という領域はたしかにありますからね。
角:わざと遊びにくくしているわけではないんですよね。まぁ、必然的に難しくなるということはわかっていましたけれど。「遊び難くはなるよね」と。
――必然的に。
角:トリエンナーレの際、彫刻家としての経験上、美術展に展示するには最低限の「大きさ」が見栄えとして必要になることがわかっていたので。小さいと「しょぼ」となって、イメージが伝わりにくいので。しかも体験型にした方がより「伝わる」だろうと。
――セガサターンと合体して、実際に遊べるというコンセプトも初めから?
角:そうですね。作品として当たり前というか。コントローラーは小さいし、ハードを別に設置するより、コントローラーの中に本体があった方が絶対に面白いだろうと。見えないと面白くないので。そのあたりのコンセプトはかなり早い段階でまとまりました。
――あくまでも結果で、遊びにくさ自体は狙ったものではないと。
▲2005年に福岡アジア美術館に展示された巨大クリムゾン。その巨大さは問答無用で目を惹く。また、当時の様子を不思議博物館旧サイトから確認することができる(写真は館長様からご提供いだきました)
角:先にも述べましたが、展示で終わるんじゃなくて、ずっと続けていくことでなにか発見があるんじゃないかと思って。だから今も常設でやっているんですけど。けっこう全国からクリムゾナーが来てくれて、名古屋から来てくれた人が三回目くらいでクリアしたことがあって、今までに三人くらいがクリアしていきましたね。
――私も以前触ったことがありますけど、ステージ2でもう無理でしたね。汗まみれになりながら、なんとか2面のシーン4まではクリアできたんですけど。ステージ5である「アッシムの館」が始まった瞬間、一瞬でやられちゃって……。巨大クリムゾンじゃなくても、単純にクリアできるビジョンが浮かばなかったです。
角:私も巨大クリムゾンではラスボスまでは無理なんですけど、普通のガンコンだと何回かクリアできたことがあります。できたりできなかったりして、できないときのほうが圧倒的に多いんですけど。クリアできるときは、何かが“降りて”くるんですよね。「今日はなんだか、イケそうな気がする!」みたいな。
――アスリートの人が突入する、いわゆる「ゾーン」みたいな。
角:アジ美での展示が終わったあとも色々と縁があって、イギリスのブラックバーンという美術館で展示されたり、あと中国の深圳で展示されたこともあります。運搬とか、色々大変だったみたいですよ。
――巨大クリムゾンが!?
角:私は呼ばれなかったんですけどね。行きたかったなぁ(笑)。
進化する展示
――やはり基本的には館長の「変なもの」に対する愛情というか、こういう場所を維持していきたいという想いあると思うのですが。
角:そうですね。巨大クリムゾンに使っているセガサターンですけど、今は五代目で……。昔は中古で500円くらいで買えたから、あらかじめいくつか買い置きしてたんですけど、それも今手元にあるのが最後ですね。これが壊れたら広島に専門の修理業者がいるみたいなんで、一度まとめて修理に出そうと思っていて。
――古い機種ですものねぇ。そうか、90年代の機種だから、もう30年以上昔の機種になるんだ……。
角:それに実機用に小さなブラウン管のテレビを使っているんですけど、これも実は半分くらいはギャグじゃなくて、単純にセガサターン用のガンコンがブラウン管テレビしか認識しないからなんですよね。何回か液晶とかプロジェクターとかで試してみたんですけど、上手くいかなくて……。一応動くけど、ラグがひどくて。中の、バーチャガンのレンズも心配だし……。
――ああ~っ! そうか、維持自体にコストがかかるんだ……。
▲ブラウン管を睨む巨大クリムゾンとその背面に埋め込まれた五代目セガサターン。その維持には積年の努力が注がれている。
角:維持もなんですけど、個人的にはこの不思議博物館自体を、もっと「理想」に近づけたくて。
――現時点では、まだ「完成形」ではないと?
角:そうですね。最近はChat GPTに館内の画像を取り込んでもっと良くならないか意見を聞いてみたりして、実際にそれを参考にしてレイアウトを弄った部分もあって。成長して、まだ良くなると思っているので。
――それこそ、クリムゾンみたいに(笑)
角:まぼろし博覧会の規模は無理なので、ウチはウチの広さで精度を高めて、理想の博物館にしていきたいですね。そのためにも、誰か10億円くらいポンとくれたら良いんですけど(笑)。
いわゆるB級スポットや珍スポットと呼ばれる場所には様々な想いが宿る。
決して主流ではない、世からはぐれた好事家たちの憩いの場――。
効率と高速化の是非が声高らかに叫ばれる現代社会において、その営みは一見してナンセンスに思われるかも知れないが、しかし福岡の山中に潜む巨大クリムゾンは、そんな我々の奇異な願望をも吸収して在り続けているのかも知れない。
「異端」として――。
角:さっき「不自由を楽しむ」みたいな話が出ましたけど、私、『鉄騎』というゲームが大好きで。操縦桿のついたパネルと足元のペダルがセットになった「操縦席」型のコントローラーでロボットを操作して遊ぶ、かなり大掛かりなものになるんですけど。
――あー、聞いたことがあります。ずっと負けていると、左遷されてパイロットから事務職に回されるゲームなんでしたっけ……?
角:そもそもやられそうになったら急いでコントローラーの蓋を開けて「緊急脱出ボタン」を押さないとパイロットが死んじゃって、データごと消えちゃう(笑)。
――それはまた、かなりシビアな……(笑)。
角:はじめは動かすだけで大変なんですけど、それでも慣れてくると自由自在にロボットを動かせる快感があって。
――ちょっとわかります。私も『リモートコントロールダンディ』という、本当に操作するだけで大変なゲームが好きで……でも、それを克服する楽しさってあるじゃないですか? 不自由を乗り越えて、さらに自由になるみたいな。きっと皆さんも、デスクリムゾンにそういう魅力を感じているから、だからこうして、この不思議博物館まで足を運んで、遊ばれているのだと思いますし。
角:でも私はデスクリムゾンより、鉄騎のほうが面白いと思いますけどね(笑)。
(一同、爆笑)
おまけ
普段は禁止されているが、特別に本館のマスコットである「不思議子ちゃん(永遠の13歳)」さんの写真を特別に撮影させていただいた。
「すみません、首から下だけで結構ですので、記事用にお写真を撮らせて頂いても大丈夫でしょうか……?」とダメもとでお願いしたところ「いいですよ」とふたつ返事で了承され、それどころかその場で館長自ら参加する即席の撮影会が始まったのだった。
※館長様や不思議子ちゃんさん本人から特別に許可を頂いています。
不思議博物館本館は(基本的には)毎月第二日曜日に開館。
また福岡市中央区天神では分室である「サナトリウム」が営業中。
※どちらも開館日が不定期なので、お立ち寄りの際には事前の公式HPなどをご確認ください。
(文/水町綜、写真/鬼丸幸太郎)
本記事の筆者・水町綜による野球SF短編「星を打つ」が収録された『野球SF傑作選』と『SFアンソロジー 新月』は発売中。
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同作をはじめとするホープパンク作品を収録したマガジン『Kaguya Planet No.7 ホープパンク』は発売中。
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水町綜による映画『エディントンへようこそ』の感想レビューはこちらから。
