巨大災害・老朽化・人手不足を超えて── 日本を救う“参加型インフラ社会”をSF思考で考える | VG+ (バゴプラ)

巨大災害・老朽化・人手不足を超えて── 日本を救う“参加型インフラ社会”をSF思考で考える

© NIKKO Co., Ltd.

日本最大の土木プラントメーカーが提示するインフラの未来

蛇口をひねれば水が出る。スマホを開けばネットがつながる。スーパーやコンビニには毎日新鮮な食材やお弁当が届く……。こうした“意識しない安心”は、道路、橋、上下水道、電力・通信網といった膨大な基盤(インフラ)によって支えられている。

しかし、日本のインフラの多くは、高度成長期に整備されており、老朽化が進んでいる。アスファルトのひび割れ、水道管の劣化、橋の腐食……。老朽化が進めば、生活に必要な水や電気がとどこおり、交通や物流が麻痺してしまう可能性もある。さらに南海トラフ巨大地震の可能性、気候危機による災害の激化、人手不足、都市への人口集中など、日本のインフラにかかる負荷とリスクは高まるばかりだ。

一方で、「インフラは国や行政の仕事。自分が関わる余地はない。」と考える人も少なくない。しかし、そんな思い込みこそが、人手不足を加速させ私たちのまちをより良くする機会を奪っているとしたらどうだろうか。

これまでのやり方では通用しない社会の中で、企業や市民の参加こそが、インフラを未来へつなぐ重要な役割を果たすことは間違いない。そんな“参加型インフラ”の未来像を鮮やかに描き出したのが、日本最大の土木プラントメーカーである日工株式会社が取り組んだ〈日工SFプロトタイピングプロジェクト〉だ。

本記事では、〈日工SFプロトタイピングプロジェクト〉が提示したインフラの未来像を、①インフラを社会全体でどのように育て、持続していくのか、②巨大災害に備えるインフラとはなにか、という二点から読み解いてみたい。

インフラは“社会で育てるもの”へ

〈日工SFプロトタイピングプロジェクト〉では、日工の社員とSF作家の宮本道人さんが対話やワークショップを重ねながらインフラの未来を検討し、その一つの成果として、2050年代の兵庫県明石市を舞台にした短編小説「明日のアスファルト」を制作した。「明日のアスファルト」は、アスファルトが道路だけでなく建築、衣類、装飾品などにも使われ、個人が手軽に扱える素材として普及した未来をプロトタイプ(試作)した、土木SFエンターテインメント小説で、特設Webサイトから読むことができる。

小説「明日のアスファルト」特設Webサイト

「明日のアスファルト」のビジュアルイメージ。アートワーク制作は、グレッグ・イーガンのSF作品のカバー絵なども手がけたアーティストの小阪淳氏。

印象的だったのは、“参加型インフラ”が実現した社会が描かれている点だ。小学生が通学路のひび割れを見つけ、学校から貸与されたキットで補修する。あるいはドライブレコーダー映像がリアルタイムで道路の老朽化の発見に活用される……。行政だけでは拾いきれない現場の声と、市民のDIY精神が社会のインフラ維持に組み込まれた未来だ。

その力が特に発揮されるのは物語の後半、明石市で巨大地震が起きる場面だ。インフラに組み込まれたナノセンサーと現場の人たちの声をもとに、復旧が必要な場所とその内容を瞬時に判断する。即席のプラントや自走式の〈ペットプラント〉を活用して、企業の人や市民が協働して道路の補修を行う。困難に阻まれながらも、技術の力、人の力を結集して、復興に欠かせない道路の補修に瞬時に取り組む様が生き生きと描かれている。

この未来で筆者が特に重要だと考えるのは、市民のDIY精神が行政では目の届かない細部や人手不足を補い、逆に行政が税制やインセンティブで市民を支えるという構図である。参加型インフラを単なる自助に終わらせず、社会全体でインフラを育ててリスクに備えるという姿勢を感じた。

日工本社で開催された自社製品展示会「NIKKO MESSE 2025」でも「明日のアスファルト」のビジュアルイメージや世界観が展示された。会場入口で壁一面に表現された迫力満点の小阪淳氏のアートワークによって、未来を志向する日工の姿勢が強く印象に残った。

