2021年公開の映画『マスカレード・ナイト』
2021年に劇場で公開された映画『マスカレード・ナイト』は、東野圭吾原作の同名小説を映画化した作品だ。2019年公開の映画『マスカレード・ホテル』の続編にあたり、監督・鈴木雅之、脚本・岡田道尚、音楽・佐藤直紀ら製作陣が前作から続投し、主演の木村拓哉と長澤まさみのコンビも続投している。
『マスカレード・ナイト』では、前作に続き刑事の新田浩介とホテルで働く山岸尚美がホテル・コルテシア東京を舞台に難事件の解決に挑む。今回は、映画『マスカレード・ナイト』についてネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末の重大なネタバレを含むので、本編を視聴してから読んでいただきたい。
また、本作は自殺および性被害と二次被害についての描写が登場し、記事内でもその描写に触れているのでご注意を。
以下の内容は、自殺および性被害と二次被害に関する描写を含みます。
以下の内容は、映画『マスカレード・ナイト』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『マスカレード・ナイト』ネタバレ解説
今回の事件と豪華キャスト
映画『マスカレード・ナイト』では、ホテル・コルテシア東京で大晦日に開催される仮面舞踏会(マスカレード・ナイト)に殺人犯が現れるという密告状が届き、前作に続きホテル・コルテシア東京に捜査本部が設置される。刑事の新田はまたもホテルマンとして潜入捜査に挑むのだが、前作でバディを組んだ山岸は客の総合的な世話係であるコンシェルジュになっている。
今回の事件のポイントは二点あり、①匿名通報ダイヤルからの情報で和泉春菜という妊娠した女性が感電死しているのが発見され、②ホテル・コルテシア東京の仮面舞踏会に殺人犯が現れるという密告状が届いた、という状況だ。いずれも事件に近い人物からの情報と見られ、犯人以外にも誰が通報と密告をしたのかという点も推理要素になる。
相変わらずホテルの客として豪華キャストが惜しげもなく登場する『マスカレード・ナイト』。冒頭では田中みな実が「視線」を嫌がる客役として登場する。その客が嫌がる看板の広告で登場する明石家さんまは、「友情出演」とクレジットされている。親交が深い主演の木村拓哉との友情を指しているのだろう。
今回の事件の重要人物になるのは、沢村一樹演じる迷惑客の日下部篤哉、勝村政信演じる不倫客の曽野昌明、その妻の木村佳乃演じる曽野万智子、その息子の高村佳偉人演じる曽野英太、その不倫相手の高岡早紀演じる貝塚由里、亡くなった夫の誕生日を祝う麻生久美子演じる仲根緑、明らかに不審な博多華丸演じる浦辺幹夫である。ちなみに冒頭の時点で死んだ姿で発見されている和泉春菜は、日本におけるロリータファッションの第一人者と言われている青木美沙子だ。
また、山岸と石黒賢演じるホテルマンの氏原が、ホテル・コルテシア・ロサンゼルス行きを巡るテストにかけられている状況もポイントになる。新田と山岸は前作で良いバディになったのに、フロントを担当するのは氏原で、しかも新田は早々にフロント業務から外れるように言われてしまうのだ。
通報者と密告者の正体
殺人犯が現れると予告されているマスカレード・ナイトは、年越しのカウントダウンが行われる仮面舞踏会だ。イベントが始まる前から仮想している客もおり、捜査は困難を極める。さらに、ホテルマンの「お客様に幸せな時間を提供するなら全員を信じるしかない」、警察の「悪人を見つけ出すには全員を疑うしかない」という縛りがまたも新田と山岸の間に溝を作ることになるが、それでも二人は命を守るためにここにいるということを確認し合うのだった。
そして、いよいよマスカレード・ナイトが開催されるタイミングとなり、警察は容疑者を曽野昌明と浦辺幹夫の二人に絞る。曽野昌明は和泉春菜の遺体が発見された家の近くに住んでおり、浦辺は和泉春菜が働くペットトリミング店の防犯カメラに映り込んでいた。そして警察は、密告者は曽野であり、曽野は和泉春菜殺害の犯人である浦辺から金を脅し取ろうとしているのではないかと推理したのだ。
