『果てしなきスカーレット』ネタバレ解説&感想 ラストの意味は? 時代背景とメッセージを考察 | VG+ (バゴプラ)

『果てしなきスカーレット』ネタバレ解説&感想 ラストの意味は? 時代背景とメッセージを考察

©2025 スタジオ地図

『果てしなきスカーレット』公開

2025年11月21日(金) より、細田守監督の最新作『果てしなきスカーレット』が全国の劇場での公開を開始した。本作では芦田愛菜が主人公のスカーレットの声を演じ、岡田将生が聖役で長編アニメでの声優に初挑戦している。

細田守監督史上最大のヒットとなった『竜とそばかすの姫』(2021) から4年、『果てしなきスカーレット』で同監督はどんな物語を描いたのか。今回はラストの展開を中心にネタバレありで解説し、考察していこう。以下の内容は結末のネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『果てしなきスカーレット』の内容および結末に関するネタバレを含みます。

『果てしなきスカーレット』ネタバレ解説&考察

『ハムレット』を土台にした復讐譚

映画『果てしなきスカーレット』の舞台は1601年。主人公のスカーレットは中世デンマークの王女だ。国王だった父アムレットを叔父のクローディアスに殺されたスカーレットは、自身も毒を飲まされ、死者の国を彷徨いながら復讐を誓ったクローディアスを捜すことになる。

『竜とそばかすの姫』のストーリーは『美女と野獣』がベースになっていたが、『果てしなきスカーレット』ではシェイクスピアによって1601年頃に書かれた『ハムレット』がベースになっている。『ハムレット』は、王子ハムレットが王である父を殺した叔父に復讐しようとする物語で、『果てしなきスカーレット』の基本的な設定は『ハムレット』をなぞっており、「復讐」をテーマにした作品になっている。

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『果てしなきスカーレット』の特徴は、復讐を誓うスカーレットと、その対象であるクローディアスがどうやら既に死んでいるらしいということと、死者の国を舞台にしており、時を超えて現代の看護師である聖(ひじり)がスカーレットの前に現れるという点だ。

聖は復讐を誓って鍛えてきたスカーレットとは対照的な人物で、人を助け、ケアし、争いを拒否する姿勢を貫く。歌を唄い、踊り、出会った人々と交流することでコミュニティーに笑顔と平和をもたらすような人物だった。

スカーレットは聖に戦いを止められながら、見果てぬ場所(天国)を目指すクローディアに近づいていく。その中で、スカーレットはクローディアの部下で父の処刑に加担したコーネリウスヴォルティマンドと対峙しながら、聖の説得もあって最後には二人とも解放されている。

また、ヴォルティマンドはアムレットが死の間際に「許せ」と口にしたと証言する。復讐に取り憑かれたスカーレットは、その言葉の意味を考えながら旅を続けることになる。

シェイクスピアの『ハムレット』は、復讐を誓ったハムレットが最後には自分自身の身をも滅ぼしてしまう物語だった。『果てしなきスカーレット』では、聖がスカーレットのブレーキ役になり、平和を訴えかけることで「復讐」の意義が問われていく。

未来の渋谷と墓掘り人

中盤のハイライトは、聖が現代で流行っている歌として「祝祭の歌」が唄われるシーンだ。ここでスカーレットの意識は未来の日本へと飛ぶのだが、公式の設定では「2034年/渋谷」とされており、2034年完成を目指す実際の渋谷再開発のイメージを元にしたデザインになっている。

未来の渋谷では人々が楽しそうに踊っており、平和そうな世界が広がっている。その中心には聖の姿があり、スカーレットは髪を短くした姿で真っ青なワンピースを着て踊っている。『竜とそばかすの姫』の主人公・鈴のように、スカーレットは「もう一人の自分」に出会うのだ。そしてスカーレットは意識の中で見た自分の姿に合わせて髪を切り落とすことになる。

このシーンの直前には、スカーレットは夢の中で二人の墓掘り人が棺桶を開く場面を見ている。二人の墓掘り人の声を演じるのは『バケモノの子』(2015) で青年期の一郎彦役を演じた宮野真守と、『竜とそばかすの姫』でイェリネク役を演じた津田健次郎だ。

