『ダンジョン飯』を海外ファンの視点と評価から考察 ライオスと“autism”の関係とは? | VG+ (バゴプラ)

『ダンジョン飯』を海外ファンの視点と評価から考察 ライオスと“autism”の関係とは?

©九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

『ダンジョン飯』を海外ファンの評価から考察

『ダンジョン飯』のライオスとシュローの関係に再注目

海外でも高い人気を誇る九井諒子作の漫画『ダンジョン飯』(2014-2023)。そのアニメ化に伴い、海外ファンの間で再注目されているのが主人公のライオス・トーデンだ。何故、海外ファンの間で再注目されているのかというと、シュローとのやり取りの中で明らかになったライオス視点でのシュローとの関係性の認識の違いが原因となっている。

ライオスはシュローを仲の良い友人だと考えており、その関係性を親友として周囲の人物に話してきた。しかし、本人であるシュローの登場によってライオスの認識の違いが明らかになる。ライオスはシュローから彼の故郷である東方の群島のワ島の話を聞かせてもらっていたと認識していたが、シュローは一方的に質問を続けるライオスに辟易していたのだ。シュローがパーティーに加入した経緯も一方的にライオスに話され続け、疲れ切ったところを半ば強引に加入させられたというものになっている。

また、ライオスは妹であるファリンと家族ぐるみでシュローと仲が良いと考えていたが、実際の周囲からの反応は違っていた。周囲の人物はライオスが空気を読まず、ファリンをデートに誘おうとしているのにも関わらず間に割って入って話を遮っていると捉えていたのである。“この空気を読めない”という設定が海外で注目されているのだ。

“autism”という視点

海外のファンの間では、ライオスは“autism(自閉症の呼び方の1つ)”ではないのだろうかという考察が立っているのだ。また、魔術学校に馴染めず、授業なども上手く受講することが出来ずに森の中を歩き回っていた妹のファリンも、“autism”だったのではないかという考察を立てる人々もいる。

『ダンジョン飯』の冒険ではライオスの“autism”を想起させる特性が成功の鍵となり、様々な困難を乗り越えてきた。そのため、ライオス・トーデンというキャラクターを好意的に捉える人々が多くいる。そして、そのような“autism”の人々が抱える社会的な生きづらさを描きつつ、周囲との認識の違いも描き、それが冒険の成功の鍵を握るという展開を生み出した作者の九井諒子への海外からの評価は高い。

このような発達障害を思わせる個性を冒険の成功の鍵として描いた作品として、リック・リオーダン作「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」シリーズがあり、こちらも国内外で高い評価を獲得している。米Varietyの報道によるとドラマ版『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(2023-2024)は2024年5月13日時点でDisney+オリジナル作品の再生数の1/4を占めている。それ以外にも過去には映画化もされており、アメリカでは評価の高い大人気作品となっている。

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「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」との関係性

「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」シリーズはリック・リオーダンが息子に話した物語がモデルになっている。リック・リオーダンの息子のヘイリーはADHDと失読症であり、リック・リオーダンは同じようにADHDと失読症の主人公の作品を考えた。そこに当時、ヘイリーが学校で学んで興味を持っていたギリシャ神話の設定を組み合わせたことで『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』が誕生した。

主人公のパーシー・ジャクソンは海の神ポセイドンと人間の間の子供、いわゆる半神〈デミゴッド〉であった。半神〈デミゴッド〉の特徴が戦場で集中して様々なことに機敏に動く能力と古代ギリシャの文字を読めることだ。現代ではその特徴が多動性や、現代の文字が読めないという形であらわれる設定になっている。そのような設定にすることで、発達障害で社会に生きづらさを感じている子供たちに勇気を与える作品となったのだ。

『ダンジョン飯』のライオス・トーデンも、「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」シリーズのパーシー・ジャクソンのように、社会に生きづらさを感じている“autism”の人々に勇気を与えるキャラクターになっていたのではないかと海外ファンの間で考察されている。そこで別の意味で再注目されているのがシュローだ。

ケアラーのケアは誰がする?

