ドラマ『イクサガミ』配信開始
2025年11月13日(木) より、2022年から刊行されている今村翔吾の同名小説をドラマ化した『イクサガミ』の配信がスタート。本作の監督を務めるのは映画『新聞記者』(2019) や『正体』(2024) などで知られる藤井道人と、山口健人、山本透、そして脚本を藤井道人と共に山口健人と八代理沙が手掛ける。
実写版『イクサガミ』は、主演・プロデューサー・アクションプランナーを岡田准一が兼任することでも話題を集めている。豪華キャストを迎え、明治時代のバトルロワイヤルを描く『イクサガミ』は、どんな作品になったのか、今回は特にラストの展開に注目してネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末までのネタバレを含むため、必ずNetflixで本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『イクサガミ』シーズン1の内容および結末に関するネタバレを含みます。
Contents
ドラマ『イクサガミ』ネタバレ解説&考察
『イクサガミ』の時代背景は?
ドラマ『イクサガミ』は、明治時代を舞台にかつて武士の階級にあった士族たちが10万円の賞金を目指して東京を目指すデスゲームに参加するという物語だ。第1話の冒頭で描かれ、その後何度も回想が入る戦場のシーンは戊辰戦争での戦いである。
主人公の嵯峨愁二郎(さが しゅうじろう)は、1868年の戊辰戦争で新政府軍を率いて戦い、旧幕府軍に勝利。日本の近代化を進める明治政府が成立することになる。最初の戦闘シーンはいきなりの長回しで、圧巻のアクションが披露されている。
そして、『イクサガミ』の本編の舞台は、それから約10年後の1878年。愁二郎の妻と娘は「コロリ」に罹ったと言っているが、これは明治時代に日本で大流行したコレラのことである。1878年はコレラが流行し始めた年である。コレラの流行で貧窮する人々の姿は、現代のコロナ禍での窮状に重なる部分もある。
1878年といえば、前年の1877年には西南戦争が起きている。西南戦争は、政府による武士の特権剥奪や廃刀令などを背景に西郷隆盛が率いる士族と明治政府が対立して勃発したもので、明治政府が勝利し、表向きには士族による反乱は終結した。
西南戦争は日本最後の内戦とされており、以降、日本での闘争は言論や政治を通して行われることになる。だが、その後も“不平士族”と呼ばれる士族による要人の暗殺や襲撃が相次いでおり、1978年1月には岩倉具視が襲撃され重傷を負っている。
『イクサガミ』では、そうして権力の座を追われた元武士=士族の人生を懸けた戦いと、士族への恐怖・憎悪・復讐心を抱く者たちの陰謀が描かれるのである。
蠱毒のルールは?
『イクサガミ』の主人公で岡田准一が演じる嵯峨愁二郎は、戊辰戦争で勝利しながらも自軍からの砲撃に巻き込まれて多くの仲間を失っていた。以降、刀を持つとフラッシュバックに襲われ動悸が激しくなる症状に見舞われている。PTSDである。
コレラで娘のりんを失い、妻の志乃も治療が必要という状況で、愁二郎は妻と村の人々を救うために京都で金10万円を賞金とする武芸大会に参加することに。この時代の10万円の価値については、原作小説で「巡査の初任給」が4円、年俸が48円であり、その額の2000年以上分になるという記述がある。ざっと見積もっても現在の価値で数十億円にあたり、ドラマ『イカゲーム』(2021-2025) の賞金約45億円と遜色ない額になっている。
『イクサガミ』におけるゲーム(遊び)、蠱毒(こどく)の目的は、序盤では旧幕府軍の生き残りが新政府への復讐のために同志を探しているとも囁かれている。若干ややこしいが、主人公の愁二郎は戊辰戦争で旧幕府軍を相手に戦ったが、結果として新政府軍が勝利して樹立された明治新政府は武士の身分の廃止と刀狩りを進め、愁二郎は困窮することになった。旧幕府軍も新政府軍として戦った武士も、共に厳しい立場に置かれているのだ。
