2012年公開の映画『テルマエ・ロマエ』
2012年4月公開の映画『テルマエ・ロマエ』は、ヤマザキマリによる大ヒット漫画を実写化した作品で、劇場公開時には興行収入59.8億円を記録した。本作の製作委員会にはフジテレビジョンが参加しており、同年7月公開で興収73.3億円の『BRAVE HEARTS 海猿』、9月公開で興収59.7億円の『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』と共に、“フジテレビ映画”が2012年の国内興収トップ3を独占したことは記憶に新しい。
映画『テルマエ・ロマエ』は、後に「翔んで埼玉」シリーズや『はたらく細胞』(2024) を手がける武内英樹が監督、「クローズZERO」シリーズの武藤将吾が脚本を担当。主演を阿部寛が務め、上戸彩、市村正親、北村一輝、宍戸開、勝矢らが出演している。今回は実写映画版『テルマエ・ロマエ』について、ラストを中心に解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末までのネタバレを含むので、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『テルマエ・ロマエ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『テルマエ・ロマエ』ネタバレ解説
タイムスリップした浴場設計技師
映画『テルマエ・ロマエ』では、阿部寛演じる古代ローマの浴場設計技師ルシウスが、ある日、古代ローマの浴場から現代日本の銭湯にタイムスリップ。新しい浴場のアイデアに困っていたルシウスは、日本の浴場からアイデアを採用することで浴場設計技師として名をあげていく。
ラテン語で「テルマエ」とは「浴場」のことで、「ロマエ」は「ローマの」という意味の形容詞だ。映画『テルマエ・ロマエ』の始まりはハドリアヌス帝が統治する紀元128年で、ローマ帝国が侵攻によって領土を拡大していく中、皇帝はテルマエを建設することで民衆の支持を集めている。
ルシウスは、日本の銭湯から衣服を入れるカゴ、イベントの告知ポスター、フルーツ牛乳、浴場の壁画、桶といった要素をローマのテルマエに持ち帰り、テルマエは繁盛する。テルマエは利便性が向上すると共に、ただ風呂に浸かるだけではなく、情報を得て飲み物や眺めを楽しむ大衆の居場所として生まれ変わったのだ。
さらに家で風呂に入りたいという師匠の声を聞き、ルシウスは日本の家庭の浴室にタイムスリップ。家庭用の風呂のシャンプーハットとシャワーという技術をローマに持ち帰る。ちなみにルシウスは奴隷である「平たい顔族」の浴場に行き着いたと思っており、タイムスリップしたことには気づいていない。
そして、ルシウスが現代で出会うのが上戸彩演じる山越真実だ。真実は映画オリジナルのキャラクターで漫画家という設定。明らかに原作者のヤマザキマリを模した名前になっているが、本作と原作者の関わりについては記事の最後に記している。
史実のローマ帝国は
建築士として名をあげたルシウスは、ハドリアヌス帝から明日のローマについて考えるために、斬新な発想の浴室を作ることを要求される。領土の拡大を続けてきた皇帝は、けれど軍事力で押さえつけるには限界があり、文化で圧倒できれば戦はなくなると考えていた。こうしてテルマエの発展とローマの平和が結びつく。ちなみにハドリアヌスがローマの拡大路線を放棄したのは史実である。
またも現代へと飛んだルシウスは、ジャグジー風呂とウォシュレットのアイデアを持ち帰り、アンティーノという少年を失い傷心のハドリアヌスのためにナイル風の露天風呂のアイデアとバナナを持ち帰るなど、ハドリアヌスからの信頼も積み重ねていく。
アンティーノ(アンティノウス)は実在した人物で、ハドリアヌスの愛人であり、アンティーノの死後にハドリアヌスが憔悴していたというのも史実である。同性愛者であったハドリアヌスはケイオニウスを養子にし、後継者として育てるが、ケイオニウスは死んだアンティーノに代わってハドリアヌスの寵愛を受けたとも言われている。
