映画『オデュッセイア』ネタバレ解説&感想 ラストの意味は? 原作との違いとノーラン監督のテーマを考察 | VG+ (バゴプラ)

映画『オデュッセイア』ネタバレ解説&感想 ラストの意味は? 原作との違いとノーラン監督のテーマを考察

L to R: Matt Damon is Odysseus and Zendaya is Athena in THE ODYSSEY, written, produced, and directed by Christopher Nolan.

映画『オデュッセイア』公開

クリストファー・ノーラン監督の映画『オデュッセイア』が、2026年9月11日(金) より日本で全国公開を迎えた。古代ギリシャの詩人ホメロスによる叙事詩を、巨大なスペクタクルとして映像化し、マット・デイモンが主演を務めた。

今回は、映画『オデュッセイア』について、特にラストの展開に焦点をあてて、ネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末についてのネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。また、以下の内容は性暴力に言及しているのでご注意を。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『オデュッセイア』の結末に関するネタバレを含みます。

映画『オデュッセイア』ネタバレ解説&考察

三者三様の戦い

映画『オデュッセイア』では、トロイア戦争を終えたイタカの王オデュッセウスが、妻ペネロペと息子テレマコスの待つ故郷へ帰るまでの物語が描かれる。オデュッセウスは道中で神話上の怪物たちと遭遇する一方、イタカに残されたペネロペとテレマコスも、それぞれの戦いに臨む。

マット・デイモンが演じたオデュッセウスは、ギリシャ軍でかの有名な“トロイの木馬”を提案した人物。ギリシャ軍が撤退したように見せかけ、中に兵を忍ばせた巨大な木馬を女神アテナへの奉納物として残し、それを戦勝の記念として持ち帰ったトロイア人の城内で奇襲を仕掛けて戦争に勝利、10年間の戦争に終止符を打ってオデュッセウスは帰還を試みる。

一方、イタカでは、オデュッセウスは死んだと考える男たちが宮殿に居座り、アン・ハサウェイ演じる王妃ペネロペに再婚を迫っていた。求婚者たちは客として迎えられながら、王家の食料と酒を消費し、トム・ホランド演じる王位継承者テレマコスの命まで狙う。その中心にいて王座を狙っているのがロバート・パティンソン演じるアンティノオスだ。

ペネロペは夫の生死を確かめられないまま時間を稼ぎ、テレマコスは父の消息を求めて旅立つ。アンティノオスをヴィランに据えながら、三者三様の戦に臨むのだ。

オデュッセウスの旅

トロイア戦争に10年を費やしたオデュッセウスは、さらに10年に及ぶ漂流を経験する。オデュッセウスがイタカを離れてから帰るまでには、合計20年が経過することになる。オデュッセウスはイタカへの帰路でさまざまな怪物たちに遭遇する。

人を食う一つ目の巨人キュクロプス、巨人の騎士団ライストリュゴネ族、男たちを豚へ変える魔女のキルケ、歌で船乗りを死へ誘うセイレーン、海の怪物スキュラである。原典におけるオデュッセウスは、腕力よりも話術と機転によって危機を切り抜ける“知略の人”だ。映画にもその性質は残るが、怪物との戦いでは、知恵以上に兵士たちの疲弊と恐怖が強調されている。

キュクロプスは海の神であるポセイドンの息子で、オデュッセウスたちは“目潰し”で苦難を乗り切る。だが、これがポセイドンの怒りを買うこととなり、オデュッセウスの航海は呪われることになる。

興味深いのは、オデュッセウスとその部下たちが怪物たちと直面する一方で、オデュッセウスの側にも怪物的な側面が見られるという点だ。歓迎を拒む村を焼き、キュクロプスからは羊を盗み、美しいセイレーンに夢中になる兵士たちは、侵略者/獣としての表情をのぞかせる。だからキルケは男たちを豚に変えてしまう。

オデュッセウスは旅の中で、自分達のなかに怪物としての姿を見続ける。その姿は、イタカの人々が外部からの侵略者として恐れていた“海の民”そのものだ。そんな中、キルケに導かれ冥界に辿り着いたオデュッセウスは、預言者テイレシアースによって、部下が全滅するという未来を告げられる。

オデュッセウスは冥界で、エリオット・ペイジ演じるシノンとも再会。シノンは、トロイの木馬の作戦について聞かされないまま囮になって死んでおり、オデュッセウスに怒りをぶつける。これもまた、オデュッセウスの“知略”を“罪”として捉えなおす展開だ。

シノンはホメロスの原作『オデュッセイア』には登場しない人物で、ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』の登場人物だ。クリストファー・ノーラン監督があえて映画『オデュッセイア』にシノンを重要人物として配置した背景には、人類が“知略”と思い込んでいる行為を問い直す意図があったのだと考えられる。

オデュッセウスは予言通りに全ての兵を失い、シャーリーズ・セロン演じる女神カリュプソの島で7年を過ごす。映画『オデュッセイア』では、カリュプソのもとで記憶を取り戻していく様子を通して、旅路での出来事が描かれていく。そして、記憶を取り戻したオデュッセウスは、20年ぶりにイタカに帰還することになる。