遊びの名は「蠱毒」。292人の参加者は天龍寺の総門から始まり、伊勢国の関、三河国の池鯉鮒、遠江国の浜松、駿河国の島田、相模国の箱根、武蔵国の品川を通り、1ヶ月以内に東京を目指す。各地で定められた点数が足りない場合には次に進むことはできず、木札を外してはならない等の掟を破ったものは見張りに殺される。
一人ずつに配られた木札が1点とカウントされ、殺し合いをしろとは言われていないが、各ポイントの通過に必要な点数を考えれば木札の奪い合いをせざるを得ない。そうして金10万円に釣られた愁二郎たちは京都から東京までのデスゲームに身を投じることになる。
注目キャストと大久保利通の立場
第1話のハイライトは、二宮和也演じる槐(えんじゅ)のスピーチ、そして、山田孝之演じる安藤神兵衛と一ノ瀬ワタル演じる立花雷蔵の登場だ。映画『8番出口』(2025) での名演も記憶に新しい二宮和也はヴィラン役として流石の演技を披露している。
山田孝之は『全裸監督』(2019-2022)、一ノ瀬ワタルは『サンクチュアリ -聖域-』(2023) での主演で知られている。共に第1話のみの登場となったが、Netflix組からの豪華なゲストキャストとなっている。
コレラに罹患した母のために参加した香月双葉に若手の藤崎ゆみあが抜擢、愁二郎の義弟・蹴上甚六を岡崎体育が演じたことも話題を呼んだ。一方で、かつて公家の守り神だった菊臣右京を玉木宏、伊賀の元忍の柘植響陣を東出昌大、岡部幻刀斎を阿部寛、執拗に愁二郎を追う貫地谷無骨を伊藤英明、愁二郎の義理の妹・衣笠彩八を清原果耶、アイヌの参加者カムイコチャを染谷将太が演じるなど、主役級のキャストがズラリと揃っている。
『イクサガミ』の面白い点は、歴史上の実在した人物が登場し、現実と交差する物語が描かれる点だ。蠱毒の実態を探る大久保利通を井浦新、警視局のトップである川路利良を濱田岳、大久保の右腕である前島密を田中哲司が演じている。ちなみに中島歩が演じた秘書の永瀬心平は架空の人物である。
この時点で、大久保利通は内務卿と呼ばれる、現在の内閣総理大臣にあたる立場にあった。大久保利通といえば、西郷隆盛と木戸孝允と共に明治維新を牽引した“維新の三傑”の一人として知られる。だが、1877年には西南戦争で対立した西郷隆盛が自刃し、同年5月には木戸孝允も病に倒れている。
かつて自身も薩摩藩の武士であり、新政府樹立を目指して西郷らと共に戦っていた大久保利通は、けれど現在は国を仕切る立場にある。日本を近代国家にするという大義と、特権を失い生活に困窮する士族の不満との間で、大久保は難しい判断を下していたのである。
主催は高みの見物をしている者たちへの手紙で、武士を勘違いした愚か者たちと吐き捨て、「滅ぼしましょう、武士という名の亡霊たちを」とメッセージを送る。蠱毒の背後には、かつての武士に恨みを抱く勢力が関わっているのである。
愁二郎のオリジンと「京八流」
蠱毒に参加した愁二郎は、主催者の目的に疑念を抱く響陣の誘いに乗り、双葉と共にチームを結成。パニック状態に陥った元武士の参加者たちを銃殺する制服の男たちを前に覚醒し、「人斬り刻舟」と呼ばれたかつての姿を取り戻す。
そして合流するのが愁二郎の義妹の彩八である。愁二郎は剣術の源流と呼ばれる「京八流」の八人の継承者の一人だった。第3話ではそのオリジンが描かれ、師匠に殺し合いを命じられた愁二郎が脱走し、京都で薩摩藩の護衛を務めた後、戦争に参加したことが明かされる。つまり、愁二郎は山で暮らす修行の身から薩摩藩=新政府軍の側に入り、そのまま戊辰戦争で新政府側として戦ったということだ。
取り残された他の兄妹たちは幻刀斎という京八流の脱走者を狩る役目を担う者に狙われ、生き延びたのは三助、四蔵、甚六、そして彩八だけだった。四蔵、甚六は陸軍に所属しており、幻刀斎を蠱毒に誘き出して兄妹全員で倒すことを企てている。
そんな中、彩八は愁二郎と再会を果たし、その計画を伝えぬまま東京を目指して行動を共にすることになる。彩八は山を降りた後、女性だからということで刀を握ることを許されず、幻刀斎から逃げるように生きてきたという。愁二郎はその責任から逃れるつもりはないが、生きて再会できたことを嬉しく思っていると正直な気持ちを吐露する。「人斬り」とは違う一面を覗かせるのだ。
四大財閥とは