映画『テルマエ・ロマエ』では、ルシウスはケイオニウスが次期皇帝に相応しくないと考え、ケイオニウスのために浴場を造ることを拒否。またも現代に飛ぶが、そこで温泉の蒸気を床下に通したり、地熱を暖房に利用する「オンドル」と出会う。
そしてルシウスは古代に戻るが、今度は真実も一緒に古代ローマに来てしまう。ここからは映画の完全オリジナルの展開で、真実の実家の温泉宿に集まっていた老人たちも古代ローマにタイムスリップし、物語は大きく動いていく。
映画『テルマエ・ロマエ』ラストをネタバレ解説
歴史改変の危機
映画『テルマエ・ロマエ』の後半では、真実が古代ローマに来てしまったことで歴史改変の危機が訪れる。好色のケイオニウスが真実に迫るが、アントニヌスがそれを阻止。アントニヌスはパンノニア属州に派遣されることが決定する。史実ではケイオニウスがパンノニア属州に派遣され、アントニヌスがハドリアヌスの後に皇帝になっている。
古代ローマについて勉強していた真実は、ケイオニウスが次期皇帝の位置にあることを知り、自分が過去に来たせいで歴史が変わってしまうということに気づくことになる。それは同時に、アントニヌスによるハドリアヌスの神格化が行われないということ、つまり功績の記録が抹消され、ハドリアヌスの名誉も失われるということをも意味していた。
一方、ルシウスは自分の意思に反してテルマエを造ることはできないとケイオニウスのテルマエ造りを拒否することをハドリアヌス帝に報告。その直後、真実から歴史が変わりつつあることを聞かされる。ルシウスがケイオニウスにハドリアヌスを神格化してくれるかと確認しに行くと、ケイオニウスは、ハドリアヌスは元老院と対立しているから難しいだろうと、真実の懸念通りの回答を返すのだった。
絶望したルシウスは、真実に自分の功績は日本の風呂文化を転用しただけだったと明かし、自暴自棄になる。だが真実は、ルシウスがタイムスリップした時は無我夢中で考えていた時ではなかったかと問いかける。
確かに振り返れば、最初は新しいテルマエのアイデアに悩んでいた時、次は師匠が家に風呂が欲しいと言った時、その後はハドリアヌス帝からテルマエ造りを頼まれた時と、ルシウスはテルマエについて熟考した時にタイムスリップしていた。そうして、人を騙しているような気がしていたルシウスは、もがいた末に見た世界だったとしたら、それは自分自身で導き出した答えだという真実の訴えを受け入れるのだった。
最後のテルマエ
ルシウスは諦めずにアントニヌスのパンノニア行きを阻止することを決意。アントニヌスの提案ということにして、治癒効果のある鉱泉が眠る戦場にテルマエを造り、傷ついた兵を癒すことをハドリアヌスに提案して承諾を得る。
この時、ハドリアヌスは、これがアントニヌスではなくルシウスのアイデアではないかと見抜いていたが、そう問われたルシウスはあくまでもアントニウスの考えだと答えている。これまで現代の風呂文化を流用してきたルシウスが、最後に自分のアイデアを他者の手柄にするという展開は巧みだ。
自分のアイデアでないものが自分の手柄になってしまうということに対し、ルシウスはちゃんと葛藤していたが、それだけでなく最後には他者に奉仕するという行動も伴っている。良くも悪くも「個人を犠牲にする」という現代日本から得た価値観が影響しているのかもしれない。
ルシウスは真実と老人たちと共に戦場にオンドル小屋を建設。兵士たちはオンドルと風呂で回復し、敵に守られた毒を鉱泉で解毒したことで、戦況は一転する。反乱軍を退けることに成功し、ルシウスは「自分を取り戻せた、出会えて良かった」と真実に伝えるが、真実が涙を流すと、真実は現代へと戻ってしまったのだった。
タイムスリップするきっかけは風呂について熟考することだったが、元の時代に戻るきっかけは涙を流すことだったのだ。真実が消える直前、ルシウスは「きっと会える、ローマの道は全てに通じているのだから」と再会を約束。「すべての道はローマに通ず」とは、どんな道を通ったとしてもいずれ一つの真理に辿り着くという格言だ。
現代に戻った真実は夜空を見上げているが、空には古代ローマでルシウスと一緒に見た北極星が輝いている。北極星は「指針になるもの」として紹介されており、時代を超えても二人が共有している指針があるということを示している。
ラストの意味は?