スカーレットは、棺桶の中にいるのはスカーレットが「知りたがってる人間」だと言われ、父が「許せ」の意味を教えてくれると期待する。しかし、棺桶の中身は空で、墓掘り人からはその人物は自分自身であると告げられる。この二つのヴィジョンを通して、スカーレットは自分と向き合うことの必要性に目覚め始めるのだ。

『果てしなきスカーレット』ラストをネタバレ解説&考察

「許せ」の意味

『果てしなきスカーレット』の終盤では、クローディアスの側近で味方に暴力を振るうことも厭わないポローニアスとレアティーズがスカーレットの前に立ちはだかる。ここでスカーレットを助けたのは、旅の中でスカーレットと聖が戦いの末に見逃してきたコーネリウスとヴォルティマンドだった。

レアティーズ役の柄本時生、ポローニアス役の山路和弘、コーネリウス役の松重豊、ヴォルティマンド役の吉田鋼太郎が共演し戦いを繰り広げる豪華なワンシーン。ちなみに山路和弘は『バケモノの子』にも猪王山役で出演している。

少し前に殴られ、殺されかけ、銃で撃たれたコーネリウスとヴォルティマンドに助けられたスカーレットは、ついにクローディアスが向かった見果てぬ場所の扉に辿り着く。そこで見果てぬ場所に行きたいがために懺悔するクローディアスと遭遇し、スカーレットは父アムレットの言葉通りにクローディアスを「許す」ことに。

ところがクローディアスは逆上しもっと痛めつけてやるべきだったとスカーレットの心を踏み躙る。スカーレットもまた激昂してクローディアスを殺しそうになるが、ここでスカーレットは自問自答を始める。

なぜ別の生き方をできないのか、ずっとこうして生きてきたから、復讐のために全てを捧げ、自分を許さずに生きてきた——それがスカーレットが自分と向き合う中でたどり着いた答えであり、父の「許せ」という言葉の答えだった。そして、スカーレットは父のために、復讐のために生きなければならないと縛り続けてきた自分自身を許し、復讐の手を止めたのだった。

そしてスカーレットは、父からの伸び伸びと君らしく生きてほしいという言葉を聞く。よく言われる話あdが、他者を赦すのは赦される他者のためではなく、自分を解放するためである。憎しみや憎む相手に囚われたまま生きるより、自由に生きるべきだということだ。

また、スカーレットは憎しみの連鎖を断ち切ることで、未来の人たちが平和に生きられるようにと祈りを込める。未来を生きていた聖や「自分がお姫様になったら子どもが死なない世界にする」と言っていた少女を思ってのことだろう。もちろんこれでクローディアスが改心するはずはなかったが、クローディアスはドラゴンが落とした雷に打たれて虚無になったのだった。

ラストの意味は?

そして現れた老婆は、この中に死んでいない者がいるとして、スカーレットが元の世界に帰らなければならないと告げる。聖は当初、自分は死んでいないと言っていたが、子ども達を通り魔から咄嗟に守ったがために死んだという意識がなかったと説明する。

老婆の説明によると、この死者の世界は所謂「今際の国」で、時が交わる生死の境界なのだという。死んだ者は虚無になるが、生死の境を彷徨って生者の世界に戻る者もいるということである。

スカーレットは元の世界に戻る直前に聖に口付けを交わす。『スター・ウォーズ エピソード9/スカイウォーカーの夜明け』(2019) 以来の衝撃。別にキスをしなくてもよかった気はするが、細田守監督の価値観が存分に表現されたシーンでもある。詳しくは後述しよう。

スカーレットが1601年に戻ると、クローディアスは誰かに仕掛けた毒を自分で飲んでしまい息を引き取っていた。毒を使う者はその毒で死ぬのである。

そうしてスカーレットは王位に就くことに。スカーレットは民衆に向けて、人々のために奉仕すること、隣国とは対立よりも友好を築くこと、子どもを死なせないこと、争わないで済む道を諦めないで探し続けることを誓う。平和を掲げるリーダーが誕生したのである。