一方の大久保利通は蠱毒に関連して内乱の兆候を報告されるが、動きが鈍い。不満を持つ士族たちとの絶妙なバランスに苦心しているようでもある。そんな中、イギリスから大量の銃が輸入されていることが発覚。その依頼主が三井・住友・安田・三菱という明治政府を支える四大財閥であったことが明らかになる。ドラマ『イクサガミ』前半最大のハイライトだ。
日本の財閥は戦後にGHQによって解体されたが、それぞれのグループ会社は現在も残っている。三井・住友といえば、現在は双方の系譜にある銀行部門が合併し三井住友銀行となったことで知られる。三菱系はMUFGや三菱商事などの三菱グループ、安田財閥はみずほ銀行や安田生命に枝分かれしている。
戦前のことなので、地上波でもドラマ内で実名を出しても問題はないだろう。だが、スポンサー頼みのテレビ局では何らかの忖度が働く可能性は拭いきれない。この辺りの企業名をもじったりせず、ぼかさずにそのまま実写化してくれる点は、Netflix製作・配信の良いところである。
同盟を組んだ愁二郎と響陣たちは、蠱毒の運営者の正体を探るためことに。そのために、参加者を警察に突き出して運営側が国家にまで楯突くのかどうかを見ること、死体の行き先を調べて正体を探ること、この二つの作戦に乗り出す。
この作戦のために赤山という人物を利用するのだが、第4話の居酒屋でのアクションシーンは見事。ここでも長回しが採用されているが、そのカメラワークが斬新かつスピード感に溢れている。
響陣は木札をつけたまま赤山を警察に突き出すが、赤山は牢屋で射殺されてしまう。また、愁二郎が死んだフリをして運搬される作戦に出るが、辿り着いたのは三井銀行だった。ちなみにこのシーンの三井銀行の金庫の扉には最初に参加者が集められた天龍寺の本堂にあったものと同じ紋様が刻まれている。
黒幕の正体と史実
そして、富士山麓の南から暗号の電報を受け取っていたのが内務省警視局であったことが明らかになり、蠱毒の主催が警視局のトップである川路だったことが明らかになる。川路利良は現実に存在した「警察の父」と呼ばれる人物で、日本の近代警察制度の確立に寄与した。
川路利良は大久保利通、西郷隆盛、そして愁二郎がいた薩摩藩の出身だが、史実では西郷が下野しても警察に献身するとして政府に残った。生き延びた不平士族にとって、取り締りを行う警視局のトップである川路は憎しみの対象であった。念のために書いておくが、川路利良が蠱毒を主催したというのはフィクションである。
ドラマ『イクサガミ』では、三菱の榊原、三井の神保、住友の諸沢、安田の近山と蠱毒に興じる川路だが、「亡霊退治は国家の一大事業」として士族殲滅に心を燃やしている。「古びた特権階級と刀にしがみつき驕り高ぶり反乱を起こす阿呆ども」とまで言い切るのだ。
そして、愁二郎がいた戊辰戦争の戦場で、勝利した味方に向けて砲撃を指示したのが川路であったことも明らかになる。味方だったのに、武士達を新時代に相応しくない亡霊として消そうとしたのである。そして、銀行には武士たちに金を貸しては踏み倒されてきたという恨みがあった。
ドラマとして巧かったのは、川路を俳優が温厚な印象が強い濱田岳が演じていた点だ。濱田岳の演じるキャラが黒幕のヴィランというまさかの展開。濱田岳は「釣りバカ日誌」シリーズで主人公・浜崎伝助を新たに演じたことでも知られるが、『イクサガミ』では一瞬、同シリーズを長年牽引してきた西田敏行が悪役を演じるときのような表情を見せる場面もあった。悪役として見事な演技を見せてくれている。
また、川路が見る昔の写真には、大久保と川路、そして愁二郎が写っている。これは前述の通り、三人が共に薩摩藩にいたからで、三人は過去に維新側で共に戦っていたということを示している。
前島密の役割と愁二郎たちの変化
警察が死体を処理し、財閥が費用を手配する——警察と経済界を相手にしなければならなくなった愁二郎は、大久保利通の右腕であった駅逓局長の前島密と通信することに。前島密も実在の人物で、こちらは日本の郵便制度の創設に尽力した「日本郵便制度の父」と呼ばれる人物である。現在も1円切手に肖像が用いられている。