戦場にテルマエを作り成果をあげたアントニヌスはパンノニア行きを回避してローマに残ることになり、次期皇帝の既定路線へと舞い戻る。ハドリアヌスはルシウスの功績であることを見抜いていたが、ルシウスは自分の力ではないことを認め、テルマエ造りに携わった皆の代わりとして名誉を受け取るのだった。この時ルシウスは、ようやくローマで涙を流すことになった。ローマで得られなかった感動をついに得たのである。
ラストでは、第14代ローマ皇帝アエリウスがのちにアントニヌスにより神格化されたこと、アントニヌスが138年に第15代ローマ皇帝に即位し、国内安定路線を先代から継承して平穏な治世を実現したこと、ケイオニウスが137年に赴任先のパンノニア属州で疫病にかかって死没したことが紹介される。これらは史実だが、ルシウスは架空の人物だ。
ルシウスとの出会いで励まされた真実は、現代で出版社に原稿を持ち込んでいる。提出していた原稿は『テルマエ・ロマエ』だった。ルシウスが日本で見た文化をローマに取り入れたように、真実もルシウスとの経験をアイデアに漫画にして『テルマエ・ロマエ』が誕生するというオチになっている。
映画『テルマエ・ロマエ』ネタバレ感想&考察
秀逸なSFコメディ
映画『テルマエ・ロマエ』はテンポが良く、パターンを作って畳み掛ける前半からその流れを回収する後半への展開も巧みで、そこに豪華キャストの好演が加わった良作だったように思う。本作のヒットを受けて、公開から2年後の2014年には続編の『テルマエ・ロマエII』が公開されている。
ちなみに『テルマエ・ロマエ』のラストシーンではルシウスが川から現れるが、これが直接『テルマエ・ロマエII』に繋がるわけではない。一方で時系列は『テルマエ・ロマエ』の直後から始まるため、キャストもほとんど同じメンバーで制作されている。
タイムスリップと歴史改変をうまく利用しており、武内英樹監督のコメディセンスも光る本作だが、原作漫画からは大きく改変されていることにも注意されたい。
『テルマエ・ロマエ』映画化をめぐる問題
映画『テルマエ・ロマエ』は優れたキャスティングもあってファンも多い作品だ。一方で、60億円近い興行収入を記録したにもかかわらず、原作者のヤマザキマリには原作利用料の100万円しか入らなかったという話は広く知られている。
ヤマザキマリは映像化の許諾は出したものの、契約は出版社主導で行われ、連載中の多忙な時期に映像化が進められたという。特に続編『テルマエ・ロマエII』については、世界観があまりにかけ離れていたため、試写を途中で出てしまったとAERAで当人が明かしている。映画『テルマエ・ロマエ』について語る時には、こうした背景も踏まえておく必要がある。
なお、2022年にはアニメ『テルマエ・ロマエ ノヴァエ』がNetflixオリジナルシリーズとして配信を開始した。こちらにはヤマザキマリはシリーズ構成・エグゼクティブプロデューサーとして関わっており、江戸時代にタイムスリップするというオリジナルストーリーも描かれている。
また、当時はエンターブレインの「コミックビーム」で連載されていたが、2024年から集英社の「少年ジャンプ+」で続編となる『続テルマエ・ロマエ』の連載がスタートし、2025年11月現在も連載が続いている。『続テルマエ・ロマエ』では、漫画版最終回の20年後を舞台に、再びルシウスが現代日本へタイムスリップすることになる。こちらもぜひチェックしよう。
『続テルマエ・ロマエ』は2巻まで発売中。
ヤマザキマリの原作漫画『テルマエ・ロマエ』は全6巻が発売中。
映画『テルマエ・ロマエ』はBlu-rayが発売中。
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