2020年放送のドラマ『教場』後編
2020年の正月にフジテレビで放送されたスペシャルドラマ『教場』は、長岡弘樹の同名小説を原作に、木村拓哉が主演を務め、「踊る大捜査線」シリーズの君塚良一が脚本を手掛けた作品。2021年には続編『教場Ⅱ』、2023年に連続ドラマ『風間公親-教場0-』が放送され、2026年に映画『教場 Reunion』が1月にNetflixで配信、映画『教場 Requiem』が2月20日より劇場公開と、今や人気の長期シリーズとなっている。
『教場』では警察学校を舞台に、教官を務める風間公親と警察を目指す生徒たちの姿が描かれる。警察学校を「警察に相応しくないもの」をふるいにかける場所と考える風間はそれぞれの問題を抱える生徒たちと時に厳しく、時に人情味を持って接していく。
今回は、2020年に放送された『教場』後編をネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は『教場』後編の結末までのネタバレを含むので、本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『教場』後編の内容に関するネタバレを含みます。
『教場』後編ネタバレ解説
南原と宮坂の秘密
『教場』前編では、工藤阿須加演じる宮坂、大島優子演じる楠本、三浦翔平演じる日下部が問題を起こしたり巻き込まれたりしつつも、警察官としての自覚を持つようになった。一方で、前編のラストでは味方良介演じる都築、川口春奈演じる菱沼羽津希、井之脇海演じる南原が不審な動きを見せた。
特に南原については宮坂が手紙を届けに南原の部屋を訪れた際に、部屋に隠されていた拳銃を発見。直後に宮坂は南原に襲われて『教場』後編へと続く流れとなっていた。『教場』後編では、南原、菱沼羽津希、都築を巡るストーリーが描かれる。
『教場』後編の冒頭では、宮坂が南原に銃を突きつけられたその後に何があったかはボカされている。しかし、宮坂が風間教官に何かを隠していることは明らかで、宮坂に何があったのか、というサスペンス要素が序盤から視聴者を惹きつける。
宮坂は南原から銃を突きつけられた後に警察手帳を奪われていた。前半の冒頭で校長から紹介された警察手帳を無くしたらいかなる理由があっても退校というルールを悪用され、宮坂は南原から「銃のことをチクったら警察手帳を職員室前に捨てて道連れにする」という脅しを受けていたのだ。
そのため、宮坂は警察手帳の提示を含む訓練を休み、模擬聴取では南原に対して「盗んだものはどこだ!」と鬼気迫る問いかけを行なっていた。だが、風間は警察手帳が入っているはずの宮坂の胸ポケットが薄くなっている時点で異変に気づいていた。それに、サバイバルゲームに誘われたという楠本からの情報も風間の判断に役立ったはずだ。
射撃訓練場で南原に詰め寄った風間は、捜索により見つかった拳銃が「おもちゃ」だとする南原に銃を突きつける。行き過ぎた指導のようにも思えるが、銃がおもちゃだとする南原の主張に則っているため「おもちゃの銃を向けただけ」と言える正当性はある。
南原がついに宮坂の手帳の隠し場所を明かすと、風間は訓練場の的に向かって発砲。ノールックの片手撃ちでど真ん中を撃ち抜くのだった。風間は右目が義眼で利き腕は左利きだ。
銃刀法違反の南原は退校処分に。前編の平田に続き、宮坂は関わった生徒二人が犯罪に手を染めて退校となる展開に。一方で警察手帳を奪われていた宮坂は、校長の「いかなる理由でも」という言葉とは裏腹に、理不尽な処分を受けることはなかったようである。
菱沼と枝元の優しさと厳しさ
『教場』後編で描かれる二つ目のエピソードは川口春奈演じる菱沼羽津希と、富田望生演じる枝元祐奈のストーリーだ。枝元祐奈は旅館を営む実家の家業を継いだ兄が倒れたことで落ち込んでいたが、手話ができることから、菱沼羽津希が受けるテレビ局のインタビューに共に出演することになる。ちなみに『教場』後編では、菱沼が風間に「私今日きれいですか?」と聞くシーンも含め、風間が花壇の花に水やりをしている姿が強調される。
菱沼は風間に好意を持っているようだが、色仕掛けのような行動もとっており、本心が掴めないところがある。フジテレビ公式のインタビューによると、菱沼を演じた川口春奈は風間役の木村拓哉から、セリフの言い回しや動きについて、「こっちの言い方の方が羽津希っぽいよね」と指導を受けたことを明かしている。
菱沼羽津希は視聴覚教室で枝元祐奈に「好き」という手話を教わると、テレビの取材の時に「尊敬しています」の代わりに「好き」の手話を使わせる。これを見抜いた風間は、「仲間を尊敬できていない」として菱沼に退校届を渡すのだった。