愁二郎が前島密と電報を打ち合うシーンは、前島密が日本の通信の育成に寄与したことを背景としたシーンだ。人を斬ることを生業にする武士とも、その亡霊たちを殺し合わせようとする警視局長とも違う、人と人を繋ぐ国家事業に尽力してきた前島密へのリスペクトが感じられる。
愁二郎と前島密は3日後に岡崎で会う約束をし、その通信内容から川路への嫌疑が明確に。物語が大きく動き出す中、愁二郎一行にも変化が訪れる。池鯉鮒のチェックポイントで、居酒屋で拾った進之介が得点不足で進めなくなったのである。だが、ここで双葉が自分の持ち札を進之介に分け与え、愁二郎らもそれに追随することで進之介は次に進むことができたのだった。
強くて、人が斬れなければ前には進めないという先入観を覆した双葉。愁二郎たちも、目の前の人間を見捨てることを良しとは思えなかった。双葉が明治の乱世で新しい価値観をもたらしたからか、蠱毒の運営は、最後の9人に残れば生き残る可能性があることを漏らす。運営側も双葉の考えに共感しつつあることが窺える。
一方の川路も愁二郎が前島に情報を流したことを掴んでいたが、愁二郎の周辺に面白い参加者たちが集まっていることを認め、愁二郎たちを泳がせることに。「亡霊同士、殺し合ってもらう」と宣言し、『イクサガミ』は最終回を迎える。
ドラマ『イクサガミ』ラストを解説&考察
vs 無骨、幻刀斎
ドラマ『イクサガミ』の最終回では、響陣と進之介は別ルートへ進むと、三助、四蔵に彩八の居場所を教え、この二人と愁二郎、彩八、双葉、無骨、そして幻刀斎が祭りの夜に集結する。序盤から『イクサガミ』シーズン1のヴィランとして圧倒的な存在感を見せていた無骨は、戊辰戦争で満足できず愁二郎に挑んで斬られたこと、その後捕えられたが、櫻が蠱毒への招待状を渡して釈放していたことが明らかになる。
戦場で味方からの砲撃を受けたばかりだった愁二郎は「刀の時代は終わる」と無骨に告げたが、無骨は「俺たちは人斬りのままだ」と言って譲らなかった。実は最後まで武士、というか「人斬り」として生きようとし、そして死のうとしていたのが無骨だ。見ようによってはまっすぐな人物である。
回想シーンでは、無骨を倒した愁二郎の回転斬りが見事。そして褌一丁で恐ろしい笑みを見せる伊藤英明の演技も見事としか言いようがない。フィナーレの幕開けとして恐ろしくもワクワクする演出となっている。
大久保利通のメッセージ
川路のクーデターとも言える行動を知った大久保は、川路から詰め寄られていた過去を思い出す。警察に銃を帯同させ、西南戦争で士族を滅ぼすと言い張る川路に、大久保は必要以上の制圧は新たな蜂起を生むとして、刀を取り上げる以上のことは許さないと制止していたのである。
一方の川路は、幕末の京都で士族の暗殺によって何人の同志が散ったかと食い下がる。川路の中には、強者の士族が暗殺を企てれば止めるすべはないという恐怖があった。武士を恐れているからこそ、銃で武装し、蠱毒で殺し合いをさせているのだ。
大久保は、「武力に武力で対抗してどうする」と平和路線を訴える。必要なのは民衆であり、武力で民意は得られない、士族が不要になっても共に生きる道を見つけなければならないと主張する大久保は、現代の国政のリーダーにも見習ってもらいたいリーダーシップを見せている。しかし、この衝突を経て、川路は蠱毒計画という極端な作戦に乗り出すことになったのだった。
あの作品へのオマージュも
愁二郎は祭りで踊る双葉を見て子を見つめる父親の顔を見せていた。彩八から聞かれ、子どもができて人を斬る以外の生き方を教えてくれたと語る愁二郎には、確かに「人斬り」ではない新しい人格が生まれている。
それでも蠱毒の中では愁二郎は戦い続けることを迫られる。無骨、幻刀斎がやって来るのだ。幻刀斎が彩八を追うシーンは、侍ものならではの襖バトルに縁側ホラーが披露される。幻刀斎、怖すぎる。
一方の無骨はついに愁二郎に勝負を挑むと、人を斬ることでしか自分を証明できない、武士の時代はもう一度作ればいいだけと名言を連発。武士の亡霊そのもののような人物である。
彩八の前には、早乙女太一演じる四蔵、遠藤雄弥演じる三助が助けに来る。四蔵の回転斬り、空中で幻刀斎の背中を斬るアクロバットなアクションも最終回の見どころの一つだ。どのキャラクターも俳優が際立つカッコ良さがあり、衣装やスタントの妙もあってか、どこか戦隊モノの雰囲気も漂う。