ところが、能勢の捜査によって状況は大きく変化する。能勢は前作では品川警察署の刑事だったが、『マスカレード・ナイト』では警視庁の捜査一課に所属している。第1作目では自腹でホテルに宿泊するなどミステリアスな姿も見せたが、本作では安定の活躍を見せてくれている。
能勢の捜査によると、曽野昌明は超望遠カメラを購入した際にラッピングを希望していた。つまり、誰かへのプレゼントとしてカメラを購入していたのだ。能勢はゲーム機を買い与えられている曽野の息子・英太の姿を見て、英太を聴取。やはり曽野昌明は超望遠カメラを息子の英太にプレゼントし、そのカメラを使って和泉春菜の殺害現場を目撃したのは英太であったことが判明する。
匿名通報ダイヤルを利用して和泉春菜の死を警察に通報したのは曽野英太だったのである。そして、密告者は息子から相談を受けた英太の母の曽野万智子で、曽野万智子は犯人を知ったことから、友人の貝塚由里に相談。貝塚は犯人を強請って金銭を脅し取ることを画策。ホテル・コルテシア東京を金の受け渡し場所に指定していた。
しかし、犯人は曽野万智子に辿り着くと、貝塚由里に計画を続けさせれば万智子は見逃すと提案。貝塚が夫の不倫相手であることを知っていた万智子はこの提案を承諾していた。マスカレード・ナイトで和泉春菜の殺害犯が狙っていたのは、万智子の目撃証言を元に犯人を強請っていた貝塚由里だったのだ。
ちなみに博多華丸演じる浦辺は犯人が用意した囮だった。和泉春菜と不倫関係にあったことをネタに犯人に脅されており、浦辺が曽野昌明に金銭の引き渡しを行うと警察に思い込ませる撹乱要員としてホテルに現れただけだった。
『マスカレード・ナイト』ラストをネタバレ解説&考察
真犯人は誰…?
カウントダウンが近づく中、山岸もお客様を守りたいと犯人確保に向けて動き出す。しかし、これが裏目に出て、山岸は貝塚と共に犯人に拘束されてしまう。新田はギリギリまで犯人を探すと、アルゼンチンタンゴを踊った相手の男性が仲根緑であることを見抜く。
麻生久美子演じる仲根緑は、12月31日が誕生日の夫と宿泊する予定で、料理も二人分が用意されていたが、夫はすでに亡くなっており、最初から亡き夫の誕生日を祝うために一人で宿泊するつもりだったというエピソードが中盤で描かれていた。しかし、新田と山岸が対応したこの一件は、仲根緑=犯人が自分を容疑者から外すための巧妙な作戦だった。
全員が容疑者になるホテルの中で、敢えて怪しい動きを見せて“偽の真実”を見せることで、疑いの目を逸らすという手法は非常に巧い。仲根緑の本名は森沢光留といい、和泉春菜殺害事件と3年半前に起きた同様の殺人事件の犯人は森沢光留だった。なお、森沢光留はトランス男性という設定になっているが、原作小説では女装していた男性という設定になっている。
犯人の動機
新年が迫り、新田は仲根緑にチャペルを見せたことを思い出し、山岸と貝塚が拘束されているチャペルに駆けつける。しかし、すでに0時を過ぎて新年を迎えており、二人はタイマーによって感電死させられたことを悟ったのだった。
森沢光留は捕えられ、かつて妹が性暴力被害に遭い、警察から二次被害を受けたこと、妹が目の前で自殺したことが明らかになる。森沢が感電死にタイマーを使用したのは、もう目の前で人が死ぬのを見たくなかったからだった。
連続殺人については、森沢が妹の代わりになる存在を求めたが思う通りにならず殺したというのが真相だった。感電死を選んだのは、妹に見立てた被害者の身体を傷つけたくないという理由だった。
森沢光留は警察を憎んでおり、警察を撹乱した今回の事件は警察への復讐であり、警察との勝負だと考えていた。そして森沢は、氏原が新田にフロント業務をさせていなかったせいで、早い段階で新田が刑事だと見抜いていた。仲根緑としての一連のやり取りは、全て新田を刑事と知った上での芝居だったのである。
ラストの意味は?