仲間はもちろんのこと、聴覚に障がいを持つ、ろう者の人のことも尊重できていない。あのインタビューを見ていたろう者は実際とは異なるメッセージを受けとったはずだ。ショックを受けた菱沼が風間を「ママが知ったら警察に居られなくなる」と脅すのは、菱沼の母は神奈川県警の幹部だからだ。また、人前で母を「ママ」と読んでいるところにも菱沼の幼さが現れている。
教場では広報誌の表紙の投票が行われ、手話通訳で輝きを見せていた枝元が選出されるも、風間は枝元は今週でここを辞めると生徒たちに伝える。兄の治療に時間がかかるため実家に帰って旅館を引き継ぐことになったのだ。
再投票が行われて菱沼羽津希が表紙に選ばれるが、菱沼は警察官になるべきは枝元祐奈の方だと認め、退校届を提出する。しかし、風間は再投票でなおも枝元に投票していた人物の筆跡が菱沼のものであることを指摘すると、「仲間を尊敬できていない」という問題点は解消できたとして退校届を返したのだった。
警察官になるために、まずは敬われる人間になること。自分にその資格がないことを菱沼自身が誰よりも理解していた。菱沼の強気な態度や言動は、自信のなさの裏返しだったのかもしれない。風間はそれも見抜いた上で、自覚があるならば菱沼も警察官になれる素質があると考えたのだろう。
枝元祐奈は警察学校を去る前に、警察官になる夢が叶わないと分かってから、菱沼羽津希に真剣になってほしくて厳しくしたと明かす。「警察官になりたかった」という言葉が重い。枝元の親は旅館経営、菱沼の親は警察幹部。生まれの違いで夢が叶わないこともある。そうして菱沼は、枝元の分も背負って警察を目指すことになる。
最後に菱沼羽津希は、枝元祐奈がインタビュー時に風間の方を見て「好き」という手話をしていたことに気が付く。菱沼は「好きな人の前では魅力的になる」と枝元に助言していたが、枝元がインタビューで輝いていたのは、想いを寄せる風間を見ていたからだった。
そんな枝元に、風間は去り際に声をかけることはしない。風間はあくまで警察学校の教官であり、二人は教官と生徒以外の関係にはなり得ない。それこそ、枝元が菱沼に敢えて厳しくしたように、相手に期待を持たせることなく締めくくるのが風間らしい。
最終試験で明かされる都築の想い
そうして生き延びた宮坂、楠本、日下部、菱沼は、卒業を1週間後に控え、風間を調べ続けていた都築と共に卒業検定を兼ねた2日間の特別授業を受けることになる。成績トップの都築以外の4人は全員退校届を渡されたメンバーだ。
山奥に連れて行かれた5人は、殺人事件の模擬推理を行うことに。被害者の遺留品から見事に犯人像を言い当てた5人だったが、風間は失格を言い渡し、全員に退校届を持ってくるように告げたのだった。
教場では退校届を持った5人が集まる中、風間は都築をロックオン。都築の父が警察を殴って逮捕されたと挑発し、都築に真実を話す機会を提供する。その前には、風間が都築の父が営んでいた工場の跡地を訪れるシーンも挿入されている。現場を退いた風間だが、自分で足を運んで真実を探るという作業は続けているようだ。
また、風間が都築の身の上に気がついたのは、卒業文集を集めていた楠本に、気になった文章はあったかと聞き、楠本が都築の名前を挙げたからだった。信頼できる部下から情報を得る、ということだが、前編の内容も含めて風間はやはり楠本の観察力を高く評価していることが窺える。
都築は、父の債権者同士が揉み合いになり、父はそれを止めようとしたが警察は父の話を聞かずに父を連行し、都築家は財産を持っていかれて全てを失ったと明かす。「誰か助けてくれ」という連れていかれる父の言葉を聞き、都築は「苦しむ人のそばに立つような警察官」になろうと決めたのだった。
都築はこれまで警察を恨んでいると言い、「警官に憧れてるやつしか警官になれないのか?」と強気な言葉を吐いていたが、その裏には家族を助けてくれなかった警察の記憶と、ならば自分が人を助ける警察になろうという想いが同居していた。警察に対する「かっこいい、強い」という単純な憧れではなく、「苦しむ人の側に立つ」という信念を抱いている都築は、まさに警察になるべき人材だ。
風間は「君のような警察官を待っている人がたくさんいる」と都築に声をかけると、菱沼と楠本は、卒業検定を失格になった理由について、報告の最後に被害者を弔うべきだったと語る。風間は苦しんでいる人の声に耳を傾けることが警察官の仕事だと言い、5人の卒業を認めるのだった。
被害者に寄り添うというテーマは、『教場』と同じく君塚良一が脚本を手がけた「踊る大捜査線」シリーズでも描かれた。風間は厳しい教官であり刑事であったが、その裏には苦しんでいる人々の想いや被害にあった被害者の無念に応えなければならないという思いがあったのだろう。
このクライマックスは、ドラマ『教場』でも屈指の名シーンだ。苦しんできた人々、警察に助けてもらえなかった多くの人々にとっても救われるようなシーンだったと言える。
『教場』後編ラストをネタバレ解説
ラストの意味は?