愁二郎と無骨は火薬袋を斬りながら戦い花火が爆発、火だるまになりながら川へともつれ込む。最後は愁二郎が居合で無骨の横腹を切り裂き、自分は幸せだと言って無骨は散るのだった。無骨は最後まで人斬りとして生き、死んだのである。なお、愁二郎が逆手で抜刀し、敵を斬ったシーンは、黒澤明の映画『椿三十郎』(1962) のラストで三船敏郎演じる椿三十郎が繰り出した居合術へのオマージュだと思われる。
ラストの意味は?
ドラマ『イクサガミ』のラストでは、大久保は川路との対話を試みるが、櫻こと半次郎が大久保の前に現れると、川路からの「さよなら」という伝言を残し、大久保は暗殺されてしまう。大久保利通が1878年5月14日に47歳で暗殺されたのは史実である。
ただし、現実では大久保利通は6人の不平士族によって暗殺されている。大久保利通暗殺の背後に、士族に恐怖と憎しみを抱く川路利良の陰謀があったとしたら……という「if=もしも」の物語を描いたのが『イクサガミ』なのだ。
ちなみに権限が集中していた大久保利通が1878年に死んだ後、日本の国政は松方正義、大隈重信、岩倉具視を中心とした分権体制に入り、1885年に内閣制度が創設される。そして最初の内閣総理大臣に就任したのが伊藤博文というわけである。
愁二郎は前島と落ち合うはずだった岡崎に到着していたが、大久保暗殺の報が入り、前島は東京に戻るという伝言を受け取る。そして、愁二郎とすれ違った馬車に乗っていたのは川路だった。
ここからドラマ『イクサガミ』シーズン1は各々の姿を映し出してフィナーレへと向かっていく。彩八は四蔵と三助に、あのとき継承戦があったら自分は死んでいた、愁二郎が逃げたから今も生きていると認めると共に、幻刀斎を倒さなければ前に進めない、幻刀斎は兄妹が揃わなきゃ倒せないと改めて確認する。
甚六が遭遇した刀弥という人物を演じるのは、なんと横浜流星だ。藤井道人監督の映画『正体』での主演が記憶に新しい。Neflixオリジナルドラマではお馴染みの、最終回でのサプライズゲストの登場だ。
次のシーズンに向けて生き残っているのは、愁二郎、双葉、彩八、響陣、カムイコチャ、四蔵、三助、進之介、甚六、刀弥、幻刀斎ら。大久保暗殺の実行犯となった櫻は無心に刀を振る一方、幻刀斎に四蔵と三助の居場所を教えたのは響陣であったことも明らかになる。池鯉鮒以降は「強者のみが残る」とされる中、「第一章 完」の文字が現れ、第二章=シーズン2があることが示唆されてドラマ『イクサガミ』シーズン1は幕を閉じている。
ドラマ『イクサガミ』ネタバレ感想&考察
Netflixジャパンの新たな代表作
ドラマ『イクサガミ』は、脅威のアクションにカメラワーク、豪華すぎるキャストの名演技、藤井道人監督作品を手掛けてきた大間々昂による壮大な音楽の全てが噛み合った良作だった。明確にシーズン2を想定して物語が分割されているため、全体の評価は保留としたいが、ドラマ『今際の国のアリス』に続き、日本を代表するNetflixドラマが誕生したと言っても過言ではないだろう。
加えて、明治の乱世において警視局と財閥を中心とした陰謀が展開するという原作の内容を、ぼかさずに実写化し、明治を舞台にしたポリティカルスリラーとしてドラマ化した点は天晴れ。それでいて士族のアインデンティティを問う時代劇としても成立したエンターテインメント大作に仕上がっている。
キャストに目を向けると、響陣役の東出昌大の存在感が半端ではなかった。東京出身だがNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』(2013-2014) の撮影にあたって大阪に住み込んでアルバイトをするなどして大阪弁を習得したというエピソードが知られているが、『イクサガミ』でも見事な関西弁を披露していた。
ヴィランには伊藤英明に阿部寛と、主役級の面々が惜しげもなく投入される中、決して主人公としての存在感と属性を失わない愁二郎役の岡田准一も見事だった。これだけキャラの濃い人々の中にあって、しっかり「主人公」を担い切った。
シーズン2はどうなる?