シュローはライオスに空気を読むように求め、それが原因でパーティーから一度離脱したシュローがライオスに再会したエピソード「キメラ」では殴り合いの喧嘩に発展してしまった。この対立が、シュローがライオスの“autism”的な個性を理解していないと言われてしまっていることに繋がった。しかし、『ダンジョン飯』の世界観は“autism”を理解するほど、進歩した世界だとは思えない。

問題はシュローの持つ“察してほしい”という精神性だと考察できる。シュローは部下の忍者やお目付け役のマイヅルからも指摘されている通り、自分の口から要求を言わず、“察してほしい”と考えることが多い性格だ。そのため、ライオスからは言わないと伝わらないと指摘され、殴り合いの末に初めて自分の口から食事を頼んだときは、マイヅルはシュローが初めて自分の口から要望を伝えてくれたことを喜んでいる。

そのため、シュローの“察してほしい”という精神性とライオスの“autism”的な個性とは噛み合わせが悪かったのだと考察できる。その反面、ライオスとパーティーを組んでいた3年間はシュローとライオスの直接的な衝突はなかった。それにはケアラーの存在があったと考察できる。ファリンが、ライオスが上手く表現できないときに真意を汲んでパーティーメンバーにわかりやすく伝えていたことは「ソルベ」のエピソードで回想されている。

その他にも、ライオスが婚活目当てで加入したメンバーの言うとおりにした結果、パーティーが崩壊しかけたときにはメロドラマを期待していたとはいえ、マルシルが奔走したことで丸く収まっている。チルチャックもライオスの魔物の豆知識の話に付き合っており、シュローも辟易しながらもライオスの会話に付き合っている。ある意味では、パーティーメンバーがケアラーを担っていたと考察できる。そのため、これらの問題の根底にはケアラーのケアを誰がするのかというもう一つの問題があると考察できる。

シュロー以外にも“察してほしい”という空気を出すパーティーメンバーは存在している。それがチルチャックだ。チルチャックのその性格が如実に表現されたのが「良薬」のエピソードだと言える。そこではチルチャックは、死んでほしくないから地上に戻ろうという提案を察してもらえないだろうと考察し、嘘をつくことで地上への帰還を促そうとしていた。

だが、最後にはオーク族長の妹のリドから正直に伝えるように諭され、それによって和解している。大切なことは“察してほしい”ではなく、話さないと伝わらないということがテーマとなっているエピソードではあるが、その後もチルチャックはライオスやセンシのケアラーとして奔走している。

奴隷主の父親の存在

それでは何故、シュローの方が責められやすいのだろうか。それはシュローの部下との関係性にあると考察できる。ライオスのパーティーなど、一般的に冒険者のパーティーは雇用関係にある。しかし、シュローのパーティーには雇用関係でも、利害の一致でもないパーティーメンバーが存在している。それはシュローの父親に身売りによって買われたイヅツミとイヌタデだ。

イヅツミは見世物小屋から、イヌタデは賭け相撲の力士だったところをシュローの父親に買われており、そのことからシュローは奴隷主のような認識をされてしまっているのだと考察できる。しかし、実際の奴隷主はシュローの父親だ。シュローの父親は一族をまとめ上げるカリスマ性がありながらも正妻以外にマイヅルと愛人関係にあるなど、不道徳な人物として描かれている。

シュローも父親のカリスマ性を認めつつ、マイヅルとの愛人関係を知って以降は心に壁を作っている。それだけではなく、シュローは奴隷主と身売りされた奴隷という関係にもかかわらず、過酷な状況から拾ってくれた人物として神のように自分の父親を崇めるイヌタデの精神を不憫と考えているなど、自分の父親を不道徳な人物だと考えている。その点では奴隷主の父親を一番不道徳な人物だと考えているのはシュローなのかもしれない。イヅツミの足抜けを追わなかったのもそれが理由だと考察できる。

このように近年では日本の漫画やアニメ作品が海外でも配信されることで、海外ファンからの目線や評価で物語を紐解き、考察することも増えてきた。それによって、これまで見過ごされがちだった要素に光が当てられ、再注目するなど新しい展開も見せている。今後は海外ファンからの視点も合わせて漫画やアニメ作品を見ると、より一層楽しめるかもしれない。

『ダンジョン飯』公式サイト

Source
Variety

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アニメ『ダンジョン飯』第1話「水炊き/タルト」のネタバレ感想と考察はこちらから。

アニメ『ダンジョン飯』第19話「山姥/夢魔」のネタバレ感想と考察はこちらから。

アニメ版『ダンジョン飯』のオープニングのBUMP OF CHICKENの新曲「Sleep Walking Orchestra」と主要キャストはこちらから。

アニメ版『ダンジョン飯』のエンディングの緑黄色社会の新曲「Party!!」と追加キャストはこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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