『教場』後編の終盤のシーンでは、風間が宮坂に花壇の花について話す場面もある。中盤では、校長の四方田が花壇で「私を恨んでいますね。生徒に厳しいのは、やはりこの子のことが?」と風間に聞き、風間が涙を拭うシーンも。終盤のシーンでも宮坂に「学校長がここから送り出して私と組んで捜査していた。まだ若かった」と語り涙を拭っている。
この花壇で花を育てていたのは『風間公親-教場0-』に登場する第192期訓練生の遠野章宏だ。同作では四方田が“風間道場”と呼ばれる育成部門に遠野を送り、風間の指導の下で遠野が事件に巻き込まれた経緯が描かれている。都築が風間の過去を調べる中で読んでいた新聞記事の「千枚通し」を凶器に使った事件は、この遠野の事件のことである。
卒業式のシーンでは、風間がそれぞれの生徒に一言ずつ声をかけていく姿が印象的だ。都築には、父についての発言を謝罪・撤回するなど、非の打ちどころのない対応を見せている。さらに、唯一遠野の件について話した生徒である宮坂には、「死ぬなよ」と声をかけるのだった。
それぞれの生徒は卒業後に交番勤務をスタートさせる。宮坂は幼い頃に雪山で救出してくれた平田国明が所属する交番へ。息子の和道は不祥事を起こしたが、国明は宮坂のことを笑顔で受け入れてくれている。
都築は横断歩道をわたるおばあさんに声をかけ、「困っている人」を助けてあげている。「信号変わるけど大丈夫ですよ」と、ルールよりも実情を優先して困った人に寄り添う姿が印象的だ。
旅館を引き継いだ枝元のもとには明石家さんま演じる町の駐在警官が登場。木村拓哉の主演作品には友情出演することもある明石家さんまだが、『教場』では主演を務めていたコメディ番組『さんまの駐在さん(花の駐在さん)』を思わせる“駐在さん”役を演じている。
枝元は手話を駆使して旅館の女将として活躍している。その後に「ほめられ日記」が映されるのは、警察学校で菱沼から「モチベーションを上げる方法」として、褒められたことを記す「ほめられ日記」を作ることを勧められていたからだ。警察になることは叶わなかったが、枝元が警察学校で学んだこと、友人と過ごした時間はなかったことにはなっていなかったのだ。
葵わかな演じるカフェで働く岸川沙織は、前編で楠本の足を立体駐車場で故意に挟んで退学となった生徒で、岸川と再会したのは村井良大演じるムードメイカーの石山広平だ。
『教場』後編のラストでは、風間教場に新たな生徒がやって来て幕を閉じる。警察に相応しいものを育てて送り出す風間公親の仕事は終わらないということだろう。
『教場』後編ネタバレ感想
『教場』の魅力
『教場』後編では、前編で“ふるい”から生き延びた生徒と、さらにふるいにかけられていく生徒たちの姿が描かれた。「警察に相応しくないものをふるいにかける場所」という『教場』ではお馴染みの言葉に対し、一方で風間は、生徒が成長できるかどうかも含めて見極めていると考えられる。
だから菱沼が自ら退学を申し出ても、風間は退校届を受け取らなかった。さらに退校届を渡された4人と都築を最終試験で共に行動させた。この策は、成績優秀の都築が他の生徒に良い影響を与えると考えたというよりも、一度つまづいて再び立ち上がった4人が都築に与える影響について考慮していたのではないだろうか。実際に都築は、自分は人に影響されないと豪語していたが、都築に必要だったのは自分の殻をやぶり、自分に正直になることだったのだろう。
『教場』の面白いところは、後編のラストシーンに代表されるように、風間教場を出た生徒たちが実際の社会へと飛び立っていくところだ。一方でそれは、事件に巻き込まれる可能性がある過酷な現場へ出向くということでもあり、風間から宮坂への「死ぬなよ」という言葉が決して軽いものではないことも事実だ。
学園もの、教育ものでもありながら、警察ものでもあるという『教場』。さらには脱落者が多発するデスゲームもののようなスリルもありつつ、このデスゲームをクリアしても安心できるわけではなく、警察になってから本番を迎える。絶妙な設定とストーリーラインが『教場』の魅力だ。
ここから『教場』がどう展開していくのか、未見の方は『教場Ⅱ』の前後編へ、シリーズを追っている方はNetflix配信の『教場 Runion』と2月20日(金) 劇場公開の『教場 Requiem』を楽しもう。
映画『教場 Reunion』はNetflixで独占配信中。映画『教場 Requiem』は2026年2月20日(金) 劇場公開。
ドラマ『教場』の原作である小説『教場』と『教場2』は発売中。
映画版の原作『新・教場』と『新・教場2』は発売中。
映画『教場 Reunion』のノベライズ版は1月7日より発売中。
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