“ゼウスの掟”と求婚者たちの罪

ほとんどが男性のキャラクターで構成される『オデュッセイア』だが、その中でオデュッセウスの妻ペネロペは、王が不在の間もイタケを守り続けている。奪うのではない、守る方の戦いだ。ペネロペは、自分の息子のテレマコスも力不足であると見て、簡単に王の座には就かせない。

劇中で繰り返し意識される “ゼウスの掟”は、古代ギリシャで重視された客人歓待の規範で、旅人を迎えた主人は食事や安全を与え、客人も主人の厚意を利用してはならない、という掟を指す。身元の分からない旅人が神の化身かもしれないという時代において、歓待は神聖な義務だった。

この掟の前段を利用するのがペネロペの求婚者たちだ。客の立場で宮殿に居座り、食料を食い潰し、オデュッセウスの妻と王位を奪おうとする。そんな状況の中で、父オデュッセウスの足取りを追うために海に出たテレマコスは、スパルタ王のメネラオスから父オデュッセウスがどんな人物だったか、実際のトロイ攻略戦がどんなものだったのかを聞く。そしてテレマコスは、父を追うだけでなく、求婚者たちと向き合い、王位を継ぐ責任と向き合わなければならないと悟る。

メネラオスを演じたのはMCUでパニッシャーことフランク・キャッスルを演じるジョン・バーンサルで、テレマコスを演じたのはMCUでスパイダーマンことピーター・パーカーを演じるトム・ホランドだ。同時期に公開された『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』(2026) を想起させるやり取りは、映画ファンには嬉しい展開だった。

求婚者たちはイタカを出ているテレマコスに刺客を送り込み、王の後継者を亡き者にしようと企む。そんなテレマコスを助けたのは、帰還したオデュッセウスだった。ただし、オデュッセウスは王としてではなくシノンの名を名乗ってイタカに戻ることになる。

映画『オデュッセイア』ラストをネタバレ解説&考察

アンティノオスとオデュッセウスの罪

映画『オデュッセイア』の終盤でイタカに戻ったオデュッセウスは、アンティノオスにシノンのくじを突きつける。かつて、誰が戦争に行くかというくじ引きを行った際、本当はアンティノオスが戦争に行く方のくじを引いていたが、シノンがアンティノオスの身代わりになっていた。

アンティノオスは戦争に行きたくなくてズルをしていた。しかし、オデュッセウスもその不正を見てみぬふりをした。その結果、シノンは味方に欺かれたままトロイの木馬の前で死ぬことになった。これもまた“知略”と思われている行為を“罪”として強調する演出だ。

だが、罪が明かされるのはアンティノオスだけではない。オデュッセウスもまた、その身分を隠したままペネロペにトロイア攻略戦で何があったのかを正直に告白する。そして、トロイの木馬で宮殿に侵入したオデュッセウスたちが、ギリシャ軍の総大将アガメムノンたちを招き入れ、都市を陥落させた時の回想が描かれる。

映画『オデュッセイア』は、原作では詳しく描かれないトロイの木馬と都市の陥落を大きく扱う。オデュッセウスの策は、力で破れなかった城壁を、相手の信仰を利用して木馬を運ばせて内側から破るというものだ。これは「知略の英雄」として知られるオデュッセウス最大の功績である。

だが、クリストファー・ノーラン監督はこの勝利を爽快な英雄譚として描かない。オデュッセウスは作戦のためには同胞シノンを囮にし、味方にさえ真意を伏せた。城内へ侵入した兵士たちは市民を殺し、アテナの神殿を汚す。オデュッセウスの完璧な計略は戦争を終わらせた一方で、掟や聖域まで破壊した。

ゼンデイヤ演じる女神アテナは、知恵や戦略、戦争を司る女神だが、ギリシャ軍はそのアテナの像の首を斬り落としてしまった。直接は描かれないが、魔女キルケが指摘した通り、トロイアではギリシャ軍の男たちによる女性市民への性暴力が行われたことも示唆されている。

ラストの意味は?

罪を背負ったオデュッセウスは、同じく掟を破った“同類”である求婚者たちを皆殺しにする。そうしたとしても、シノンもトロイアの死者も帰ってくるわけではない。オデュッセウスは英雄としてではなく、罪人としてケジメをつけようとしているように見える。

トロイアの神殿を破壊したギリシャ兵は、他者が最後の安全を求める聖域を踏みにじった。オデュッセウスが帰還した故郷で客相手に繰り広げる殺戮は、同じことの反復のようにも思える。だからか、本作はオデュッセウスが求婚者たちを倒した後も彼を王の座には戻らせない。

オデュッセウスは息子のテレマコスにイタカを託し、ペネロペと共に西へと船を出す。目的は、航海の途中で埋葬できなかった仲間たちを弔うことだ。つまり、『オデュッセイア』のラストで描かれるのは、かつての王による終わらせられなかった戦争の後始末である。オデュッセウスは死者を記憶する責任を引き受けたことで、ようやく「オデュッセイア=放浪の旅」を終えることになったのだ。