ちなみに1601年は、場所はイギリスだが女王のエリザベス1世が救貧法を制定した年だ。『果てしなきスカーレット』のラストでのスカーレットは、平和を希求する理想のリーダーとして描かれており、リーダーが率先して平和な世界を作っていくべきだというメッセージが読み取れる。

最後にスカーレットは自分の言葉で新しい歌を唄う。ラストで歌われるのは「果てしなき」。「遥か彼方時を超えて/この身を全て燃やし尽くして/あなたへ辿り着きたい/もう一度」と、聖に思いを馳せていることが読み取れる歌詞となっている。

『果てしなきスカーレット』ネタバレ感想&考察

復讐と平和とリーダーと

映画『果てしなきスカーレット』は、シェイクスピア『ハムレット』を土台にしながら、復讐に囚われた主人公スカーレットが現代人の聖との出会いを経て、復讐心と憎しみから解放される話だった。

「現代の価値観で過去のことを批判するな」というのはよく言われる言葉だが、『果てしなきスカーレット』では意識を変えて歴史を積み重ねていくことで未来を良い方向に変えられるという物語が描かれた。翻って、現在の私たちも意識を変えることで未来を変えることができるというメッセージにもなっている。

ラストのメッセージは、世界で戦争や侵略が起き、分断に排外主義が跋扈する現在においては非常に力強いものだった。これまで個人や家族の話に帰結しがちだった細田守監督が、“国の指導者”の思想と市民との協働によって社会を良くすることができるという結論を描いた点は良い意味で意外だった。

ラストで王位についたスカーレットは、より平和で良い世界を築き、未来は変化するのではないだろうか。スカーレットが見た2034年の渋谷は改変された未来であり、世界がより平和になったことで聖は死なず、一緒に踊っていたのはスカーレットの子孫だったのかもしれない。

『果てしなきスカーレット』では、興行収入66億円のヒットを記録した細田守監督の前作『竜とそばかすの姫』に続いて随所に歌と踊りを入れることでエンタメ性を保ちつつ、ファンタジー色が強くなったことでよりディズニーっぽさが増していた点も印象的だった。前作は特に若い層から高い評価を得ていただけに、『果てしなきスカーレット』が若い層からどう観られるのかという点にも注目したい。

細田守監督のジェンダー観と家族観

『果てしなきスカーレット』がリーダーシップと国家観まで踏み込んだという点では特筆すべき作品であったことは確かだ。南米やポリネシアの文化を取り入れていた点も海外を意識した要素だったように思う。一方で、細田守監督の伝統的で保守的な家族観やジェンダー観は色濃く残っており、海外での評価が得られるかどうかは微妙なところだと感じた。

細田守監督作品は、ストーリーのきっかけが親子関係に依拠することが多く、世界観は男女二元論で描かれるというのが特徴だ。老人・子ども・男性・女性、これ以外の存在が捨象された単純化された世界で、クィアネス(男女二元論にとらわれない性のあり方)のいどころが見当たらないのである。

だからスカーレットと聖はキスをしないと物語を閉じることができないし、〈男〉である聖に「俺がそばにいる」と言われたスカーレットは“女の子っぽい”顔を見せて泣く。作中世界の登場人物達は老人か幼児でない限り、〈男〉か〈女〉かであることを迫られる。感じ方は人それぞれだろうけども、筆者はそこに窮屈さを感じる。

スカーレットが現世に戻る際に良い未来をつくるからと訴える時、聖に対する要求は「家族を作って子どもを育てて」というものだった。お話の上ではスカーレットは16世紀の人なので仕方ないのかもしれないが、そこには作り手の価値基準も透けて見えるような気がした。

細田守監督は、良くも悪くも意図的にマジョリティーと家族向けに作品を作ってきたことには留意したい。『果てしなきスカーレット』は、同監督のオリジナル映画で初めて海外の人物が主人公に据えられた作品だ。世界の“大衆”は細田守監督作品をどう観るのか、その評価にも注目したい。

映画『果てしなきスカーレット』は2025年11月21日(金) より公開。

『果てしなきスカーレット』

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『竜とそばかすの姫』の解説&感想はこちらから。

『バケモノの子』の解説&感想はこちらから。

『おおかみこどもの雨と雪』の解説&感想はこちらから。

『サマーウォーズ』の解説&感想はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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