ところが、新田は山岸と貝塚が生きていることを明かす。チャペルには時計がなく、森沢光留は山岸の5分遅れた腕時計を見て0時に合わせてタイマーをセットしていた。ゆえに新田が0時を過ぎてチャペルに到着した時、被害者を感電させるための装置はまだ起動していなかったのだ。
ホテル・コルテシア東京のホテルマンは、お客様を第一に考えることから時計を見ない、腕時間がずれていても直さないという伏線がここで回収される。森沢光留の言う通りただの偶然でしかないが、少なくともホテルにいる人々の命は守られたのだった。
そして新田は、12月31日は森沢とその妹の誕生日であり、妹の命日であることを指摘する。ホテルが用意したバースデーのサプライズを見て森沢が流した涙は本物だったのである。そう指摘され涙を流す森沢にハンカチを置いてあげる新田の姿が良い。
『マスカレード・ナイト』のラストでは、迷惑客の日下部がホテル・コルテシア・ロサンゼルスの人間であったことが明らかになる。コルテシア・ロサンゼルスに派遣する人間を選ぶために従業員をテストしていたのだ。
日下部はその場で山岸を指名し、山岸のロサンゼルス行きが決定。新田は、帰国した時に、と山岸を食事に誘うが、山岸は決して客には言わないと言っていた「無理です」という言葉を返す。やはり二人はバディの関係だ。
最後は新田が、米国へ向かう山岸の背中に「お気をつけて、いってらっしゃいませ」という言葉を投げかけて『マスカレード・ナイト』は幕を閉じる。
『マスカレード・ナイト』ネタバレ感想&考察
良かった点、気になった点
映画『マスカレード・ナイト』は、ホテルを舞台にしたシリーズの特性上、登場人物が多く、ミスリードも含めてストーリーが複雑になるところを、視覚的な効果も含めてできる限り視聴者の理解が追いつけるような工夫がなされていた作品だった。前作に続き音楽や、ホテルの従業員の視点が理解できる長回しなど、シリーズ特有の魅力も光っていた。
原作からの改変点として、犯人を女装した男性からトランス男性に変更したという点があるが、身体的特徴を活かして犯罪を行うという展開はウッとなるところがある。どんな属性でも聖人でも悪人でもあってよいのだが、現実の偏見を強化しないためのストーリー上の工夫は欲しかった。
森沢光留のキャラクターも、ややステレオタイプなトランス男性の喋り方だったことが気になった。また、今回警察は敗北したわけだが、犯人を犯行に走らせた警察の罪の部分についても総括が必要だったように思う。
木村拓哉演じる新田と長澤まさみ演じる山岸のバディは鉄板で、今回も「疑うこと」と「信じること」を天秤にかけながら真実に迫る展開はスリリングで楽しかった。そしてやっぱり小日向文世演じる能勢さんの二人との距離感が良い。
続編はある?
映画『マスカレード・ナイト』に続編はあるのだろうか。東野圭吾の「マスカレード」シリーズは、2011年に刊行された『マスカレード・ホテル』が2019年に映画化、2014年に刊行された前日譚の『マスカレード・イブ』は映像化されていないが、2017年刊行の『マスカレード・ナイト』が2021年に映画化された。『マスカレード・イブ』は若き日の山岸と新田のそれぞれの成長と活躍を描く中短編集なので、映画にはしにくいだろう。
2022年にシリーズ4作目の長編『マスカレード・ゲーム』が刊行されており、2025年7月には第5作目『マスカレード・ライフ』が刊行された。両作が映像化される可能性はあるが、2025年12月時点で発表はない。
主演の木村拓哉は、「マスカレード」シリーズの公開以降、2023年の『レジェンド&バタフライ』、2024年の『グランメゾン・パリ』、2025年の『TOKYOタクシー』、2026年の『教場 Reyunion』および『教場 Requeim』と、主演映画の公開が続いている。
同じく主演の長澤まさみも2024年に『スオミの話をしよう』、2025年に『ドールハウス』および『おーい、応為』と主演映画の公開が続いている。多忙な二人ではあるが、山岸と新田が三度タッグを組む『マスカレード・ゲーム』の映画化にも期待したい。
映画『マスカレード・ナイト』はBlu-rayが発売中。
東野圭吾の原作小説は集英社文庫から発売中。
『マスカレード・ナイト』のその後を描く続編『マスカレード・ゲーム』と、最新作『マスカレード・ライフ』も発売中。
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