繰り返しになるが、ドラマ『イクサガミ』はシーズン2への更新を前提として制作されていたように思える。実写版『ワンピース』(2023-) の展開と似ており、正式な決定や発表は配信後の視聴数が明らかになってからになるだろう。
『イクサガミ』シーズン1は、大筋は原作の内容を踏襲していたが、キャラの動きなどはドラマ用に大きく改変されていた。原作小説は『天』『地』『人』『神』の四部作となっているが、ドラマシーズン1は大まかに『天』と『地』を実写化したものと考えてもよい。
ただ、ラストの展開が『人』の内容まで入っていたり、キャラの配置や退場する人が変わっていたりと、かなり改変が加えられているため、綺麗にどこまで映像化されたというのは、正直なところ言いにくい。小説で一足早く先の物語を読みたいという人は、『人』から読むよりも、『天』『地』『人』『神』を順に読むのが一番良いかもしれない。
なお、『イクサガミ』は京都と東京を結ぶ東海道を上っていくお話だが、ドラマシーズン1では池鯉鮒の次の岡崎まで進んだことになる。これは全体の4分の1程度に過ぎない。しかし、小説第2部の『地』では、全体の3分の2程度にあたる浜松まで進んでいる。この点を見ると、ドラマはシーズン3まで作れる余白は残していると言える。
だが、ストレートに考えれば、シーズン2では原作の『人』『神』の展開が中心になるだろう。『今際の国のアリス』のようにドラマ完全オリジナルのストーリーが展開されるということでなければ、お話の分量的にはシーズン2も全6話でシリーズ完結となるのではないだろうか。シーズン2では、横浜流星演じる刀弥の動き、京八流継承者たちの行方、そして明治政府と財閥のその後にも注目だ。
また、弱いからと置いていかれそうになる双葉と、その双葉に「いくら刀が強くても幸せにはなれない」と教えた彩八のその後にも注目したい。明治の男性社会の中で、数少ない女性キャラがどのような生き方を見せるのか、シーズン1ではその片鱗が見えたが、シーズン2での展開にも期待しよう。
ドラマ『イクサガミ』は2025年11月13日(木) よりNetflixで独占配信。
バゴプラでは、2025年の映画やドラマを振り返る「お疲れ様会」を配信で開催!
本記事の筆者である齋藤隼飛が出演します。詳細とお申し込みはこちらから。
ドラマ『イクサガミ』のオフィシャルブックは講談社より発売中。
今村翔吾による原作小説『イクサガミ 天』は講談社より発売中。「天」「地」「人」「神」の順番で4巻が刊行されている。
立沢克美がコミカライズを手がけた漫画版はモーニングコミックスより発売中。
【ネタバレ注意】『匿名の恋人たち』の解説&感想はこちらから。
【ネタバレ注意】『今際の国のアリス』シーズン3のネタバレ解説&考察はこちらから。
【ネタバレ注意】『今際の国のアリス』シーズン3に登場した7つのゲームの解説はこちらの記事で。
【ネタバレ注意】『イカゲーム』シーズン3ラストの解説&感想はこちらから。
【ネタバレ注意】『イカゲーム』シーズン4とスピンオフについて監督が語った内容はこちらから。
『イカゲーム』英語版制作についての情報はこちらの記事で。