映画『オデュッセイア』ネタバレ感想&考察

原作とは違う展開と、そのメッセージ

映画『オデュッセイア』は、ホメロスの原典を翻案したクリストファー・ノーラン監督独自の作品に仕上がっていた。原典では、知恵と戦争を司る女神アテナがオデュッセウスとテレマコスを積極的に助ける。映画では、オデュッセウスは自らの罪を理解し、これまで“知略”とされてきた行為の罪深さを認める。

また、海から来て文明を滅ぼす“海の民”という要素も原典にはないものだ。この映画の仕掛けは、海の向こうから未知の蛮族がやって来るのではなく、オデュッセウスたち自身が「海の民」だったと気づかせることにある。文明を破壊する怪物は外部から突然現れるのではなく、自らの内にあるものなのだ。

トロイの木馬は一つの都市を攻略するための策だったが、「どんな手段を使ってでも勝てばよい」という考えは、海を越えて世界へと広がる。戦争が終わっても、そこで解放された考え方は拡散されていく。

この結末はクリストファー・ノーラン監督の前作『オッペンハイマー』とも重なる。オッペンハイマーは自身の研究の成功によって世界へ放たれた暴力と破壊を後から理解する。知性ともてはやされていたものが、世界に取り返しのつかない連鎖を残したのである。

『オッペンハイマー』と異なるのは、オデュッセウスがそのケジメをとるというラストまで描かれた点だ。原作では、オデュッセウスはイタカの王に復帰し、殺された求婚者の親族が報復に現れるが、アテナの介入によって争いは止められる。

映画では、神が強制的に復讐を終わらせる展開を採用せず、代わりに、オデュッセウス自身が王座を降りて暴力の連鎖を断とうとする。原典では神が外側からもたらした平和を、映画では当事者が自分の権力を手放すことで選び取る。おそらくこの改変が、クリストファー・ノーラン監督が古典を現代の物語へと翻案するにあたっての最も重要な点だったと言える。

また、イタカを守り続けたペネロペにも20年間の戦いがあった。夫の生死が分からず、求婚者たちに囲まれ、成長する息子と王国を守った20年だ。映画は全体を通して男性たちの物語が描かれるが、その描写は、男たちが起こした戦争とその罪というテーマに接続していた。そうではない戦い、守る方の戦いのあり方を、ペネロペは示してくれていた。

映画『オデュッセイア』への批判とオデュッセウスから学ぶこと

一方で、映画『オデュッセイア』には批判もある。本作は2025年7月、西サハラ南部の都市ダフラ近郊にあるホワイト・デューン周辺で約4日間の撮影を行った。西サハラはモロッコが大部分を実効支配している一方で、国連が現在も「非自治地域」に分類している係争地であり、先住民族サハラウィ人を代表するポリサリオ戦線は独立を求めている。

西サハラ国際映画祭 FiSaharaは、モロッコ当局の許可を得てダフラをロケ地に利用したことが、同国による占領とサハラウィ人への抑圧を正常化する行為に当たると批判。クリストファー・ノーラン監督やユニバーサル・ピクチャーズなどに対し、現地で撮影した映像を作品から削除するか、サハラウィ人の正当な代表者から使用の同意を得るよう要求した。2026年9月時点で、製作側からこの問題に対する公式な回答は確認されていない。

前作『オッペンハイマー』では、クリストファー・ノーラン監督がアカデミー賞の授賞式で、Xでパレスチナの人々に対し「#皆殺しにしろ(#KillThemAll)」と投稿してジェノサイドを呼びかけた製作総指揮のジェームズ・ウッズの名前を挙げて感謝を述べたことが批判を呼んだ。戦争や罪と罰というテーマを扱う姿勢は評価できるが、相変わらず現実での姿勢が作品のテーマと呼応していない点が近年のクリストファー・ノーラン監督の欠点である。

『オデュッセイア』というタイトルは、長く困難な旅そのものを意味する言葉として現代まで残っている。本作における真の怪物は、キュクロプスや巨人の騎士ではなく、勝利のために他者を犠牲にする論理であり、世界の掟の崩壊を招く思い上がりであった。観客が英雄だと思っていた人物こそが、他の土地の人々が恐れていた破壊者であり、“海の民”だった。

そして、オデュッセウスの旅を完成させたのは、怪物を倒す強さでも、敵を欺く知恵でもなかった。自らの罪や怪物性を認め、英雄として記憶されることより死者を記憶する道を選ぶこと。その決断によって、オデュッセウスの“帰還”は、責任を引き受ける行為とともに描かれた。映画『オデュッセイア』のオデュッセウスは決して英雄ではなかったが、私たちが学ぶべき点は多い。

映画『オデュッセイア』は9月11日(金)全国ロードショー。

『オデュッセイア』公式サイト

映画『オッペンハイマー』ラストの解説&感想はこちらから。

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齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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