災害に強い社会のカギは、応用力とDIY

またプロジェクトの一環として、トークセッション「SF思考で考える、未来のみち・まち・インフラ 強く、やさしく、楽しい街へ!」が2025年10月24日に開催された。『チェーン・ディザスターズ』や数々の災害小説を書かれてきた高嶋哲夫さんをゲストに、宮本道人さん、日工の垣本伊守幹さんの3名が、災害におけるインフラについて熱い議論を交わした。

トークを聞きながら、“ゆとりと遊び”や”協働とDIY”、“地方分権”など、災害に備えるインフラづくりのためのキーワードがさらに具体的に見えてきた。

リスクに備えるゆとりと遊び

イベントでは冒頭、非常事態に発揮された技術の実例として、コロナ禍でオードリー・タンが開発した「マスク・マップ」に言及。高嶋さんが、マスク・マップにおいて注目すべき点は、その技術力というよりも“応用力”であると力説していた点が印象的だった。どの企業がどんな技術を持ち、どのように組み合わせれば社会の役に立つのか。技術同士をつなぐための応用力が、危機の現場では何より重要になる。

そしてその応用のためには、①災害とそのリスクについて具体的に知ること、②行政や会社に、ゆとりや遊びをもたせることの2点が欠かせないと言う。災害時のリスクの具体化は、高嶋さんの著作でも貫かれている。例えば首都直下型の地震を描いた『M8』では、震度による揺れの状況が詳細に書かれているのだ。

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それを受けて宮本さんからは、日工ではゆとりや遊びの要素が大事にされているということが紹介された。例えば、コンクリート用ミキサーの技術を“食品工場向け調理機器”に転用した実績があるなど、コア技術を応用して一見無関係な領域で新たな価値を生んできたのだ。こういった他ジャンルの事業への越境には、ゆとりと遊びが欠かせない。

もちろん、目の前の資金繰りや人手不足に悩む企業にとっては、遊びとゆとりに割く余裕などないのが現実だろうとも思う。実際、他事業への応用や展開を苦手とする日本の企業は多いと宮本さんは言う。だが、一つのジャンルを掘り下げると同時に、新規の事業として他ジャンルに応用・展開する“両利きの経営”は経営学でも重視されており、時代の変化が著しい社会においては欠かせない視点なのだそうだ。

日工が実践している「遊び」の一つに、「プラント×ミューラル」というWALL SHARE株式会社と共に取り組むプロジェクトがある。ミューラルとは壁画を意味する英語で、プラントの一部に巨大な壁画を描き、プラントを地域に開かれた文化発信地にするというプロジェクトだ。アーティスト:KOMESENNIN9により、第一弾ミューラルは本社ビルに描かれた

この2025年秋には、新たなアーティストを迎え、施設内に描かれた第二弾ミューラルをお披露目した。

テストセンター「TACO-Lab」内に描かれた巨大な“タコ“のミューラル
明石市のシンボルでもあるタコの魅力が独自の幾何学的な表現と鮮やかなカラーリングで彩られている。
アーティスト:holhy

災害時に必要なのは、ヒーローではなくて協働とDIY

高嶋さんの『チェーン・ディザスターズ』では、総理大臣と民間企業のエンジニアという二人の若い主人公が、連鎖する災害に立ち向かう。しかし当然だが、現実の災害やインフラの老朽化は数名のヒーローですべて解決できるはずもなく、それぞれが自分のできる範囲で動く“DIY精神”と、企業同士、行政、市民が互いの力を組み合わせる“協働”が必要だ。トークでは高嶋さん自身、「災害の際に企業が力を発揮するためには、他社とのコミュニケーションが欠かせない」と力説していた。

一方宮本さんは、さまざまな企業と未来共創プロジェクトを行ってきた経験から、多くの会社が知見を自社で閉じていると指摘する。そんな状況を打開する鍵が“SF思考”にある。直近の新規事業開発の情報は社外に公にすることは難しいだろう。しかし、SFという仮想の未来を議論の基盤にすることで、業界の壁や秘密保持の縛りを越えて、未来の協働を模索することができるのだ。

日工では、未来の協働への第一歩として、〈明日のアスファルト〉から、新プロジェクト〈未来インフラ共創会議〉を始めたそうだ。〈未来インフラ共創会議〉では日工がハブとなり、自治体・行政関係者、建設・不動産・エネルギー・ITなどの民間企業、大学・研究機関、市民・NPOなど、多様なステークホルダーがコラボレーション(共創)して、多様な知と技術を結集して「一歩先を行く、道路インフラと防災の未来」の実現を目指していく。宮本さんも「日工株式会社招聘フューチャリスト」の肩書のもと、同社の未来創造に引き続き関わっていく予定だ。

参加型インフラの実現への一歩となる横断的なネットワークは、これまでのインフラ業界にはなかったもので、筆者も今後の展開に注目している。

災害に備えたまちづくりのために、地方に権限を

トークの議論はさらに、地域の自立に関するテーマへと広がった。『首都移転』で東京一極集中を問題提起した高嶋氏はコロナ禍での対応を引き合いに出しながら 「地方への権限移譲がなければ、本当の意味での災害対応はできない」と語る。

人口も地形も文化も抱えるリスクも違う地域に、同じルールを押しつけても、実情に合った対応はできない。その土地の暮らしやニーズを一番理解している住民がダイレクトに意思決定に参加できる仕組みこそが必要だ。だからこそ、インフラの未来や参加型インフラの実現を語るうえで“地方自治の強化”は欠かせない視点になる。そして、関西に根ざす企業である日工がこのプロジェクトの中心にいることは、その象徴のように感じられた。

『チェーン・ディザスターズ』で災害時に活躍するアプリや「明日のアスファルト」に出てくる市民と企業と行政の参加型インフラの実現には、個人情報の保護や法規制の壁が立ちはだかる。しかし、人手不足や老朽化が深刻化する中、行政だけではインフラ維持が追いつかない状況はすでに始まっている。「“インフラ特区”をつくり、先進的な試みを実証できる環境が必要なのでは」「AIによる“道路補修の自動認可システム”をつくる」といった、ITを活用した未来の街づくりのアイデアも出た。

とはいえ、地方への権限の移譲や参加型インフラ整備の実行は簡単ではない。予算や権限だけ地方に渡しても、それを運用できる人材がいなければ意味がなく、逆に悪徳業者に付け込まれる危険すらある。あるいは、建前として利用され、実際には地方切り捨てにつながるのではないか……。著者が少し考えただけでも、様々な懸念が浮かんでくる。

しかしだからこそ、SF思考によって、“フィクションの未来”をもとに議論することに大きな価値があるのだと思う。利害関係に縛られやすい現実の議論よりも、自由に、柔軟に、より多角的に未来を思考できるからだ。技術を組み合わせる「応用力」、越境を可能にする「遊びとゆとり」、企業・自治体・市民の「協働」、小さな改善を積み上げる「DIYの精神」。これらを大切にしながら、少しずつ課題を解決していくことに希望を覚えるようなトークイベントだった。

インフラは、専門家だけのものではない。災害に強く、やさしく、そして楽しい街は、みんなでつくる未来の先にある。今後、日工が、そして〈未来インフラ共創会議〉がどんな新しい動きを見せるのか、その展開から目が離せない。

 

高嶋哲夫さんがあいつぐ巨大地震、大型台風、富士山の噴火という立て続けに起こる災害とその中で奮闘する登場人物らを描いた『チェーン・ディザスターズ』はこちら。

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宮本道人さんによるSF思考の実践についてさらに知りたい方は、宮本さんの編著『外来種がいなくなったらどうなるの? SF思考で環境問題を考える』をお読みいただきたい。

また、『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』には、SF思考と科学技術の関係についての宮本さんの論考や討議が収録されている。

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2026年1月刊行予定の『北海道SFアンソロジー:無数の足跡を追いかけて』にも、宮本さんの共著小説「あなたは特産品です。広まってください」が収録されるので、ぜひチェック頂ければ幸いである。

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※本記事は日工株式会社から依頼をいただいて、PR記事として作成しております。

井上 彼方

1994年生まれ。SF企業VGプラス合同会社代表。オンラインSF誌 Kaguya Planetのコーディネーター、SFレーベルKaguya Booksの編集者。編(著)書に『社会・からだ・私についてフェミニズムと考える本』、『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』、『京都SFアンソロジー:ここに浮かぶ景色』(社会評論社)。
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